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万年を生きる平和主義ヴァンパイア、いつの間にか世界最強に ~俺が魔王軍四天王で新たな始祖? 誰と間違ってんの?~  作者: 葉月双
Short Story 今日も月が綺麗です

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1話 羽々斬との甘い生活?


「あ~そこそこ、いいぞ羽々斬」


 俺は畳の上にうつ伏せで寝ていた。

 そんな俺の背中を、羽々斬が鞘の先っぽでグイグイと押している。

 いわゆる指圧というやつだな。

 羽々斬に指はないけどさ。


「こってますねぇ、お客さん」と羽々斬。


 グイグイと、ツボを適切な強さで押す羽々斬。

 羽々斬は以前から指圧が上手だった。

 まぁ俺が教えたんだけどさ。

 なんで刀に指圧を教えたんだろね、当時の俺。


 でも教えて良かった。

 羽々斬は指圧の才能がある。

 刀を引退したら、指圧師として生きていけるはずだ。

 引退とかあるのか知らないけれども。


 さて、なぜこんな状況になったかと言うと。

 俺は今日、羽々斬のお手入れをしようと思って羽々斬を呼んだのだ。

 そしたら、羽々斬が「じゃあはぁちゃんの部屋でやって」と言うので、羽々斬の和室にお邪魔したってわけ。


 羽々斬の和室は畳4枚半の広さに、床の間と呼ばれる謎の空間が付随している。

 床の間には刀掛けが置いてあって、羽々斬は普段そこに鎮座しているのだ。

 和室の真ん中付近に小さな囲炉裏がある。

 ちなみにこの和室に出入り口はなく、窓が1つあるだけ。


 窓からチラッと外を見ると、綺麗な月が見える。

 つまり夜なのだけど、和室の中は明るい。

 光源ないけどな。

 まぁ羽々斬が作った空間なので、あんまり気にしなくていい。

 話を戻そう。


 一通り羽々斬のお手入れを終えると、雑談タイムが始まった。

 俺が「なんか最近、ずっと外を出歩いてるから疲れた」と呟き、羽々斬が「じゃあ、はぁちゃんがマッサージしてあげる」と。

 羽々斬はやたらと生命体を斬ろうとする危ない刀だけど、優しいところもあるんだよな。

 マッサージが終わると、羽々斬がお茶と和菓子を出してくれた。

 それがまた美味いんだ。


「ああ、もう俺、ずっとここに居たいぜ」


 俺は特に深く考えず、ただ思ったことを口に出した。



(はぁちゃんとずっと一緒にいたいってことぉ!? それってプロポーズ!?)


 羽々斬は少し驚いたけれど、ちゃんと愛があるのか確認しようと思った。


「アルト、月を見てどう思う?」


 羽々斬が言うと、アルトは一瞬だけ窓から月を見上げた。


「ああ、綺麗だな」

(きゃー! 愛の告白だぁぁぁ! 『月が綺麗』は愛してると同義! やっぱりさっきのはプロポーズだったのね!)


 世界共通ではないのだが、羽々斬とっては分かり易い愛の告白だった。


「そっかぁ。じゃあ、ずっと居ていいよ。今日からここがアルトの自宅だからね」

「ん? ああ、じゃあ自宅だと思って遠慮無く」


 アルトが畳みに転がって背伸びをした。



 俺はもう社会復帰できねぇかも。

 元々、社会に出てねぇけどさ。

 羽々斬の和室で、俺はダラダラと寝転がって時間をすり潰していた。

 室温は最適、湿度も最適、望めばお茶が出てくる。

 しかも羽々斬の指圧が付いてくるんだぜ?


 料理も好きにしていいってことで、俺は異次元ポケットから料理道具と食材を出して、楽しく料理して美味しく食べた。

 俺は完全にだらけ切っていた。

 100年ぐらい、ここにいてもいいのでは?

 まぁ、そう思ったのは最初の数時間だけ。

 今はというと。


「ちょっとアルト、いつまでゴロゴロしてるつもり?」

「そろそろ、はぁちゃんのお手入れ第二弾をしてくれない?」

「聞いてるの? どうして男の人って結婚したらダラダラしちゃうのかしら」

「ねぇ、何か斬りに行こうよ? 斬ろう? ねぇ斬ろう?」

「あーもー。アルトのこと斬っちゃうぞ!」


 鞘で俺の肩をバシバシ叩いてくる羽々斬。

 痛い、普通に痛いって!

 いや、斬られるよりマシだけども!

