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5話 キレる者も丸くなる


「おや、早かったですね」パラソルの下でアイスを食べているマイルズが言う。「さすがアルト様」


「バーキューの準備はバッチリですよ、アルト殿」


 アスタロトが笑顔で言った。

 ちなみにアスタロトはネビロスとビーチボールをぽーん、ぽーん、と2人でパスして遊んでいた。

 それ楽しいの?


「そちらの方が乙姫様ですか?」


 ビーチボールを受け止めながら、ネビロスが言った。

 どうやら、パス回しは終わったようだ。

 俺はとりあえず、乙姫とそのメイドを紹介する。


「バーベキュー早く!」


 砂浜で跳ね回るメービー。


「こらこら、グリルに砂が付いちゃうだろ?」


 俺は優しい口調でメービーを注意した。


「あ、ごめーん」


 メービーは素直に謝って、跳ねるのを止める。

 うーん、いい子だ。

 海の幸でなければ付き合いたかった。

 俺のこと好きだし。


「あの、アルトさん……」乙姫が申し訳なさそうに言う。「輝く者……ルシフェルが追ってくるのでは……?」


「平気だと思うけどな」


 あっちにはサビナいるし。

 それはそれとして、バーベキューが始まる前に呼びに行った方がいいか。


「しかし……」と乙姫。


「分かった。じゃあ俺が見てくるから、食材を切り分けててくれ」


 俺は異次元ポケットから、いくつかの食材を取り出す。


「これは!」メイドが驚いて言う。「なんだかすごく魔力に溢れた食材ですが!?」


「ドラゴンの肉、アウンズンブラの肉、あとはなんか、よく知らない鳥の肉と、うちで育てた野菜たちだ」


 ドラ肉はもう残り僅か。

 補充したいけど、ドラゴンたちは人間とも魔王軍とも停戦している。

 ……竜王に尻尾だけ少しくれ、って言ったらどうだろう?

 再生するはずだしな。

 いや、さすがに悪いか。


「す、すごい!」メイドがキラキラした瞳で食材を見ている。「どれも普通には手に入らない食材!」


 野菜とアウンズンブラの肉はいっぱいあるが?

 まぁいいや。


「とりあえず、サビナたちを呼びに行ってくる」


 そろそろサビナが輝く者ルシフェルとやらを倒して、全てが解決している頃だろう。

 俺は【ゲート】を使おうとしたのだけど、なぜかキレる若者が飛んで来た。

 そう、昔、俺を殴った奴だ。

 なんでここに!?

 サビナたちのところに行ったんじゃ?


「くくくっ、乙姫、俺からは逃げられんぞ」キレる若者が言う。「お前には俺の魔力の痕跡を残している。離れても無駄だ」


「ルシフェル……やはり追ってきましたか……」


 乙姫が苦虫を噛み潰したような顔で言った。

 え?

 このキレる若者がルシフェルなのか?

 じゃあ、やっぱ大したことなくね?


「お前が連れて来た助っ人たちは確かに強かった……、正直、驚いたぞ」


 よく見ると、ルシフェルはボロボロだった。

 すでにサビナたちと一戦交えたらしい。

 サビナと戦って生き残ったのか、すげぇな。

 いや、逃げてきたのか?

 なるほど、サビナに勝てないと分かって、乙姫を追う方向に切り替えたんだな?



