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万年を生きる平和主義ヴァンパイア、いつの間にか世界最強に ~俺が魔王軍四天王で新たな始祖? 誰と間違ってんの?~  作者: 葉月双
Short Story 死神の残り湯

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7話 温泉で一杯やろう


 カリーナが泊まりに来てから2日後。

 聖職者の大集合だなおい。

 ここはとある国の主神殿の前。

 聖女と聖者がズラッと並んでいる。

 普通に50人ぐらいいるんだけど、お風呂の【浄化】にそんな人数必要か?


「これだけの聖職者なら」大聖女が言う。「阿鼻叫喚の地獄風呂もきっと【浄化】できるでしょう」


 瘴気風呂がすげぇ名称になったな。

 てゆーか、この人数はお風呂に入りきらないと思うけど……。

 順番に【浄化】するんだろうか?

 まぁやり方は任せよう。


「じゃあ行くぞ」と俺。

「はい。お願いします」とカリーナ。


 なんか知らねぇけど、カリーナがめっちゃ寄り添ってくる。

 カリーナはニナやロザンナと違って、遠慮がちに照れながら寄ってくるので、俺もちょと対応が分からない。


 あれか?

 結婚がどうのこうのと勘違いしてから、カリーナは俺のことを意識してんのかな?

 違ってたら恥ずかしいから言わないけど。

 カリーナの見た目年齢はニナと同じか、少し上ぐらいかな?

 どっちにしても俺の守備範囲には入っていない。


 ちなみにニナは実家でノンビリしていて、ロザンナは先に魔王城に戻った。

 とりあえず仕事を済ませよう。

 俺は聖職者たちを連れて魔王城へと【ゲート】した。

 魔王城の城門前を、聖職者を引き連れて通り過ぎる俺。


 住人たちが珍しそうに俺たちを見ている。

 実際、かなり珍しいはずだ。

 聖職者と魔王軍は、出会ったらとりあえず殺し合いをするような仲だと思うし。

 途中、アスタロトがいたので引き継いで、俺はグリムが滞在しているという部屋へと向かった。



「いやぁ……ワシのせいでなんか……大変みたいで……悪いな」


 椅子に座った綺麗なグリムが申し訳なさそうに言った。

 いや、こいつ、本当に綺麗になってんだ。

 骨がピカピカで、まるで新品の骨みたいに見える。


 その上、服が上等なゆったりとしたローブに変わっていた。

 森で見た時は薄汚れた黒い(いかにも死神に憧れてますって感じの)ローブだったけど、今のローブはまるで偉大な大魔法使いみたいな雰囲気だ。


「気にすんな。アンデッドたちは大喜びだったぞ」

「しかしロザンナは顔面蒼白だった……実に申し訳ない」

「大丈夫だって。風呂は俺の家で入ってたし、今は聖職者たちが【浄化】してる最中だしな」

「ならいいのだが……」


 意外と気に病む性格みたいだな。

 そもそもグリムにお風呂を勧めたのはロザンナなのだが。


「闇に属する貴様が聖職者を運ぶとは、貴様にも迷惑をかけたようだな」

「別にいいさ。俺の仕事は連中を神殿に送って帰ったら終わりだ」


 面倒ではあるけど、たまには仕事しておかないとな。

 てゆーかグリム、見た目と違って繊細な奴だな。


「ワシに何か、できることはあるか?」

「お? あるぞ」


 これはちょうどいい。

 そもそも頼みがあるから俺はグリムに会いに来たのだ。


「温泉に入って欲しいんだ」

「……ん? ワシ、まだ汚いか?」


 グリムがショックを受けたような雰囲気で言った。


「いやお前ピカピカだぞ! 光に属する骨かと勘違いするぐらい輝いてんぞ! これ以上磨いたら聖属性になっちまうんじゃねぇの!?」

「ワシが……聖属性に……? な、なんて恐ろしい……」


 グリムがブルブルと震え始めた。

 そうだよな、アンデッドだもんな、聖属性は苦手だよな。


「冗談だよ冗談」俺はヘラヘラと笑いながら言う。「温泉に入って欲しいってのは、単にそこを瘴気温泉にして欲しいわけさ」


「ほう」

「今回はたまたま、魔王城の風呂だったからロザンナが騒いだけど、俺しか知らない秘湯なら、何の問題もねぇ」


 エレノアにはその場所を教えてやろうと思っている。

 で、絶滅の旅団の連中にも「褒美をやろう」みたいな感じで瘴気温泉に入れる権利をやれば、いい上司っぽいだろ?


「よかろう。では早速、その温泉に案内してもらおうか」

「今か!?」


 アクティブだなおい!

 俺は引きこもりなのに、俺の周囲の連中はだいたいみんなアクティブ!


