死とは
スラオシャは葵についていってある場所を訪れた。
葵は思いつめた表情をして、淡々としていた。
今は天気が悪くなった。
雨が少し降ってきた。
「私はどうしてもここに来たかったんです」
そこは墓地だった。
その墓地は仏教式だった。
「…………」
スラオシャはただ葵の後をついて行く。
「ここです」
葵は一つの墓の前で止まった。
「ここは?」
「ここはほのかちゃんのお墓です」
「ほのか?」
「はい。前にほのかちゃんは私の親友だったと言いましたよね? そのほのかちゃんです。彼女は突然、自殺しました」
「自殺……?」
しばらく言葉が途切れる。
しばし沈黙が訪れる。
葵は重い口を開いた。
「それがなぜかはわかりません。私も電話で知らされた時には絶句しました。私は何もわからなかったんです。ずっといっしょにいたのに、彼女の苦しみに気づいてあげられなかった……一言も苦しいっていう相談がなかったんです……」
葵の口調は自分を責めているようにスラオシャは感じた。
葵は震えていた。
「葵、あまり自分を責めないほうがいい。ほのかはきっと親友だったからこそ、君には相談できなかったんだ。親友だからってなんでも言えるわけじゃない。むしろ言えないこともある」
「そう、ですね」
葵は力なくつぶやいた。
「私は思うんです。彼女は今、一体どこにいるのか……どうしているのか……死んだあと何をしているのか……ごめんなさい、変なことを言っていますよね……」
「彼女が仏教徒なら、それは仏教のテリトリーだ。俺が知る限りでは仏教徒は死後、西方にあるという極楽浄土に行くという。俺も行ったことはないが……そこは仏教のテリトリーだからな。シベリウス教に責任はない」
「私は少し、怖くなる時があるんです……彼女は時を止めて、私だけが時を刻んでいる……ほのかちゃんは子供のままで、私だけが大人になっていく……それが怖い……」
スラオシャの側から葵の顔は見えなかった。
でも、スラオシャにはわかった。
今、葵は泣いているということに……
「葵、君は幸せになっていいんだ。ほのかの分まで幸せに、ね」
スラオシャは葵を振り向かせて抱きしめた。
「あ!?」
そして葵の耳元でつぶやく。
「葵、俺は君を愛してる」
「!? ずるいです、スラオシャさん……私もあなたを愛しています」
スラオシャは葵の唇に自分の唇を重ねた。
雨の中でのキスだった。




