アエーシュマ
次の日、葵は風邪を引いた。
「熱は38℃か……安静にしていないといけないな」
葵はベッドの中で寝ていた。
スラオシャが体温計で葵の熱を測った。
「やれやれ……俺がおかゆを作ってくる。葵はそれまで寝ていろ。わかったな?」
「はい……」
スラオシャは台所でおかゆを作った。
容器に入れて葵の部屋に持っていく。
スラオシャは初めて葵の部屋に入った。
床はタタミで、大きな勉強机があった。
シングルのベッドがあり、部屋を大きく占領していた。
スラオシャは葵のもとに行き、おかゆをスプーンで食べさせた。
「どうだ?」
「はい、柔らかくていい感じです」
「まあ、おかゆだからな。それとここに水を置いておく。水分を取りたくなったら飲むといい」
「何から何まですいません」
「気にするな。俺が好きでやっていることだ」
「うふふ……」
「何だ?」
「いえ、こういうのも悪くないなって」
「いつもは俺が料理を作ってもらっているからな。非常時はこういうことくらいするさ。俺は買い物に行ってくる。一人で休んでいろ」
「一人で、ですか……?」
「どうした?」
「その、眠るまで、手をつないでいてほしいのですが……」
葵は顔を赤くした。
「フフッ、いいぞ。そのくらいならな」
スラオシャは葵の手をつかんだ。
外では雨が降っていた。
その後葵の熱は下がり、葵は聖智校に通うことができた。
クラスメイトたちと楽しくおしゃべりしたり、授業を受けたりして忙しく過ごした。
哲学の授業が聖智校にはある。
葵は哲学が苦手だった。
ほかの生徒も、哲学は苦手という人も多い。
哲学の教師は内宮 哲夫先生である。
葵は哲学の授業についてスラオシャに相談したことがある。
スラオシャは宗教書か哲学書を読んでいたこともある。
スラオシャは難解な哲学思想をすらすらと披露してみせた。
スラオシャは言った。
哲学の本質は「疑うこと」だと。
一方、宗教の本質は「信じること」である。
授業が終わった後、葵は内宮先生から呼び止められた。
「鏡さん、ちょっといいかな?」
「はい、何でしょうか?」
内宮のメガネが妖しく光った。
「あ……」
葵は意識を失った。
葵は倒れた。
「クックック、これでいい」
「あなたが悪魔でしたか、内宮 哲夫?」
「フェヴローニヤ・ガヴリーロヴナ……」
内宮はフェヴローニヤを凝視した。
「教師の誰かが悪魔ということはわかっていました。それが誰かまでは突き止められませんでしたが。あなただったのですね? 内宮先生?」
フェヴローニヤが毅然と言い放った。
「それはご名答。この私の正体も悪魔だ。しかし、あなたの正体も私は知っている。そうだろう、天使よ? いや、正確には大天使レミエル?」
「!? 私も気づかれているとは思いませんでしたよ、大悪魔アエーシュマ?」
「クックック」
内宮が、いや、アエーシュマが目を光らせる。
「葵さんをどうするつもりですか?」
「この娘はスラオシャが来るまで預かっておく。心配するな。スラオシャとの決着を私はつけたいだけだ。大天使スラオシャを連れてこい。そうすればこの娘を返してやるぞ?」
「私が何もしないと思いますか?」
「お互い、この人の姿では真の実力を出せない……そうだろう?」
「…………」
フェヴローニヤは押し黙った。
その表情が苦渋を表していた。
「今のおまえにできることはスラオシャを連れてくることだ。それに戦いはおまえの本文ではあるまい?」
アエーシュマは自信たっぷりに告げた。
その口が嘲弄している。
「確かにそうでしょう。しかし、あなたは重大な過失を犯していますよ、アエーシュマ?」
「ほう、それはなにかな?」
「私はたった一人でアッシリア軍を退けたこともあるのですよ。私は幻視の天使ですが、もう一つ名があります。それは雷光の天使レミエルと」
フェヴローニヤの言葉を受けてアエーシュマのメガネが妖しく光った。
「私を恫喝しても無駄だ。私は学校の地下に作った亜空間『魔洞』でスラオシャを待っているぞ。それではレミエル、さらばだ」
そう言うとアエーシュマは葵と共に姿を消した。