「ワシは暇なのだ」

「そ、そうか……じゃあ行くか」


 俺はグリムを連れて秘湯へと【ゲート】した。



 そこは魔界の片隅の山奥にある、誰も知らない本物の天然温泉だ。

 久しぶりに来たけど、何も変わっていない。

 実に自然豊かな場所で、鳥の鳴き声や風の音、葉っぱが擦れる音が聞こえてくる。

 まぁ、これからどす黒い景色に変わるんだけどな。


「よし、では入ろう」


 グリムはローブを脱いで、丁寧に畳んで綺麗な岩の上に置いた。

 グリムは瘴気を放ちながら温泉へと足を踏み入れる。

 その瘴気、出し入れ自由なのか。

 そういや、魔王城では瘴気を仕舞っていたなぁ。


「瘴気を出している状態が、自然な状態だ」とグリム。


 どうやら俺の表情を読んだらしい。


「魔王城で瘴気を出すと、妖精たちから激しいクレームが来て……」


 グリムは首を左右に振った。


「ああ、妖精たちか……」


 あいつらは普段からお喋りで、割と騒がしい。

 って、今思い出したけど、神殿に置き去りにしたビビはどうしたんだろうか?

 仮にも妖精女王で魔王軍四天王だし、自分で【ゲート】して帰っただろうけど。


「貴様は入らんのか?」

「あー、とりあえず一回、魔王城に戻って聖職者たちの様子を見てくる」

「そうか。ワシはしばらくしたら勝手に帰るぞ」

「ああ。じゃあまた」


 俺は【ゲート】で魔王城に戻る。

 そして大浴場へと向かったのだが、グッタリした聖職者たちが廊下に溢れていた。

 どうしたんだ!?

 全員、死にかけてねぇか!?


「大……聖者様……」聖女の1人が、俺を見て言う。「あそこはまるで、この世の地獄……」

「全魔力を……」聖者が言う。「注ぎ込みました……」


 なるほど、こいつらは魔力切れか。

 マジかよ、お風呂を1つ【浄化】するのに、こんな苦労するのか?

 そう思いながら脱衣所へ。

 そこでも死屍累々の様相だった。

 いや、誰も死んでねぇけどな?


「ああ、アルトさん……」フラフラのカリーナが浴場から出て来た。「ちょうど、【浄化】が完了しました……」


 倒れそうになったカリーナを俺が受け止める。

 最近、俺はやたらと誰かを受け止めている気がする。

 カリーナが頬を染める。


「ありがとうな。すぐに神殿に送ろうか?」

「そうしてください……清浄な空気が……吸いたい……です」

「分かった」


 俺はカリーナをお姫様抱っこして、念のため浴場を確認。

 ちゃんと綺麗な状態に戻っていた。


「ああ……恥ずかしいですぅ……」とカリーナ。


 いやでも、下ろしたらお前、倒れるんじゃね?

 そう思って、俺はすぐに聖職者たちと【ゲート】して神殿へと向かった。



 その夜。

 俺はエレノアと2人で秘湯の湯に浸かっていた。

 月明かりと星明かりが綺麗だ。

 ちなみに、お湯はしっかり薄暗く、謎の泡がブクブクしていて、周囲は瘴気が漂っている。

 近くの植物たちは闇の植物へと変貌していたけど、これはこれでいい。


「素晴らしい! 魔王城のお風呂より、こっちの方が素晴らしいですアルト様!」


 エレノアがクロールしながら俺の前を横切った。

 水しぶきが飛び散る。


「元気いっぱいだなおい……」

「広い! 広いぞぉぉぉ!」


 エレノアは奥の方まで泳いでいった。

 清酒でもやるか。

 俺は温泉から出て、服の異次元ポケットから清酒の瓶とおちょこ、それからお盆を出した。


 再び温泉に浸かり、お盆を浮かべ、その上におちょこを乗せる。

 清酒をおちょこに注ぎ、瓶は普通に石の上に置いておく。

 温泉にはこれが合うんだ。

 確か羽々斬が教えてくれたんだよなぁ。


 あ。

 そういや俺、羽々斬を3日間お手入れする約束だった。

 危ねぇ!!

 普通に忘れるところだった!

 てか忘れてた!


「この温泉のおかげで、わたくしは更に強くなる……」


 エレノアが平泳ぎしながら俺の前を通り過ぎた。

 温泉で強くなるのは無理なんじゃねぇか?

 あ、エレノアに剣術も教えておかないとな。

 またエクスのおっさんに会った時のために。

 やることが多いけど、まぁ今はいいか。

 グイッと清酒をやると、なんだか全てがどうでも良くなったのだった。


これで『死神の残り湯』編は終了です!

次回は羽々斬主体? の短い話になるかと思います。

お手入れしないとね。

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