6話 ヤミウツのロザンナ
(アルトがぼくを抱き締めているっ!)
ロザンナはもうニナのことなんて、どうでも良くなっていた。
(勇者じゃなくて、ぼくを選んでくれたってことだよね! 勇者よりぼくが好きってことだよね!)
ロザンナは変なところでポジティブだった。
(つまり……総合的にぼくの勝ちってこと!)
◇
(魔王の方を止めたってことは、アルトはあたしの味方ってことだね!)
地面に着地し、空を見上げながらニナはそう思った。
ニナは比較的、ポジティブな性格をしていた。
(あたしが勝ったも同然ってことね!)
◇
俺はまずロザンナを雑に風呂に放り込んだ。
それから、雑にニナを広間の椅子に座らせ、短気は損気だとコンコンと説いた。
ニナは神妙な表情でコクコクと頷いていたが、本当に理解したのだろうか?
「ふふっ、アルトに叱られるの久しぶり♪」
なぜか嬉しそうにニコニコするニナ。
別に叱ったわけではないのだが……。
俺的には長生きの秘訣を1つ教えた、って認識だったのだけど。
まぁいいか。
「よし、夕飯、食って帰るだろ?」
「もちろん」
よく分からないけど、ニナの機嫌はいいようだ。
「何が食べたい?」
「ドラ肉以外かな。食べ過ぎて飽きちゃった」
「分かった。確か前に捕まえたクラーケンが少し残ってたから……」
俺は頭の中で、いくつかのタコ……いや、クラーケン料理を思い浮かべた。
「料理もいいけどさ」ニナが微笑みを浮かべたまま俺を見る。「久しぶりに吸う?」
ニナが首を右に傾げ、右手で首をトントンと叩いた。
「お? そうだな。じゃあ、ありがた……」
「ちょぉぉぉぉっと待ったぁぁぁ!」
風呂から上がったロザンナが広間に入ってきた。
ロザンナはパジャマ姿だった。
黒いロングのワンピースで、いくつかの黒いリボンで装飾されている。
ちなみにうちの衣装室にあったパジャマだ。
「吸うなら! ぼくのを! お風呂でサッパリした綺麗なぼくを噛んで!」
「意外と出るの早かったな」
あんなにお風呂お風呂って喚いていたのに。
「早くないよ!?」
ロザンナが驚いて言った。
あれ?
そんなに時間経ったっけ?
壁掛け時計を確認すると、30分ほど経過していた。
なんてこった!
体感では10分しか経ってねぇよ!
短気は損気の話、そんなに長くしてたのか……。
「てか、今あたしの血を吸う話してんの。あんたはまた今度」
ニナがふんっ、とそっぽを向きつつ言った。
「だぁかぁらぁ、それが気に入らないってぼくは言ってんの」
ロザンナが言うと、ニナが溜息を吐いた。
これはまずい。
2回戦が始まりそうだ。
「2人とも吸うってことで、どうかな?」
俺が間を取り持つ。
「勇者の後も前も嫌だよアルト」
「あたしだって嫌だし」
相容れない!
この2人は相容れないっ!
「じゃあ、トランプで勝った方の血を吸うってことで」
俺はその場で、異次元ポケットからトランプを出した。
平和的に勝負させようと思ったのだ。
「いいよ。ぼくはかつてババ抜きの女王と呼ばれたことがあるんだよ?」
「あたしだって、ババ引きの天才って呼ばれたことあるし」
いや、ニナ、それはダメなんじゃ?
あと、ゲームはババ抜きなんだ?
とりあえず、俺はトランプをシャッフルして配る。
見ているだけというのもアレなので、俺も交じる。
そしてしばらくババ抜きが進み、俺が最初に上がった。
ニナとロザンナは真剣にババ抜きを続けている。
すげぇな、俺、こんな真剣なババ抜き見たの初めてかも。
「ここで……決めるっ」
ニナはすでに手持ち1枚で、ロザンナが2枚。
つまりロザンナがババを持っているということ。
ニナが小さく深呼吸し、カードを選ぶ。
俺までドキドキしてきたぜ。
「あああああああ! ババァァァアァアアアアアア!!」
ニナが天を仰ぎ、吠えた。
ロザンナはニヤリと笑う。
「大丈夫、またババを引かせればいいっ」
「ふん。これで終わりだよ、勇者。ぼくに歯向かったことを後悔しろ!」
ロザンナがカードを引いて、そして持っていたカードと一緒に場に捨てた。
そう、つまり、上がったのだ。
「負けたぁぁぁぁぁぁ!!」
ニナが床をガンガン叩く。
俺たちは床でババ抜きしてたんだよな。
「それじゃあアルト、吸って」
ロザンナが身を寄せてきたので、俺はグッと抱き寄せてロザンナの首筋に噛み付いた。
「ぐやじぃぃぃぃいい!」
ニナがギリギリと歯噛みしながら見ているので、ちょっと吸い難いな。
とか思ってたのだけど、ロザンナの血、めっちゃ美味いぞ!
