表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/106

10話 勇者の剣の秘密は墓まで


 映像の中で、街が半分ぐらい消し飛んだ。

 勇者一行とジョージの戦いの余波で、だ。

 なんて恐ろしい戦闘をしてんだこいつら。

 周囲の人たちが無事に逃げられたことを願う。


「ジョージ頑張れ」とロザンナ。


「ふ、やはり四天王と言ってもアルト様に比べたらこの程度……」


 エレノアはボソボソと言った。


「え? 何?」とロザンナ。


「ちちちち、違います! 独り言です!」

「あ、そう」


 ロザンナはエレノアに少し冷たいな。

 もうちょっと優しくしてやってくれ。

 とか思いながらジョージたちの戦闘を見る。

 ジョージは人狼らしく、スピードとパワー、そして鋭い爪をメインに戦っている。

 もちろん身体強化済み。


 騎士と武道家が2人がかりで、それでもジョージを押さえられない。

 ジョージ強いじゃん。

 ジョージは近接メインのくせに、時々爆発系の魔法も織り交ぜている。

 今のところ、攻撃には爆発系しか使っていないので、それしか使えないのかも。

 あ、【ゲート】使ったって言ってたから空間系も少し使えるのだろうけど。


「どいてどいて!」


 ニナが騎士と武道家の間からジョージに斬りかかる。

 ジョージはニナの剣撃を爪でガード。

 ニナがニヤっと笑う。

 瞬間、凄まじい雷撃がジョージを襲った。

 ジョージが叫び声を上げ、距離を取る。

 ニナは追わず、その場で剣を天にかざす。

 そうすると、空に魔法陣が浮かぶ。

 それを見上げて、ジョージが驚愕の表情を浮かべた。


「喰らえ! バッチバチ!」


 ニナが剣を振り下ろすと、魔法陣からいくつかの稲妻が落ちて周囲を破壊する。

 ジョージは一発当たったみたいだった。

 てか、バッチバチって何だよ。

 技名ぐらい考えとけよニナ。

 お前、相変わらずテキトーに生きてんのな。


「な、なんて恐ろしい魔剣!」


 エレノアが身を乗り出して言った。


「バカな……」ロザンナが目を見開く。「勇者が魔剣を使うなんて。それも伝説級の魔剣……」


 んんんん?

 俺の冷や汗が再び滝のように流れ始める。

 映像の中では魔法使いと聖女が魔法攻撃を繰り出していた。

 武道家と騎士は魔法を使っている2人を護衛するように、2人の近くで構えている。


「あの剣、そんなすごいのか?」


「あれほどの魔法を撃てる魔剣はそうそうありませんアルト様」エレノアが真面目に言う。「いえ、もちろんアルト様ならあの程度の魔剣に後れを取ったりしないと思いますけれど」


「すごいって言うか」ロザンナが言う。「伝説級の『魔剣ライトニング』だよ。ぼくの知る限り、あのレベルの剣は5本とない……はず」


 へ、へぇ……。

 ダラダラと滝汗が流れる。

 たぶんその5本、全部うちの宝物庫にあるんじゃないかなぁ。

 おっかしぃなぁ。

 魔剣ライトニングって、『羽々斬』とかに比べたら明らかに格落ちする武器だったと思うんだけどなぁ……。


「一体、勇者はあれほどの剣をどこで……」とエレノア。


「あれならそこらの聖剣よりずっと強いよ。本当、どこで見つけたんだろう?」


 い、言えない。

 俺がプレゼントしたって言えない。

 言ってはいけない。

 そう、これは墓まで持って行こう。

 だってさぁ!

 ニナが旅に出るとか言うからさぁ!

 護身用にって思って渡したんだよぉぉぉ!

 ニナは剣術が上手かったし、ライトニングぐらいなら使いこなせるだろう、って軽い気持ちだったんだよぉぉぉ!


「ほほほ、本当に、どこで、見つけたんだろうな?」


 俺は話を合わせようとして声が震えてしまった。

 くっ、絶対に魔王軍の連中に知られてはいけない!

 なんならニナが知り合いってことも隠した方がいい。

 てゆーか、ちょっとニナと話そう。

 うん、色々と話し合った方がいい。

 たとえば、俺が四天王を辞めるまで勇者活動は休止してくれ、とか。

 俺さえいなければ、あとは好きにしていいから。

 あ、エレノアとロザンナは俺が自宅に戻る時に連れて行こう。

 2人が魔王軍に残ってニナと戦うとか、どっち応援すりゃいいの、って話さ。


「ジョージ、頑張ってるけど……」


 ロザンナが言って、俺は再び映像に注視。

 確かにジョージは1人で5人を相手に戦えている。

 が、稲妻を喰らったダメージが大きいのか、動きが鈍い。

 騎士の剣で斬られたり、武道家に殴られたりしている。


「でも負けそうだな」と俺。


「……撤退するよう言ったよ」


 ロザンナが言うと、映像の中のジョージが笑った。


「貴様らは強いな。ワシをここまで追い込むとは」


 ジョージが【ゲート】を開いた。

 勇者一行が「逃げるのか!?」とか「逃がしてはいけません!」とか色々言っている。

 ニナは手を振っていた。

 お前だけ緊張感ねぇなぁ!


