海
次の日、葵は聖智校三年の教室に登校した。
葵は勉強熱心であるため、成績は良い。
ただ、学校の授業での意味や価値は見いだせずにいた。
そんなことを考えるようになったのはスラオシャの影響からだろうか……
スラオシャは「学ぶ意味がなければ、学ぶ価値はない」と言い切った。
葵は大学に進学するつもりだったが、疑問を抱いてもいた。
それは「なぜ生徒は勉強をしなければならないのか?」であった。
「葵ー! 見つけたわよ!」
そこに悠木 美咲がやって来た。
ツインテールが特徴的な女の子だ。
そして、そこにショートカットの翼 友香がやって来た。
「え? 何を言っているの?」
葵は困惑した。
「スーパーで男の人と仲良さそうな雰囲気だったってうわさよ! もう、葵! 水臭いな! 『男』ができたら、言ってよー! 相談にのってあげるから!」
美咲がニヤニヤしながら話しかけてくる。
「それは……」
葵は顔を真っ赤にした。
どうやら昨日のスラオシャとのやり取りを聖智校の生徒に見られていたらしい。
葵は羞恥心が沸き起こってきた。
もっとも、スラオシャなら気にかけないだろうが……
「葵ちゃん、いつから付き合っていたんですか?」
友香がクールに尋ねてくる。
「まだ付き合っていないってば!」
「まだ?」
「へえ……」
「あっ!?」
葵は自分が自爆したことに気づいた。
「あの人はお客様で、私の家に泊まっているの!」
「うそお!? もう、そんな関係に!?」
「意外でしたね。葵ちゃんがここまで早く進んでいたとは……」
美咲と友香が目を丸くした。
その時、ドアから島津 沙希先生が入ってきた。
「おはようございます、みなさん。ホームルームを始めますよ」
「葵! 今日はもっとうわさの彼のことを教えてもらうからね!」
美咲と友香は席に戻った。
今日は大変だった。
葵は「彼氏」につて、根ほり葉ほり聞かれた。
正直、話しをしたくなくなるほど尋ねられた。
もっとも、葵はスラオシャを好きであることまでは否定しなかった。
葵は美咲と友香といっしょに帰ろうとしたが……
「あら? あれはスラオシャさん?」
葵は校門の前にいるスラオシャを見つけた。
「あららー! 彼氏のお待ちで? 熱いわねー、葵?」
美咲がニヤニヤしながら話しかけてくる。
葵はからかわれていることに不満を覚えたが。
「今日は彼氏さんと帰るんでしょう? さあ、行ってください」
友香が差し向ける。
「わかったわよ! じゃあね! 二人とも!」
葵はスラオシャのもとにまで駆け出した。
そこに島津先生が通りかかる。
「鏡さん! 校舎内は走ってはいけません!」
「あっ、はい。すいません!」
葵は速足でスラオシャのもとへと向かった。
スラオシャは校門の前で葵を待っていた。
「スラオシャさん!」
「やあ、葵」
「はあ……はあ……お待たせしました」
「なんだ、走って来たのか? そんなに急ぐこともなかったのに」
「いえ、スラオシャさんに会いたかったので……」
葵は照れながら言った。
「なあ、葵?」
「はい、何でしょう?」
「せっかくだから、今日は海に行かないか?」
「海、ですか?」
葵がきょとんとした。
「ああ、海を見てみたいんだよ」
「いいですね、いっしょに行きましょう!」
スラオシャは葵の手を取った。
「あっ、スラオシャさん……」
葵がほおを赤く染める。
葵は嫌がってはいないようだ。
スラオシャも内心は心臓がどきどきしていた。
「手を握ろうか」
「はい……」
二人は手をつないで海へと向かった。
二人は海にやって来た。
四月の海は穏やかだった。
空と海がきれいなコントラストを描いていた。
海辺には二人のほかに誰もいなかった。
「海はいいねえ」
スラオシャは海を眺めた。
波が来ては繰り返し帰っていく。
スラオシャは葵の手を握っていた。
「海は地球上のあらゆる生物のふるさとだ。俺は海に来ると懐かしく感じるんだ」
スラオシャは海を見つめた。
葵もスラオシャと同じく海を見つめた。
「なあ、葵?」
「はい」
「海辺に来ると砂浜がよく見えるな。それに海も空もよく広がって見える。すばらしい眺めだとは思わないか?」
スラオシャが隣にいた葵を見つめた。
葵はほほえんでから。
「はい、そうですね。私も海は好きです。海に来ると心が洗われたような気がします」
葵も海を眺めた。
二人は海の潮の音を聞いていた。
二人は海の前でしばらく何も語らずに。ただ海だけを見つめていた。
自然に時間が流れていた。