割と夢中で吸ってしまったので、危うく眷属にするところだった。
危ない危ない。
いやぁ、俺も純粋なヴァンパイアだから、美味い血を吸うと幸せな気持ちになる。
「き……気持ち良かった……」
ロザンナがトロンとした表情で言った。
「そりゃ良かった。ロザンナの血、すげぇ美味かったんだけど、ロザンナって種族なんだ?」
そういえば、俺はロザンナの種族を知らない。
魔族ってことしか分からない。
「えっと……ぼくはぁ……」ロザンナは余韻に浸っているのか、甘ったるい声で言う。「世界にぼくしかいない……」
マジか!
ロザンナも絶滅危惧種だったのか!
「魔力だまりが……知的生命体の負の感情を集めて……そこから誕生した憂鬱と病みの化身、それがぼくだよ……」
なるほど。
なかなか魅力的な存在だな。
「あー、ぽいぽい」
ニナが納得顔で何度か頷いた。
「じゃあ種族名とかは、ないんだな……」
「うん……。良かったら、アルトが決めて……」
責任重大!
今後、第二、第三のロザンナが誕生するかもしれねぇし、変な名前は付けられない。
まぁでも、俺は名付けには割と定評があるんだ。
村で生まれたの子供の名前とか、俺に決めてくれって言ってくる村人いるし。
「よし、『ヤミウツ』にしよう」
「直球だぁぁぁぁぁぁ!!」
俺が種族名を提案すると、ニナが驚いた風に叫んだ。
種族名とかはあまり凝らずに、シンプルでストレートな方がいいと思うのだが。
人魚とか人狼とかまんまだろ?
ロザンナを見ると、ニコッと笑った。
「ヤミウツ、ぼくは今日から、世界に1人だけのヤミウツのロザンナ……」
「気に入ったか?」
「うん! とっても! ありがとうアルト!」
ロザンナは俺に抱き付いて、それから俺の頬にキスをした。
おっと、可愛いことするじゃねぇか。
「んぎぃぃいいいいいい!!」
ニナがなぜか自分の服を噛んで引っ張っていた。
どうしたんだ!?
と、エレノアとカリーナがゲートアウトしてきた。
「アルト様!? なぜロザンナと抱き合っているのですか!?」
エレノアが酷く驚いた様子で言った。
「まぁ色々あったんだよ」
俺はロザンナを離して立ち上がる。
説明するの、面倒臭い。
「え? 普通にぼくを呼び捨てにした?」
ロザンナは驚愕の表情でエレノアを見た。
エレノアはハッとした表情で固まる。
「ききき、気のせいですよロザンナ様。わたくしはあなた様の忠実な下僕! 呼び捨てなどと、そのようなこと、絶対に絶対にありませんとも!」
エレノアは膝がガクガクと震えていた。
「大浴場を勝手に開放した件もあるし、お仕置きした方がいいよね?」
ロザンナが笑顔で言った。
「あ! わたくし最前線に行く用事がありましたぁぁ! 待ってろよドラゴンどもぉぉ!」
エレノアが【ゲート】でいなくなった。
「あ、えっと、アルトさん……あたくしはその……」
カリーナが照れた風に俺を見た。
「とりあえず夕飯食って、なんなら泊まっていけよ。聖女たちが集まるまで」
送り迎えするの面倒だし。
「は、はい! ありがとうございます!」
カリーナが勢いよくお辞儀した。
「あたしも! あたしも泊まる!」
「じゃあぼくも! ぼくも泊まる!」
「ああ、泊まっていけ。でも喧嘩したら追い出すからな?」
俺はかなりいい気分だったので、快くみんなを泊めることにした。
その後は特に何もなく、平和に時間が過ぎ去った。
俺は夜中にコッソリと魔王城へと移動し、瘴気風呂に入った。
「おや、アルト様、奇遇ですね!」
「エレノア、お前、また入ってんのか」
「ええ! だってアルト様、このお風呂本当に気持ちいいですし、それに魔力が増えるんですよ!」
確かにかなり気持ちいい。
ただ、魔力が増えたような感じはしねぇな。
と、他のアンデッドたちもゾロゾロと入って来た。
夜中でも盛況なだおい。
「はぁ~」エレノアが長い息を吐く。「ロザンナはこの素晴らしい風呂を【浄化】するとか、正気とは思えませんね」
「確かにもったいないな」
俺はふと思った。
この風呂を作ったのがグリムなら、あいつをどっかの秘湯に入れちまえば、そこが瘴気温泉になるのでは?
幸いなことに、俺はいくつかの秘湯を知ってるしな。




