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万年を生きる平和主義ヴァンパイア、いつの間にか世界最強に ~俺が魔王軍四天王で新たな始祖? 誰と間違ってんの?~  作者: 葉月双
Short Story 今日も月が綺麗です

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2話 黒歴史の製造


「ねぇポンちゃん、何読んでるの?」


 ニナは本を読んでいるポンティの背後から忍び寄って、耳に吐息を吹きかけるように言った。


「うひゃぁ!」


 ポンティが変な悲鳴を上げたので、ニナがケラケラと笑った。

 その様子を見ていた勇者パーティも楽しそうに笑う。

 ここは最前線の陣地。

 ドラゴンたちとの戦闘は、最近ではほとんど起こらない。


「もう……ニナったら……」ポンティがムスッとして言う。「ちなみにこれはラブロマンス。ヤンデレ令嬢がヒーローの王子様を監禁しちゃうの」


「監禁!?」


 ニナは少し驚いて言った。


「犯罪じゃないか!」騎士ブルクハルトが言う。「騎士たちは何をしているんだ! そのような行為がゆるさ……」


「小説だってば」


 ポンティがやれやれと、苦笑い。


「監禁かぁ、考えたこともないなぁ」とニナ。


「そりゃ、ニナの大好きな相手は大聖者様だろ?」武闘家ロジャーが言う。「不意打ちしたって、そんなことできねぇだろうし」


「そりゃそうだろう」ブルクハルトが肩を竦める。「あの人より強い存在なんて、少なくとも俺は知らない」


「まったく存在しない、というわけでもないぞ」


 どこから現れたのか、トム爺さんことアンブロース・バルトルト・フローリス・ファン・クリーケンが言った。


「アンブロース様」ポンティが言う。「それって神々とかですか?」


「うむ。現在、神々は滅びたとされておるが、あのお方の持ち物である神刀、羽々斬は神と同等の戦力を有しておる」


「いやいや、アンブロース様。話の根本は強さそのものではなく、監禁ですよ」ブルクハルトが手をヒラヒラと振る。「武器に監禁されるなんて、普通はありえないでしょう」


「武器に監禁されるとか」ロジャーが笑う。「三流のジョークだろ」


「ないない」ニナがヘラヘラと言う。「トム爺さんが包帯に監禁されるぐらいないって」


「うぐっ……左手の邪悪がぁぁ! すまんがワシはちょっと外れるぞ!」


 アンブロースは【ゲート】を使ってどこかへ消えてしまう。


「あの人の左手、何が封印されてんだ?」


 ロジャーが不思議そうに言った。


「あたし知らないよ」とニナ。

「永遠の黒い歴史、かしらね」とポンティ。



 まずいな、武器に監禁されたなんて知られたら、笑いものになっちまうぞ俺。

 完全にアレだ、黒歴史ってやつだぞ。

 いや、そもそも誰も俺の現状に気付かないか!

 助かったぁ!

 待て、落ち着け俺!

 なんも助かってねぇよ!

 羽々斬はニコニコと楽しそうに俺を見ている。

 俺はコホン、と咳払い。


「【ゲート】を使っても、いいでしょうか?」


 俺はビクビクしながら言った。


「んー? なんでぇ?」


 羽々斬は軽く腰を曲げ、なぜか俺を見上げるような角度に顔を移動させ、挑発的な表情でそう言った。

 なんだろうな、この湧き上がる「分からせてやりたい」という気持ちは。

 って、相手は神刀だぞ!

 平均的なヴァンパイアの俺が勝てるわけねぇ!


「あ、叢雲っちがお祝いにくるって」


 羽々斬がそう言ったと同時に、空間が裂けて叢雲が出現。


「おりゃぁぁぁぁ!」


 叢雲はいきなり俺に斬りかかった。

 なぜ!?

 俺はギリギリで叢雲の攻撃を躱した。

 てか、お前、鞘に入ってこいよ!


 なんで抜き身できてんだよ!

 殺る気満々かよ!

 そういや羽々斬も抜き身のままだよな今!

 姿は人間だけども。


「わたくしより先にはぁちゃんが結婚するとか許されませんわ」


 なんでそんな怒ってんの!?


「はぁちゃんと結婚するなら、自動的にわたくしとも結婚しなければ許されませんわ!」


 なんでだよ!

 一夫多妻制ってやつか!?

 いやむしろ一夫多刀制か!?

 どっちにしても俺の身体が保たねぇな!

 こいつらのウッカリ斬撃を毎日浴びるわけだろ!?

 怖すぎるんだが!?


「行き遅れを気にしてるの?」と羽々斬。


「だぁれが行き遅れじゃぁぁい!」


 叢雲がクルッと羽々斬に切っ先を向けた。

 お前ら刀なのに行き遅れとかあるの!?


「って、はぁちゃん、どうして下等生物の姿に?」


 叢雲は心底不思議そうに言った。

 お前もかぁぁあぁぁぁ!

 刀至上主義者どもめぇぇぇ!