 とはいえ、俺はそろそろ帰還することを決めた。

 羽々斬が俺のことをめっちゃ構ってきてしんどい。


「あー、羽々斬、俺はそ……」

「はぁちゃん!」

「え?」

「はぁちゃんって呼んで」

「なんだ急に?」


 まぁ俺と羽々斬の仲だし、愛称で呼んでも別に問題はないけれど。


「羽々斬だと他人行儀でしょ?」羽々斬が真剣な様子で言う。「アルトはお婿さんなんだから、気軽に呼んでくれていいよ」


「そっかぁ、俺はお婿さんだから……って! 誰がお婿さんだ! なった覚えねぇよ!」


 ビックリした!

 なんで俺が結婚することになってんの!?

 しかも羽々斬と!?

 種族の壁がデカすぎるんだが!?


「もう離婚する気なの!?」


 羽々斬が驚いて鞘からすっぽ抜けた。

 そもそも離婚するにはまず結婚しないと!

 いや、してんのか、羽々斬の中では!

 どうしてだ!?

 部屋に入ったからか!?


「こっちは花嫁衣装まで用意したのに……」

「いつの間に!?」

「あ、見たい? 見せたげる」


 俺の返事を待たず、羽々斬がクルッとその場で宙返り。

 次の瞬間、羽々斬は人間の女の子に変身していた。

 見た目の年齢はニナぐらいか?

 いや、ニナよりは少し大人っぽいかも?


 髪型は姫カットで、髪色はカラスの濡れ羽色。

 少しだけ緑が混じっていて綺麗だ。

 瞳は闇のような漆黒で、見ていると吸い込まれそう。

 顔立ちは……この世の者とは思えないほど整っている。


 刀の時点で羽々斬は美しいので、人間になってもそりゃ綺麗か。

 俺の好みはもう少し年上の女性だけど。

 で、服装は白無垢と呼ばれる真っ白な衣装。

 羽々斬の黒髪とのコントラストが映える。


「どう? アルトが刀に変身できるなら、そっちの方がいいけど」

「できねぇよ!?」


 ヴァンパイアは霧にしかなれねぇ!


「だよねぇ」やれやれ、と羽々斬が肩を竦める。「だから仕方なく、はぁちゃんが下等生物に変身してあげたってわけ。感謝しなさいよね」


 んんんんん!

 人型の生物を下等生物扱いぃぃぃぃ!

 羽々斬ってナチュラルに上から目線なんだよな!


 よく考えたら神刀なんだから、そりゃそうか。

 神々が滅びた今となっては、羽々斬より上の存在っていねぇもんな。

 同格の奴は叢雲とかエクスカリバーとかいるけども。


 エクスのオッサン生きてるかなぁ?

 とか一瞬だけ考えたけど、まぁどっちでもいいか。

 羽々斬が俺に歩み寄ろうとして、つまずいた。


「はわっ!」


 変な悲鳴とともに倒れそうになった羽々斬を、俺がサッと支える。

 お?

 ちゃんと人っぽい感触だ。

 尖ってない!


「うぅ……この姿、慣れないから動きにくい……」


 羽々斬が俺にしがみつきながら言った。


「だろうな。俺も初めて見たし」


 てゆーか、変身した時の姿ってどう決まるんだ?

 ケイオスのオッサンとエクスのオッサンは、オッサンだったわけだろ?

 聞いてみるか。


「なぁ羽々斬、その姿は自分で選んだのか?」

「え? 知らない。変身したら勝手にこうなっただけ」

「そ、そっか……」


 ってことは、セルフイメージか?

 あるいは周囲のイメージを反映してるとか?

 そういや今までの人生で、変身について真面目に考えたことねぇな。

 全然、興味なかったし。

 いや、今も別に調べてまで知りたいわけじゃ、ねぇけどさ。

 そんなことを考えながら、俺はソッと羽々斬を解放。


「よく似合ってるぞ、その衣装」と俺。


 とりあえずヨイショして羽々斬の機嫌をよくしておこう。


「でしょ! まぁ、はぁちゃんって何でも似合うから!」


 羽々斬はニコニコと言った。

 よし、今なら言える。


「それじゃあ、俺はそろそろ帰るな?」

「は?」


 羽々斬が急にスンとして俺を見詰めた。

 怖いっ!

 てゆーか、本気なのか!?

 本気で俺と結婚する気なのか!?


 そもそも、なぜそうなったのか……。

 分からない、分からないが、ここはハッキリ言った方がいいな。

 そして言ったと同時に逃げ帰ろう。

 で、100年ぐらいほとぼりを冷ます。


「悪いけど羽々斬、結婚はしねぇぞ?」


 一応、婚約者っぽい立ち位置のエレノアいるしな。

 俺は【ゲート】を使おうとして、だけど魔力が霧散した。


「ざーんねーんでしたぁ♪」羽々斬が挑発的な笑みを浮かべる。「ここでは、はぁちゃんが許可した魔法しか使えませーん♪」


 マジで!?

 世界広しといえど、自分の武器に監禁されたのって俺ぐらいじゃね!?


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