私たち、幸せになるので。
ベリーショートな短編を書いてみました。
「オリビア!貴様との婚約は破棄させてもらう!俺は、ここにいるお前の妹、スカーレットとの婚約を宣言する!」
「かしこまりました」
オリビアは無表情でそう答えた。オリビアが氷の公女と呼ばれるようになったのも、この無表情が原因であった。
「それではわたくしはこれで。ごきげんよう、第三王子殿下」
「そういうところだぞ、オリビア!お前には可愛げがないんだ。いつもいつも無表情で何を考えているのかわからない。俺の婚約者がお前のような得体の知れない奴でなければと何度思ったことか!」
「静かにしてもらえませんか。そもそも殿下、この婚約破棄の本当の意味、わかっていらっしゃいますか?スカーレットの意志は確認しました?」
「なっ!何をいっている?どういうことだ!俺は王子の中で唯一王妃の皇子。俺には王になる未来が確約されている!だからスカーレットが俺の婚約を拒むはずがない!」
スカーレットは冷めた目で第3王子を見つめた。
「そ、そうだよな?スカーレット」
スカーレットは鬼の形相で口を開いた。
「私の名前を口にするな。私の名を口にしていいのは、お姉様だけだ」
途端に第三王子の顔が真っ赤になった。何かを言おうとしているのか、口をハクハクと動かしているが、言葉になっていない。
スカーレットは、にこりと微笑んだ。
今までと変わらない可憐な微笑みが、第三王子には悪魔の微笑みに見えた。
「殿下も大概ですよね。でもー、他の王族の方よりはマシかもしれませんね。
ご存じでしたか?陛下は女遊びがお好きなようで、なんでも10にも満たない子供にまで手を出しているんだそうです。気に入らない者がいればすぐに処刑し、国家の財産でギャンブルにのめり込んでいらっしゃるとか。
王妃殿下も国の書類を偽造して王を操ってみたり国家予算をドレスと宝石に回したり、大臣を買収して政治を操ったりなさっていらっしゃいますよ。全ては殿下を皇太子にするため、らしいですが。
それに殿下の姉君の皇女殿下は「もういい!」」
「お前は何を言っている?お、俺はそんなこと知らない。先ほどのは全てお前の空想だ!そ、それに、この間、お前は俺を…」
「私が今申し上げたことは信じられないんですねー。わかりました。ひとつ疑問なのですが、私の言葉が信じられないんなら、どうしてこの間の言葉は信じられるんですか?まさか自分の信じたいことしか信じないなんてこと、ありませんよね?」
「まっ、まさか」
「はい、そういうことです。最初から計画のうちでした。お姉様が殿下に冷たい対応をするのも。私が殿下に近づいたことも。私が殿下を好きだと言ったことも」
「嘘だ!そ、そんなこと」
「そんなことあるわけない、ですか?これがあるんですよねー。殿下、世の中には殿下のご存じないことが沢山ありますよ」
第三王子は全てを諦めた様子で言った。
「目的は、あるのか」
「それはもちろん、自由になることです。あ、そうですね。世界一優しい私から忠告して差し上げます。明日革命が起こるんです。隣国の貴族の力を借りた市民によって。あ、対策しようと思ってももう無理ですよ。王宮の騎士の8割はもうあちら側ですから。それではさようなら。もう2度と会うことがないことをお祈りしております。
さあ、帰りましょう、お姉様。私たちの家へ」
「ええ、スカーレット。これでようやく自由ね」
「はい!お姉様。これから何しましょうか?」
「何でも。色々しましょう。2人ならきっと何をしても楽しいわ」
「はい!まずは、パン、焼いてみたいです」
「あら、スカーレットパンなんて焼けるの?」
「焼いたことはありませんが、お姉様と一緒ならできます!お姉様がいれば私はなんだってできるのです!」
「買い被りすぎよ」
オリビアはふふふと笑った。それはそれは自然に、幸せそうに。
感情豊かなオリビアの様子に第三皇子は空いた口が塞がらなかった。スカーレットは後ろを振り返り、にっこりと笑って、口だけを動かした。
『お姉様は、わたさない』
第三皇子はオリビアとスカーレットの後ろ姿を呆然と眺めることしかできなかった。
オリビアとスカーレットは2人で公爵家を飛び出し、貴族のしがらみから解放されて平民として生きたという。2人は小さなパン屋を営み、愛する人を見つけ、慎ましく、幸せに包まれながら、いつまでも仲良く暮らしたのだった。
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