3話 意見を聞こう
俺は許されたっ!
許されたんだぁぁぁ!
自宅の空気を大きく吸い込み、俺は安堵に身を震わせた。
いやぁ、短い時間とはいえ、まさか武器に監禁されるなんてな。
万年生きてて初めての出来事だったぜ。
よし、とりあえず今日はもう寝よう!
俺はパジャマに着替えて、ブラピと一緒に布団に入った。
あー、ブラピ暖けぇ。
そういえば帰り際に叢雲が、「わたくしのお手入れ、忘れてませんわよね?」と圧をかけてきたので、俺は「監禁しない?」とビビりながら質問したっけ。
ついでに羽々斬も「勘違いで告白した罰として、はぁちゃんのお手入れ期間も追加ね」と言っていた。
果たして勘違いしたのは俺だっただろうか?
まぁ、深く考えるのはよそう。
ブラピ暖けぇなぁ。
そうやって俺の意識は少しずつ眠りの海に沈むのだった。
◇
翌日、俺は早速ロザンナを訪ねた。
「アルトが謁見したいなんて珍しいね」
玉座に座っているロザンナが言った。
ここは魔王城、謁見の間。
八岐大蛇にぶっ壊されたけど、今はもう綺麗に修復されている。
玉座が前よりちょっとだけ安っぽくなっているように見えた。
「たまにはちゃんと、規則に従って会おうかと思ってな」
俺は肩を竦めた。
ロザンナは魔王代理の仕事中だったので、普通に謁見を申し込んだのだ。
「我はいてもいいのかな、アルト殿」
ロザンナの横に立っていたアスタロトが言った。
「あ……」
「外して」
俺が「ああ、いいぞ」と言おうとしたのに、ロザンナが先に返事をした。
アスタロトは恭しく礼をして、謁見の間から消えた。
すげぇな、アスタロトほどの魔族が礼するって、ロザンナは本当に魔王代理なんだなぁ。
本物の魔王はいつ起きるんだろう?
まぁ別にずっと寝ててくれても、いいのだが。
「それでアルト、今日はどうしたの? ぼくに会いたくなっちゃった?」
ロザンナは立ち上がり、軽い足取りで俺の方へと近寄る。
そしてバッと両手を広げたので、俺はロザンナを軽く抱き留めた。
「もっとギューッて!」とロザンナ。
「はいはい」
俺は少し強めにロザンナを抱き締めた。
年頃のはずなのに、いつまでもロザンナは抱き付いてくる。
まぁ可愛くていいんだけど、魔王代理の姿じゃねぇな。
「今日はちょっとした質問がしたくて来たんだ」
俺はゆっくりとロザンナを引き剥がす。
「なんでも聞いて!」
「もし俺が『ずっと一緒に居たい』って言ったら……」
「いいよ! 式はいつ挙げるの!?」
シキとは!?
死期かな!?
「やっぱりウエディングドレスは真っ黒がいいよね? 魔界総出で盛大にやって、その日は祝日にしようね!」
ああ、分かってる、コレは結婚式だ!
なんてこった、『ずっと一緒に居たい』はやっぱりプロポーズなのか!
いやちょっと待て俺。
俺はそもそも、羽々斬にそうは言ってねぇよな?
間違えた!
普通に間違えたぞ!
俺が聞くべきなのは『ずっと居たい』なんだよ!
今のは告白と勘違いするって!
いや、だが待てよ。
俺はちゃんと『もし』って言ったよな?
「濁った曇天の日だったら最高だよね」
ロザンナがキラキラとした瞳で言った。
「待ってくれロザンナ! 落ち着くんだ! 話はちゃんと聞こうな!?」
そう、俺はまだ言葉の途中だったのだ。
「うん?」
「俺は『もし』の話をしてんだ。で、俺の台詞が『ずっと居たい』だったとしても、同じ反応したか?」
俺が言うと、ロザンナの頬がみるみる赤くなる。
お、怒ったのか?
「ああああああ! もっと『もし』を強調してよ! ぼく普通に喜んじゃったじゃん! 結婚するかと思ったじゃん! もう! バカ!」
「わ、悪かった……」
顔を真っ赤にして頬を膨らませるロザンナは、小さい子みたいで可愛い。
てゆーか、なんでロザンナまで俺にプロポーズされたら受けるんだよ。
普通に驚いた。
俺もしかしてモテるのかな? とか勘違いしちまうぞ。
まぁ、ロザンナは優しいし、俺を傷付けたくないから断れなかったってとこか。
「えっと、『ずっと居たい』って言われた時の反応だっけ?」とロザンナ。
俺はコクンと頷く。
「そりゃ『どこに?』って聞くよ」
「あー、えっと前提も話した方が良さそうだな」
俺は羽々斬との出来事を掻い摘まんでロザンナに説明した。
「ふ……二人きりの空間で……それ言っちゃったの?」
「やっぱまずかったか?」
「それは勘違いするって。ぼくも絶対に勘違いする自信ある」
そ、そうか……。
羽々斬にはもう一回、謝った方が良さそうだな。
「それとロザンナ、これもアレだから? あくまで知ってるかどうかの確認だからな? 本気にするなよ?」
「うん。何?」
「月が……綺麗だな」
「月なんか見えないけど?」
ロザンナがキョロキョロとした。
だよなぁ!
