乳母車
[実際の体験談を元に作ったお話です]
これは私の母親の友人(作中では美代子)が若い頃、実際に体験したコトを元に作ったお話です。
日本は紀伊半島に位置する某有名海水浴場での休日バカンスを終えた美代子とその友人Aが乗る軽自動車が、田舎によくある草木に面した一車線道路を走っている。辺りはもう暗い。数メートル間隔に建てられた街灯が弱々しく光る。
『どれぐらいで着きそう?』
運転する美代子に自宅までの所要時間を尋ねる友人A。
軽いトーンで返す美代子。
『今走ってる路抜けたら高速だから…30分ぐらいかなぁ〜』
友人A『助かる〜明日、朝早いんだよね〜』
取り留めのない2人の会話はとある瞬間止まった。
2人は前方右側(美代子の運転席近く)のある一点を見据え固まった。それと同時に美代子は車のスピードを徐々に落としていく。タイヤの表面で小さな石を弾く音が聞こえた頃、重たい沈黙を破ったのは友人Aだ。
友人A『——美代子、アレ….おかしくない?』
アレとは———。
美代子は彼女よりも数秒先にそのアレを認識していたが、極力は気づかないフリをして通り過ぎたかった。
しかし、友人Aが”視える人間”だと言う事を
完全に忘れていたのだった。
ちょっとワクワクしたような声で友人Aが言う。
『アレ、絶対そうだよね? ね?』
美代子と同様に彼女も視える人間ではあるが、恐怖心なんてものは持ち合わせていない性質だ。寧ろ、自分からホラースポット巡りなどをしたりするぐらいだ。
そんな手前、逃げ出すようなマネをするのはいささか自身のプライドが許せなかった美代子だが、何も恐怖心だけではなく僅かながら興味もあった。何故なら今までもこの世の者ではないない存在は見てきたが、何か惹きつけらるモノを感じていた。
美代子『うん….どうしたんだろう、あのお婆さん…?』
怖いのを堪えながらも平静さを装う美代子。
すかさずツッコミを入れる友人A。
『いやいや、亡くなってますやん どうしたんやあらへん』
2人が言うアレとは車のライトで見えた老婆だった。老婆は長く垂れ下がった白髪にいつの時代からあるのかと言うぐらいボロボロの着物を羽織っていた。
それに加え、老婆は何かを…..押し歩いていた。
この世のものではないのだから普通なら見て見ぬふりをして通り過ぎるのが正しい。ましてや2人は霊媒師ではないのだから…..。
美代子は車のスピードを上げず、ゆっくりと老婆の真横まで行く。すると、2人はハッキリと目視できた。
老婆が押し歩いてたのは木製の”乳母車”だった。
恐る恐る美代子はサイドウィンドウから”乳母車”を除き込んだ、が、その中には何もなかった。ふと視線を感じた美代子は乳母車を押す老婆の方へ目を向ける….。
美代子『…⁈….!!! 』
次の瞬間、美代子はアクセル全開で車を猛スピードで発進させた。友人Aは慌てふためく美代子に動揺する。
友人A『ちょ!え 何⁇ 何⁇』
美代子『見ちゃいけなかった 見ちゃいけなかった 見ちゃいけなかった 見ちゃいけなかった 見ちゃいけなかった 見ちゃいけなかった』
美代子は正面を顔色一つ変えず、ブツブツとしきりにそのように繰り返す。その異様な光景に友人Aもようやく恐怖心を抱き始める。
友人A『見ちゃいけな…かった…て、何を見たの?』
美代子は正面を見続けたまま返答しない。車の走行音だけが響く。再度、話しかけようと….
友人A『ねぇ、美代子…..』
大通りに出る手前で車を急停止する美代子。
ギギギギギィィィィ
間髪入れず左横に座る友人Aの方向に首をまるで機械人形のように勢いよく回し、感情が一切失われたかのような眼で彼女を見つめた。少し間をおいて、美代子の口が開いた。
『私、乳母車の中を除き込んだあと、お婆さんの顔見たんだ….でも、人だと思うじゃない?死んでるにしても、見た目がお婆さんなんだから』
友人A『………..で?』
美代子は再び間をおいて答えた。
『皮膚なんてない、目も鼻も口もない骸骨だった』
友人Aが緊張感から解放されたかのように息を大きく吐いた。
『なーんだ、それだけか〜ビビって損しちゃった』
嘲笑う友人Aを感情が一切失われたかのような冷ややかな目で見つめ続けていた。
[終]
お話を作る上で着色はしていますが、着物を羽織った老婆の見た目をした骸骨は本当に見たらしいです。
そして、視える人が共通して言うのが、この世の者ではない存在が出現する時間/空間?は必ず?怪しい霧のようなのがかかっており、薄緑に光ってる?とかなんとか…..。その描写も作中に入れるつもりでしたが、何せ曖昧な故、自分の文章力じゃ上手く表現できないと判断して省略しました。
実話体験を文章化するのは初めてです。
とは言え、自分が体験したのは数えるほどしかありません。また機会があれば書いてみたいと思います。