 サビナは地面に寝転がって空を見ていた。


「神でもないのに……なんであんなに、強いの……?」


 ルシフェルと戦った感想である。

 戦った時間は僅かだったが、正直、勝てるか微妙なラインだった。

 だが別に負けたわけじゃない。

 途中でルシフェルがどこかに飛び去ってしまったので、勝敗は決していない。


「こ、怖かったぁぁぁ!」エレノアが膝から崩れ落ちる。「サビナでも互角とか! なんだあの強さは!」


「サビナ殿が勝っていたら」ディアナが残念そうに言う。「輝く者をふん縛ってギルドに報告したかった……」


「たぶんこの世に1人だけの種族だよね、彼」とリク。


「お前ら……なんでそんな逞しいのか……」


 エレノアが呆れた様子で呟いた。


「てか、ロキさんが言ってた通りだね……」


 ロザンナが鎌を仕舞って、ヘロヘロと座り込む。

 ちなみに、周囲にはパンデモニウムの住人たちがぶっ倒れている。

 とりあえずルシフェル以外は全員、すぐに立てない程度には叩きのめしたのである。


「邪神ババアが神ぐらい強いって……言ってた、ルシフェルと互角のわたし……結構、強い?」とサビナ。


「あんた、自覚ないの? めちゃくちゃ強いよ?」


 ニナが苦笑いしながら言った。


「僕らが束になっても、あなたには敵いませんよ」


 リクは丁寧に言った。


「うむ。その通りだ。正直、我らとは次元が違う」


 ディアナはグングニルを杖みたいにして、なんとか立っている状態だ。


「自分の強さが分からないとか、そんなアホなことがあるのか?」


 エレノアが首を傾げた。


「う……アホじゃないし……。ただ、アルト君が化け物すぎて……あんまり実感なかっただけ……」


「「アルトは仕方ない」」


 ニナとロザンナの声が重なった。

 2人はそのことに驚き、顔を見合わせ、そして「ふん」と同時にそっぽを向いた。

 息ピッタリじゃん、と2人以外は思ったが、誰も口に出さなかった。


「それでそのアルト様は?」とエレノア。

「人魚と一緒に王宮に向かったよ」とリク。


「じゃあもう解決してるわね」ニナが言う。「ルシフェルも飛んで行く時、『乙姫がっ』 

って言ってたし」


「なるほど、こういうことだな!」エレノアが言う。「すでにアルト様は乙姫を救出し、それに気付いたルシフェルが追い、今頃アルト様にボコボコにされている、と」


「そ。だからあたしたちは、もう砂浜に戻ってればいいよ」


 頷きながらニナが言った。


「では帰る前に、新種っぽい奴を……」


 ディアナが言って、リクと2人でパンデモニウムの住民を1人拘束。


「……本当に攫うんだ……」サビナが驚いて言う。「人間、こわ……」


「報告したらちゃんと帰す」ディアナが言う。「我々は魔王軍ではないからな」


「あ?」ロザンナが反応する。「魔王軍が極悪非道だとでも?」


「違うとでも?」とディアナ。


「まぁまぁ……」サビナが間に入る。「アルト君は……君たちの喧嘩なんて……望まないと思うよ?」


「確かに」とディアナ。


「ぼくとニナの喧嘩も、いつも止めるしね……って、今日は止めてくれなかった!」

「グリムさんが止めてくれたから、別にいいと思うけど」


 リクがやれやれと肩を竦めた。


「それでわたくしたちは」エレノアが言う。「ギルドに向かえばいいのか?」


「だね」「うむ」


 リクとディアナが頷いた。



(ぎゃぁぁぁああ! 魔神がいるぅぅぅぅぅ!)


 乙姫を追ってきたルシフェルは、やっとアルトの存在に気付いた。


(なんでこいつが!? 俺の日頃の行いが、ダメだったのか!? 悪行が足りなかったのか!?)


 ルシフェルは目玉が飛び出るのかと思うほどに、心底驚いていた。

 それもそのはず。

 この世で唯一、絶対に勝てない相手がそこにいたのだから。


(乙姫とどういう関係なんだ!? 恋人ではないだろう!? もしそうなら、乙姫を攫った俺はとっくに殺されている!)


 ルシフェルは冷や汗が止まらない。


「……ルシフェル?」と乙姫。


「あ、いや、その」


「……大丈夫でしょうか?」乙姫が首を傾げる。「戦闘のダメージが、大きいのでは?」


「ま、まぁ、そうだな」ルシフェルは引きつった笑みを浮かべる。「と、ところで、そちらの彼とは……」


「アルトはメービーちゃんの助っ人!」


 砂浜に座っている人魚、メービーが言った。


(この魚類がぁぁぁぁ!! テメェ! なんちゅー奴を助っ人に呼んでやがるんだ!! 嘘だろ!? 信じられるか!? 普通の人魚が、恐らく世界最強であろう魔神を助っ人に呼んだとか!!)


「ねーアルト♪」

「ん、ああ。そうだな」


 アルトは少し照れた風に言った。


(何、お前らデキてんの!? そういう関係!? 魔神と人魚で!? 産卵したら人魚魔神とかいう、謎の存在が生まれるのか!?)


 思考がめちゃくちゃだ、とルシフェルは思った。

 冷静になるため、ルシフェルは一度、大きく深呼吸。

 そしてアルトを見る。

 目が合って逸らす。

 怖い。


「あの……昔、殴ってすみません……」とルシフェル。



 なんか丸くなってるぅぅぅぅぅ!!

 俺は心底、驚いた。

 ルシフェルは昔、問答無用で俺を殴った。

 それが今、話が通じるどころか謝罪まで!!

 これが月日の流れってやつか!

 キレる若者でも時間が経てば丸くなるもんだなおい!

 あ、でも乙姫を攫ったから善人になったわけじゃないよな。


「その件はもういいさ」俺が言う。「古い話だしな」


「そう言ってもらえると俺も心が休まる……」

「今はそれよりも乙姫の件だ」


 俺が言うと、ルシフェルはビクッと身を竦めた。


「それは、ちょっとした痴話喧嘩みたいな……」とルシフェル。


「だとしても、拉致はダメだろ」



(正論言ってんじゃねぇぇぇぇぇ! テメェじゃなきゃ、今すぐぶっ殺してやるところだが!! だが!)


「まぁ……ダメかも……しれんな」ルシフェルは乙姫を見詰める。「悪かったな……。次はもっと違う手段で、アプローチする……」


 魔神がバックに付いているならば、強引な手段は使えない。

 下手をしたらパンデモニウムごと消滅する可能性があるのだから。

 それだけはダメだ。

 ルシフェルにとって、パンデモニウムはやっと作り上げた理想郷なのだから。


(とにかく! 今はご機嫌を取って、事なきを得るのが最善!)


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