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『着きました』
声に起こされ、桜井は目を開けた。
胡乱な意識でもそこがどこだか瞬時にわかった。
大きな塔がそびえ立っている。
「蒼月、冗談はよせ」
自尽皆包組合と書かれたプレートが、出入り口の脇に置かれている。
『キリト』
声の主が蒼月ではないと、この時に気づいた。
『もう苦しむ必要はありません』
「まさか」
桜井はうなじのチップに指で触れて言った。
「茜7号」
ドアウインドウを叩かれた。
女性が立っていて、仕草で降車を促している。
赤いワンピース、長い黒髪、白い細腕、無表情。
桜井は車を降りた。
見ると、周囲にも車が並んでいた。
それぞれの運転席から次々と人が降りてきて、自尽の塔に向かって歩き始めている。
皆、誰かに手を引かれているように腕を前に伸ばしていた。
『さあ、行きましょう』
赤いワンピースの女性が、口を閉ざしたままそう言った。
白い手を差し伸べている。
桜井をエスコートしようとしているようだ。
『キリト』
桜井はその手を取った。
確かなぬくもりを感じた。
『もう大丈夫です』
二人は連れ立って、ゆっくりと歩き出した。