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深夜0時。
宍戸は真っ赤な顔と呂律の回らない舌で大丈夫大丈夫と手を振りながら、千鳥足で部屋を出て帰ろうとした。
心配した桜井がしばらく様子を眺めていると、エレベーターの前でボタンを押すことに何度か失敗したあと、ふいに糸が切れたようにその場で地べたにへたり込んでしまった。
「言わんこっちゃない」
桜井は車のキーを手にして外に出た。
外に出たのは、実に二週間ぶりのことだった。
『私は質量に対して無力です』
蒼月が、宍戸を抱えて難儀する桜井に語りかけた。
「わかってる、運転は頼むよ。もう眠いんだ」
『家に着いたらどうしますか?』
「宍戸を起こせ」
2人を乗せた車は、蒼月の運転で宍戸の自宅に辿り着いた。
蒼月は宍戸の首に呼びかけ、彼を覚醒させるよう促した。
しかし、一向に起き上がる気配はなく、しばらく時間だけが過ぎた。
朝焼けが桜井の瞼を塗りつぶした。
眉間に皺をよせ、現実世界へと引き戻されたことに不満がる。
限りなく細めた目で隣を見ると、宍戸が知恵の輪みたいな複雑な姿勢で寝入っていた。
「はぁ」
桜井は運転席のドアを開けて、ため息をついた。
午前4時。
茜色の太陽光が水平方向から照りつけている。
『私は質量に対して』
「わかってるよ、謝る気ないだろ、それ」
粗大ゴミを玄関の前まで引きずって、桜井は言った。
「ほら、開けて」
蒼月がそれに応えると、玄関のセキュリティが解除され、ひとりでに扉が動いた。
むろん、蒼月が宍戸の首に対して作用した結果である。
「後は知らん」
乱雑に靴が並ぶ土間に、桜井は宍戸を捨て置いて、家をあとにした。
玄関扉が閉まると、露骨に施錠される音がして、なんだか追い出された気分になった。
再び車に乗り込む。
朝日に向かって車は停まっていた。
進行方向を直視できない。
赤い光に包まれた。
車は発進した。
桜井はまた眠ってしまった。
再び車が停まったとき、蒼月は無言だった。