終
赤いワンピースの女性は突然泣き崩れ、苦しみ悶えながら、巻き上がった砂のように消えていった。
そこで桜井は我に帰り、自身が高い建物の屋上にいること、その縁に足をかけていることに気がついた。
あと一歩でも手を引かれていたら、落ちていただろう。
桜井は膝を震わせながら尻餅をついた。
蒼月の声が聞こえてきて、おそらく桜井を呼ぶ声だったが、その声のボリュームとは反比例して、桜井の意識は深淵に落ちていった。
その後は警察の取り調べを受け、翌日まで開放されなかった。
蒼月がいなければ、まともに話もできなかっただろう。
警察官の中には見覚えのある顔もあった。
どこで見たのかと思ったが、つい一ヶ月ほど前にも取り調べを受けたことを思い出した。
どうもあの一件以来、現実が現実と思えなかった。
帰宅して、ニュースをみて、首同盟の難しい言葉遣いに頭が痛くなったので少し寝て、目が覚めると連絡が来ていて、妻と宍戸からだった。
どちらも安否を心配しているようで、とりあえず存命であることを伝えた。
妻とはそれ以外、ぎこちなくて話せなかった。
娘に会いたいと、通話を切ってから考えた。
机にあったはずの赤いチップが無くなっていた。
掃除をすれば出てくるだろうか。
忘れてしまっても別に困らない。
私にはもう必要のないものだ。