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鏡 Der Spiegel  作者: Siberius
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葵の料理

スラオシャは庭で聖槍トラエタオナを振るっていた。

この訓練はスラオシャが毎日欠かさずにやっていることだ。

聖なる槍トラエタオナにはその名の通り、聖なる力が備わっている。

対悪魔用の決戦兵器だった。

毎日のトレーニングはそんなに難しくはない。

それはスラオシャの日常になっていた。

そんな様子を葵が見ていた。

「すごいですね。スラオシャさんの武器は槍ですか? ほんとによくトレーニングしているのがわかります。構えも突きも一流ですね」

「ああ、俺は自分の武器に槍を選んだ。もっとも俺の友人には大剣を選んだ奴もいたけどな」

そんなことを話していた時のことである。

ピンポーンと音が鳴った。

客だろうか?

「あっ、私が出てきますね」

葵が足早に玄関に出て行った。

スラオシャはそんな姿の葵を見送った。

「はい、ただいま」

葵が玄関を開けた。

葵が扉を開けると、そこには聖智校のドイツ語教師「フェヴローニヤ・ガヴリーロヴナ(Fevroniya Gavrilovna)がいた。

プラチナブロンドの長い髪をストレートに伸ばし、スーツを着た女性である。

スラオシャはその姿を庭の影からうかがった。

スラオシャはすぐに気づいた。

(あれは……レミエルか?)

フェヴローニヤとはレミエルのこの世界での名前である。

「こんにちは、鏡さん」

「こんにちは、フェヴローニヤ先生」

「鏡さんが読みたがっていた本を手に入れてきたわよ。ドイツ語のファンタジーよ」

フェヴローニヤが一冊の本を葵に手渡す。

「ありがとうございます、先生!」

葵は本当に嬉しそうだった。

「じっくり長く時間をかけていいわよ。すぐに返そうとしなくていいから。読み終わったら感想を聞かせてくれるとうれしいわ。同じような本なら、私が入手してあげる」

「はい、ありがとうございます! 大切に読みますね!」

葵は本を抱きしめた。

フェヴローニヤはちらりと庭を見た。

スラオシャはフェヴローニヤと目が合った。

フェヴローニヤは軽くこくんとうなずく。

スラオシャも同じだった。

フェヴローニヤは葵の家にあがることなく帰っていった。


その日の昼前、葵がスラオシャに尋ねた。

「そろそろお昼の時間ですね」

「そうだな」

「スラオシャさんは何か食べたいものはありますか?」

「そうだなあ……マーボー豆腐なんてどうかな?」

「マーボー豆腐ですか?」

「作れそうか?」

「ええ。一から作れますよ。それでは私は台所に行ってきますね」

葵はにこりとほほえむと、そのまま台所に入っていった。

スラオシャは用意ができるまで宗教書を読んでいた。

そんな日常はスラオシャにとって新鮮だった。

まるでこれでは夫婦ではないか。

スラオシャはテレビをつけて、それを見ながら料理ができるのを待っていた。

スラオシャは台所をちらりと見た。

葵がとうふを切っている音が聞こえてくる。

スラオシャは葵の後姿を盗み見た。

エプロンをしているのがわかる。

スラオシャはテレビよりも、葵の後姿を見ることにした。

葵のふっくらとしたヒップやミニスカートから出ている生足をスラオシャは見た。

葵の女の部分である。

後ろからなのでよく見えないが、葵は胸もふくよかだった。

「?」

葵が後ろを振り返る。

スラオシャは即座に視線をテレビにうつした。

「スラオシャさん、もしかして私を見てました?」

「え?」

スラオシャは内心ぎくりとした。

「いやー、見てないよ。葵の気のせいじゃないかな?」

スラオシャは固まった表情で答えた。

「そう、ですか……なんだか、視線を感じたんですが……」

葵は料理をしに、戻っていく。

スラオシャは危ないと思った。

しばらくすると、マーボー豆腐特有の辛みととろみのにおいがしてきた。

同時に炊飯器の音が鳴った。

テーブルの上にご飯とみそ汁、そしておかずのマーボー豆腐が運ばれてくる。

スラオシャは料理の見た目と匂いに引かれた。

「うわー! うまそうだな!」

「スラオシャさん、食べる前に一言言わないとだめですよ?」

葵がそれをたしなめる。

「わかっているさ。いただきます」

「はい、いただきます」

スラオシャはすぐにまーどー豆腐に手を付けた。

スラオシャは腹ペコだった。

「ん? うまい!」

スラオシャは次々とマーボー豆腐をすくい、ご飯とからませて食べていく。

「うふふふふ」

「? どうした?」

「だって、スラオシャさんってすごく夢中になって食べるんですもの。それがおもしろくて……」

「こんなおいしい料理を前にして、冷静ではいられないさ!」

スラオシャがみそ汁を飲む。

スラオシャの食べ方には品があった。 

食べる音がほとんど聞こえないのである。

「葵はすくないんだな? そんなに食べないのか?」

「はい、私は小食なんです」

葵の食べる量を見ると、だいたいスラオシャの三分の二程度だ。

それほど多くよそっているわけでもない。

「でも、うれしいですね」

「? 何がだ?」

「自分が作った料理を食べてくれる人がいることがです」

葵のほおがほんのりと赤く染まっていた。

「俺でよかったら、いつでも葵の料理を食べにくるよ」

スラオシャはまじめに言った。

彼の目は真剣だった。

葵はドキッとしたのか、視線をスラオシャからそらした。

それをスラオシャはほほえましく眺めた。

スラオシャは葵の料理をきっちりと完食した。

葵の昼食を完食したあと、スラオシャは緑茶を飲んでいた。

家の縁側にスラオシャはあぐらをかいて、座っていた。

「ふー、うまいお茶だ。いいねえ……のどかで、平和で……世界はいつも平和というわけではないからな。時にも戦争も起きるしな……それにしてもいい日だ」

葵は台所で、食器を洗っていた。

スラオシャはふと思った。

自分は客人だから食器洗いをしないで済んでいると。

「人間だった時には、よく家事をやってたっけ……それにしても、使える自由な時間は多いな。せっかくだし、午後から外出したいな……」

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