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1話 さやかからのラブレター





 下駄箱に手紙らしきものがあった。心臓が貫かれたように硬直し、俺は血の気が引いていくのを感じると共に、ちらりちらりと前方左右を隈なくチェック。

 うむ、まだ早朝。流石に人の気配もなし。俺はいそいそと手紙を開封する。宛名はなさそうなので、中に書いてあるのだろう。


『ゆうとくん。今日の放課後、屋上で待ってます。一応これは果し状です。 さやか』


 OK、アンダスタン。まず俺の脳内データベースをフル回転させた結果……とちょっと待った、手紙はまずバッグに仕舞おう、誰か来たら困るしな。


 気を取り直してフル回転。まず俺に「さやか」という名前の知り合いは2人いる。1人目、クラスメイトの東堂沙也加。もう1人は、三枝彩果。俺の姉ちゃんだ。


 普通のご家庭であればここで特定できるのだが、俺の姉はこういうことをしてもおかしくない頭のおかしい姉なのだ。


 ぶっちゃけ姉の線濃厚なのだ。


 一方、クラスメイトの東堂さんは、まじ大人しい。まじ大人しいのだ。どれくらいまじなのかって言うと、大抵の人への会話の返しが「……はい」か「……そうですね」の2択なのだ。


 はいここまで来たら皆さんお思いですよね?じゃあ姉一択じゃねーか、破り捨てて家に帰って文句を言おうぜ!ってさぁ。


 でも東堂さんと俺、仲良いんだよ。


 いやなんかそういう大人しくて静かで、もはや無口!ぐらいの女の子って何か惹かれないだろうか?

 一匹狼って言うと、強そうでお近づきになれなさそうだが、一匹ハムスターと聞くと近づきたくならないか?


 東堂沙也加はつまり、一匹ハムスターなのだ。事実、ほっぺもなんか柔らかそうだし、小動物的だし、ハムスターが飽きずにぐるぐる回転するみたいに、ずーっと絵ばっか描いてるし。でもちゃんと見たことない。絵描いてる時に近づいたら、

「何も描いてないです」

 とか言って隠してくるし。じゃあ学校で描かなければよくない?


 話が逸れまくったが、この手紙の送り主が東堂さんの可能性は50%はあるのだ。


 東堂さんは明らかに絵を描いている時に「描いてないです」なんて言う子なのだ。つまりこの手紙も、明らかに!明らかにラブレターなのに、「一応これは果たし状です」なんて書いているのだ!しかも敬語だし!なぜか東堂さんはタメなのに敬語で話してくるのだ。


 いやでも、東堂沙也加は、こんなにエンタメ性に富んでいる人物ではない。


 かといって、捨てきれない。


 しかも放課後なので、俺はあと9時間ぐらいはどっちが来るのか分からない。


 俺はさながら名探偵の気持ちになってきた。


 こうなったら、9時間以内にこの『さやか』がどっちなのか当ててやるぜ。


「見てろよさやか……!」

「え……」


 まずい、と思って振り返った時にはもう遅かった。東堂さんがいたのだ。

 俺と東堂さんが仲良くなった理由はまあ色々あるのだが、そのうちの一つが、クラスで1.2番目の登校時間の早さだということもあり……


 ここで東堂さんが来ることを警戒しなかった俺の罪は重い。


「あ、いや、東堂さん。おはよう」

「おはようございます……」


 のお辞儀が途中の角度で止まって、上目遣いでこちらをじとーっと眺めている。明らかに!明らかに!「さっきのさやかって私のことですか」と聞きたがっている目だ……。


 いやしかし待てよ!


 この手紙を今朝仕込んだとしたら、東堂さんが今登校してくるのはおかしいんじゃないだろうか。


 俺より早く来て、手紙を下駄箱に入れる必要がある。

 つまりこの手紙は姉のやつか。

 なんかちょっとガッカリしている自分がいる。いやちょっとどころじゃない。朝から全パワー吸われた気分だ。


「あはは、いや〜姉貴のさやかがよぉ、俺のーー」


 いやしかし待てよ!


 この手紙を仕込んだ犯行時刻が本当に早朝などといった証拠はどこにあるだろう?


 思えば俺が今日家を出る時、姉貴の女にしてはバカでかい、なんなら俺の靴よりでかい靴が玄関にあったのを俺は見たぞ。あいつまだ寝てるのか?と思ったし、俺は姉貴に

「学校先行くぞー!起きろよ姉貴ー!」

 と朝から叫んだじゃないか。


 だとすると、放課後!この手紙が放課後に仕組まれている可能性が高い。


 まだだ、まだ焦るな。証拠はまだ揃っていない。


「いや、俺のーー登校時間より、あまりにも遅いからさぁ、明日は叩き起こしてやった方がいいかなーとか考えててさ。身内が遅刻するのも気分良くないしさ」

「そ、そうなんですか」


 よしセーフ!乗り切ってる。乗り切ってなくても乗り切ってる。東堂さんはこれを深追いするようなタイプじゃないのだ。

 ハムスターだから。狼じゃないから。平和主義だし。

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