「アルトが刀に変身できないんだもん」

「え? そうなんですの?」


 叢雲がクルッと切っ先を俺に向ける。

 話す時にちゃんと相手の方を向くタイプかよ。


「変身できる種族ってそんな多くねぇよ」


 俺は小さく両手を広げた。

 俺も霧になれるけど、厳密には変身じゃなくて回避スキルだしな。


「ふぅん、そうですの」叢雲が言う。「そもそも、どうしていきなり、はぁちゃんに告白しましたの?」


「してねぇよ!?」


 羽々斬は叢雲になんて伝えたんだよ!


「しーまーしーたー!」


 言ってから、羽々斬が頬をふくらませた。

 ちょっと可愛い。

 いや、かなり可愛いな。

 頭を撫でたくなってしまった。


「2人の話が食い違っていますわね」叢雲は少し楽しそうな雰囲気で言う。「これはわたくし、名探偵叢雲の出番ですわね」


 お前、探偵だったことねぇだろ?

 だってずっと八岐大蛇に浸食されてたじゃん。

 いや、俺の知らないもっと昔に探偵だったことがあるのかも……いやいや、刀だぞ?


「アルトは言ったよね? 『ずっとはぁちゃんと一緒に居たい』って」


 ニュアンスが違ってねぇか!?

 それだと本当に告白みたいだが!?


「それはどう考えてもプロポーズですわ」と叢雲。

「でしょ」と羽々斬。


「……あれだ、俺はこの空間が気に入って、その、もうしばらく居たい的な意味でだな……」


 気持ちを伝えるのって、こんなに難しかったっけ?

 単純に羽々斬の勘違いだと斬り捨てるには、俺もちょっと言い方がアレだったのかも?

 とか思い始めてしまった。

 これはあとで、知り合いに確認してみねぇとな。


『ずっと居たい』は告白と勘違いされるか否か。

 ロザンナなら年頃だろうし、聞いてみよう。

 ついでにエレノアにも話題の1つとして軽く聞くか。


「でもそのあと、アルトは『月が綺麗だね』って言った」

「思いっ切り告白してるじゃありませんの!!」


 なんでだよ!?

 どうして月の綺麗さが告白に繋がるんだよ!

 サッパリ分かんねぇんだけど!?


「そこまでポピュラーな告白をしておいて、シラを切るとか男としてどうかと思いますわよ」


 んんんんん!?

 そうなの!?

 俺だけその告白方法を知らないってこと!?

 そういや俺、人生において愛の告白とかしたことねぇな。

 割と好きだった子はいたけど、もうとっくに死んじまったしな。

 って、思い出に浸ってる場合じゃねぇ!


「あー、言いにくいんだけど、俺、その告白を知らないんだ……」


 そう言うと、羽々斬も叢雲も「嘘でしょ?」と心底驚いたような表情を浮かべた。

 叢雲は刀の姿だけど、こう、雰囲気で。

 てゆーか今度、叢雲のお手入れをする時に人間に変身してもらおう。

 どんな姿なのか気になる。


「どう思うはぁちゃん?」と叢雲。

「本当かも。アルトってほら、そういうのアレじゃん?」と羽々斬。


 ねぇアレって何?

 そういうのって何?


「知らずに告白するとか……」と叢雲。


 いやいや、月が綺麗って言っただけだぞ!?

 世界中で普通に会話として使われてる……よね!?

 なんなら俺、エレノアにも言ったことあるぞ!


 あと入浴ざ……グリムにもな!

 夜に秘湯でダラダラしてた時に!

 エレノアはまだしも、俺もしかして知らずにグリムに告白したのか?

 地獄かな?


 え?

 ちょっと待って。

 グリムあの時、何て言ったっけ?


 確か「月か……見上げることなどなかったが……これは確かに」だったか。

 あれ?

 ちゃんと月の話じゃね?

 普通にローカルな告白なんじゃね?

 これもロザンナとエレノアに確認してみねぇとな。


「はぁ~」と羽々斬が溜息を吐く。


 俺はビクッと身を竦めた。


「なによもぉ! 知らずに告白とか止めてよぉ! 普通に結婚すると思っちゃったじゃん」


 羽々斬は頬を染めてから、再び膨らませた。

 それ可愛いぞ。


「めでたいですわ!」叢雲がハイテンションで言う。「はぁちゃんが結婚しない! 生きてて良かったですわ!」


 どんだけ先に結婚して欲しくねぇんだよ。


「あれ? でもはぁちゃんが結婚して、自動的にわたくしもアルトと結婚した方が良かったのでは?」


 叢雲が刀を傾げた。

 俺はスルーすることにした。


「てか、俺にプロポーズされたら受ける羽々斬にビックリだ」

「え? 受けるでしょアルトなら」


 羽々斬が真顔で言ったので、俺は少し照れた。

 ま、まぁ俺と羽々斬の仲だしな!


「わたくしも受けますわよ!」


 お前はなんでだよ!

 知り合ったの最近だろうが!

 そしてふと思ったのだけど、もしかして叢雲と結婚しても、自動的に羽々斬が付いてくるのか?


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