月の話だよなぁ!
いやぁ、良かったぁ。
やっぱローカルじゃねぇか。
俺はロザンナの頭をポンポンと叩いた。
「ありがとうな、これで色々とスッキリした」
俺は小躍りしたいのを我慢して、笑顔を浮かべた。
◇
ロザンナはあとでアスタロトに「月が綺麗」の意味を聞いて悶絶した。
「あの時、アルトはぼくに向けて『愛してる』って言ったってことぉ!?」
ロザンナは自室でぬいぐるみをバンバンと叩いた。
そのぬいぐるみは何を模したのかサッパリ分からないウネウネした形状をしている。
「それなのにぼくってば、『月なんか見えない』って言っちゃったの!? それってアルトの愛なんて見えないって言ったのと同じじゃない!?」
アルトに『本気にするな』と言われたことは、もうとっくに忘却しているロザンナだった。
◇
「もし俺がエレノアの家で二人きりの時に『ずっと居たい』って言ったら、プロポーズだと思うか?」
自宅で夕食を摂っている時、俺は気軽な感じでそう聞いた。
「思いませんが?」
エレノアは料理をモグモグしながら答えた。
「そうか。じゃあ『月が綺麗』って俺が言ったら、告白されたと思うか?」
「?」
エレノアはキョトンとしたあと、ゴックンと口の中の物を飲み込む。
「何かの引っかけ問題ですか?」
「いや、そのままの意味だ」
「思うわけありませんが?」
「そっかぁ。そうだよなぁ。いやぁ、俺が『ずっと居たい』って言ったら俺にプロポーズされたと思った奴がいてな」
「なんですかそのアホは」エレノアがドン引きした様子で言う。「とんでもないアホですよ。当然、アルト様はそんな非モテの干物女など振ったのでしょう?」
まるで自分のことをモテモテのイケイケ女子だと思ってる風な言い方だな。
……思ってるのか?
「振ったというか、勘違いだと分かってくれた感じかな」
「そんなアホな勘違いをする奴がいるというのが、わたくしは衝撃ですね」
エレノアが首をフリフリする。
「もしかしてアルト様、そのメス豚にしつこくされているのでは、ありませんか? わたくしが激しくぶちのめしましょうか?」
「つっても相手、羽々斬だぞ?」
エレノアが羽々斬に挑んだら、秒で薄くスライスされちまうぞ。
「……よく考えたら、そんな勘違いもあるかもしれませんね!」エレノアが言う。「美しく明瞭な神刀様でも、勘違いぐらいしますよね! って、刀なのにプロポーズされたと思ったんですか!?」
「行き遅れって概念もあるみたいだぞ」
「武器なのに!?」
エレノアが驚いて目をまん丸くした。
だよなぁ!
ビックリするよな!
◇
俺は年頃の娘であるロザンナの意見を採用することにした。
二人きりで『ずっと居たい』って言われたら勘違いする可能性が高い、ってこと。
なので、俺は羽々斬に謝ろうと呼び出した。
夕食も終わって、ダラダラタイムも終わって、寝る前のこと。
「じゃじゃじゃ~ん! はぁちゃん参上! 今日は何を斬るの!?」
「いや、今日は昨日のことを謝ろうと思ってさ」
「昨日のこと?」
キョトン、と羽々斬が刀を傾げる。
……忘れてる!?
「昨日って何か斬ったっけ?」と羽々斬。
「何も斬ってないけど、お前は今、俺の心を斬った」
「えへへ♪ はぁちゃんぐらいになると、登場しただけで心まで斬っちゃうみたいで」
いや褒めてねぇよ!?
なんで微妙に照れてんの!
羽々斬はヒュンヒュンと俺の寝室を飛び回り、窓から外を見て言う。
「月が綺麗だねアルト!」
告白なのか月の話なのか、どっちだ!?
これで『今日も月が綺麗です』編は終了です。
次回はいつものごとくまだプロットできてないですが、
月曜までにはできる&1話も書けると思います!




