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「カミさんは相変わらず出ていったままかい?」
宍戸が電話口で笑った。
「それじゃあ、遠慮なく邪魔できるな。今、仕事終わって、そっち向かってんだ」
音声が聞き取りにくいのは、彼が車内にいるからだった。
「まさか、まだ寝ないよな?」
桜井は寝巻きだったが、そのことについては触れずに、了承して電話を切った。
「ほら、これ」
宍戸は玄関で靴を脱ぎながら、片手で紙袋を差し出した。
「好きだったろ。一緒に食おうや」
それは有名な老舗店の弁当だった。
使い捨ての四角い入れ物に、北斎漫画のような絵柄の紙が巻かれている。
「ありがとう」
桜井は戸惑いながら受け取る。
宍戸は勝手にスリッパを履いて、部屋の奥へと入っていく。
彼のもう片方の手にはビニール袋が提げられている。
「近頃の奴は飲めなくてよ」
そう言って宍戸は、おもむろにテーブルの上に缶ビールを並べ始めた。
「お前も今は飲めないんだろ?」
「まあ、絶対禁止ってわけじゃないけど」
桜井は言葉を淀ませる。
「いいよ、飲みたくないなら」
綺麗に5本ならんだところで、空になったビニール袋を丸めながら、宍戸はにんまりと笑った。
はじめから、全て自分で飲むつもりだったらしい。
桜井もつられて笑った。
とても久しぶりに感じた。