「次は四天王最強が来るぞ。心せよ」


 ジョージがゲートを潜った。

 同時に、映像がこの城塞都市の前に変わった。

 ジョージがそこに移動したからだ。

 ロザンナが【遠隔透視窓】を終了させて、長い息を吐いた。


「今回の勇者は、魔剣ライトニングもあるし、前回の勇者より上だと思う」ロザンナが言った。「仲間たちの質は前回とそう変わったものじゃ、ないみたいだけど」


 だいたいライトニングのせいかっ!

 おっかしーなぁ、そんな強い武器じゃなかったと思うんだけどなぁ。

 勇者のあれやこれやが、ライトニングの能力を引き出したとか?

 うーん、でも前から雷ぐらいなら落とせたよなぁ、ライトニング。


「純粋な剣の腕もなかかなのものでしたねアルト様」

 

 エレノアよ、そこに気付くとはさすがだ。

 そう、ニナも割と強いんだよな。

 あ、やべぇこと思い出した。

 ニナに剣術教えたの俺じゃん!

 なんか強くなりたいって言うから、俺が長い人生で学んだ剣の基礎を教えてやったんだ!

 まぁ俺は基礎しかできないんだけどな!


 何でも囓るだけなんだよ、ヴァンパイアだけに!

 あははははは、笑えねぇよ!

 なんで勇者を育てて剣までプレゼントしてんだよ俺!

 魔王軍四天王なのに!

 いや、まぁ自分の意思で四天王になったわけじゃ、ないけどさ。

 でもバレたら裏切り者って言われるよな絶対。

 粛正とかされそう。

 なんせ、会議に参加しないだけで粛正とか手紙に書いてあったしな。


「アルト様?」「アルト?」


 俺が反応しなかったので、エレノアとロザンナが同時に声を上げた。

 エレノアはビクッと身を竦め、ロザンナは少し不愉快そうに顔を歪めた。


「まぁ、確かに勇者は強いみたいだけど」治まれ、俺の冷や汗っ。「俺にかかれば、どうってことは、ないな……」


 なんせ話し合うからな!

 なんせ友達だからな!


「おー!」

「さすがアルト様!」


 2人が尊敬の眼差しを向けてくる。

 あ、やべぇ、騙したみたいで心が痛い。

 みたい、って言うか騙してるんだけどな!


「行くなら【ゲート】で送るよ? ぼく、あの街知ってるから送れるよ? アルトと勇者の戦い、すごく見たい! 現地で見たい!」


 ロザンナが立ち上がり、ワクワクした様子で言った。

 ああ、ロザンナよ、お前は本当に俺が最強のヴァンパイアだと思ってるんだろうなぁ。

 しかし残念!

 俺は平均より少し弱いんだ!

 ちなみに、ゲートは1度行ったことのある場所にしか繋がらない。


「いや、今日はちょっと……その、休んだ方がいいかなって」


「なるほど!」エレノアが手を叩く。「勇者たちに休息を与え、万全の状態で叩きのめすと! そういうことですな!」


「あ、ああ。そうだな」


 もう否定するのも面倒なので、俺は頷いた。

 てゆーか、ロザンナが一緒に来たらニナと話し合えねぇから却下な。

 覗き見されるのも困るので、【遠隔透視窓】の事前登録もしない。

 まぁ、登録したいって言われてないけどな!


「ふぅん。じゃあ、ぼくも今日はもう寝るね?」


 言って、ロザンナが俺のベッドへと向かった。


「待たんかい」


 俺は背後からロザンナの肩を掴んだ。

 ロザンナがキョトンとして振り返った。


「いや、自分の部屋に戻れよ」


 俺が言うと、ロザンナは酷く驚いたような表情を浮かべた。


「そんな顔してもダメだ。戻れよ。エレノアもな」


 エレノアを見ると、まだソファに座っていた。

 そしてロザンナと同じように驚愕していた。

 なんでお前ら俺の部屋に居座る気なんだよ。

 まじで帰れよ。

 1人にしてくれよ。

 ニナと何を話すか吟味したいしな。

 話す時間があまり取れなかった時のために、しっかり台詞を考えておかないと。

 俺は平和主義者だが、ニナの仲間たちから見たら、ただの魔物だしな。


20話まで毎日更新していきます!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