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首の根  作者: しめさば
4/9

3

「だから俺は、あのとき辞めて本当に良かったと思ってんだ」

 そう言って宍戸は、4本目の缶ビールを空にした。

 即座に最後の一本に手を伸ばし、気持ちのいい炸裂音を立てる。

 顔はだいぶ赤い。

「あのまま我慢してしがみついたって、自分にとって何の成長も無かった」

 宍戸は言いながら、バツの悪そうな顔の横で、手のひらを水平に振った。

 どういう意味のジェスチャーか、独創的過ぎてわからない。

「いや、お前に辞めろって勧めてるわけじゃないぞ?」

「うん、わかってる」

「ただまあ、派閥ってのは、あるわけだ。どこにでも」

 宍戸はビールをあおる。

「あんまり、下手な気遣うなよ。身の丈に合ってないぞ。お前のメンタルなんて昔から、ぎゅうぎゅうビタビタにプレスされて、こんなチンマイんだから」

 宍戸は細めた眼前で、親指と人差し指を限りなく近づけた。

「ははは」

 桜井は乾いた笑い声で相槌を打つ。


「心の病なんて、俺は信じちゃいないが、今のお前を見ていると、本当にそうなのかもしれないって思えてくるよ」

 宍戸は上目遣いに睨んで、すぐ微笑んだ。

「いまさら? そうかもしれないじゃなくて、そうだよ」

 宍戸は息継ぎにビールを飲んだ。

「でも、(ネック)の診断だろ?」

「蒼月は、人間より正確」

「そうなのか?」

 宍戸も蒼月ユーザーで、今の問いかけは桜井に向けられたものではなかったようだ。

「ついに医者も後手に回ったか。いよいよ、世も末だな」

 赤ら顔で酒をあおる老いた同級生の姿は、たしかに終末感漂う。

「人間が働かなくて済むかもよ」

「お前、ポジティブなのかネガティブなのか、どっちだよ」

「現にほら、働いてない奴」

 桜井は両腕を広げることで自分を指して言った。

「生きてる」

 二人は鼻から息を吐いて笑った。


 ふいに、顔をあげた宍戸と目が合う。

 腫れぼったい瞼の奥に、若かりし少年の頃の面影をわずかに残していた。

「あ、わかった」

 宍戸が言う。

「そうじゃなくて、きっと本当の桜井は、もともとそんな感じの奴だったんだ」

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