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48話 悪巧み

 何たること何たること。出立をあと半日早めていれば。いや、深夜遅くに押し掛けるのは陛下に対し礼を失すると要らぬ気を遣い、早めに宿を取ってしまったことがそもそもの間違いか。夜中になろうと明け方になろうと、あのまま馬車を飛ばしていれば。


 悔やまれる。悔やんでも悔やみきれぬ。まさか昨夜暗殺者が差し向けられ、陛下が負傷なされてしまうとは。しかもそれを下々の民の噂話で知ることになるとは、何が内務大臣ぞ、片腹痛いわ。


 グリムナントの屋敷に馬車が着いたとき、私は停止を待ちきれずに自ら扉を開けて飛び出した。


「王宮政府内務大臣、キンゴル侯爵サンザルド・ダナである! 大至急リアマール候に面会いただきたい!」




「久しいな、大臣」


 グリムナント屋敷の貴賓室の上座、何ともばつの悪そうな顔で出迎えてくださったロンダリア王は、いたって元気のご様子。私はしばし唖然としてしまった。


「国王陛下、ご無事で何よりでございます。しかし、あの、お怪我は」


「ああ、うむ。怪我はない」


 と答えに窮するような返事。するとロンダリア王の隣に立っていた貴族議会議長ハーマン・ヘットルトが困ったように言葉を継ぐ。


「さてもさても、これにつきましてはいささか話が長くなりましてな」


「さてもさてもではない!」


 自分でも驚くほど荒げた声が口から飛び出す。どうにか自分を抑えようとしたのだが、腹の虫が収まらない。


「ハーマン卿、そもそも国王陛下を宮殿の外に連れ出したのは貴殿であろう! これほどの騒ぎを起こしてどのように責任を取るつもりだ!」


「あ、いや、それはその」


 目を白黒させて焦るハーマンをかばうように国王陛下はお立ちになった。


「待て大臣、ハーマンを責めないでくれ。これは朕がどうしてもと言い出したことなのだ」


「なれば今回のこと、この年寄の頭でもわかるようご説明くださりませ!」


 君主に向かって無礼な言いようではあるが、これくらい言わせてもらわねば気が済まぬ。ロンダリア王とハーマンは顔を見合わせると視線を私の斜め後ろに向けた。そこに並んで立っているのは領主であるリアマール侯爵ホポイ・グリムナントと、もう一人はおそらく公爵エブンド・ハースガルドか。


 グリムナントは素知らぬ顔をしている。それを横目にハースガルドらしき男は小さくため息をついた。


「公爵を拝命仕っておりますエブンド・ハースガルドと申します。よろしければ今回の仔細、私の方から説明させていただけますか」


(うけたまわ)りましょう、エブンド卿」


 私がうなずくと、エブンド・ハースガルドは少し言いにくそうに話し始めた。


「まず最初に、この件の中心人物を一人紹介させていただきたい」


「中心人物ですと。それは誰ですかな」


 そのとき下座の扉がノックされ、押し開かれた隙間から少年の顔がのぞく。


「お呼びになりましたよね」


「まだ呼んでいない」


 ハースガルドは眉間にしわを寄せたが、少年は構わず入って来た。


「まあいいじゃないですか、多少の順番なんて」


 そして黒髪の少年は頭を下げるとこう言った。


「ハースガルド家に居候させていただいております、占い師のタクミ・カワヤと申します」


「これがその中心人物です」


 やや呆れたようにハースガルドは紹介する。そうか、これがハーマンの言っていた話題の占い師か。しかしこの占い師がどう話の中心となるのか。迂闊に信用しては国の大事となろう。騙されぬようにせねば。



◇ ◇ ◇



 リアマールに滞在していたシャナン王国のロンダリア王に暗殺者が放たれ、王が負傷したとの話は帝国にも届いていた。


「そんな噂があるのは承知しています」


 ルン・ジラルドはそう言う。


「あなた、何か知っているのですね」


 彼女がハースガルド家に使者として赴いた直後の話である、何かを知っていてもおかしくない。私の指摘にルン・ジラルドはニンマリと笑みを浮かべた。


「さすが伯爵様。いい勘をされています」


 その言い回しが癇に障ったが、それに腹を立てている場合ではない。


「いったい王国で何が起こっているのです」


「まあ簡単に申し上げれば、件の占い師一派が悪巧みを企んでいるのですね」


「悪巧み……それにハースガルドも関わっていると?」


「ええ。王国ばかりか帝国まで巻き込んだ大がかりな悪巧みを展開するつもりです。そしてその悪巧みには、どうやら伯爵様も参加していただこうと考えているようでして」


 ルン・ジラルドの口調はどうにもふざけているように感じられる。しかし敢えてふざけた口調で実は重大なことを伝えている可能性もある。この女の言葉にはそういう(ひね)くれた悪意が見え隠れするのだ。


「私に何をさせようというのでしょう」


「カリアナ様は皇帝陛下の剣であらんとされています。ならばそのお役目を存分に果たしていただこう、といったところでしょうか」


「そんな説明では何もわかりません」


 苛立ちが徐々に大きくなる。大声で怒鳴り散らせたら、どんなに気分がいいだろう。そんな私の胸の内を知ってか知らずか――おそらく知っているはずだ――ルン・ジラルドは小首をかしげる。


「つまりカリアナ様は彼らの嘘の片棒を担ぐ覚悟がございますか、ということなのですがね」


「それが皇帝陛下の御為となるのであれば、嘘の片棒を担ぐくらいのこと造作もありません。しかし皇帝陛下の御為とならないのであれば断ります。どちらなのですか」


「それはご自身でご判断いただくしかないでしょうね」


 ルン・ジラルドは笑っている。私がその悪巧みに参加すると自信を持っているのだ。不愉快な。しかしもし本当に皇帝陛下のためとなるなら、ましてやエブンド・ハースガルドが関わっているというのなら、感情的にはねつける訳にも行かない。


「迷っておられますね」


 ルン・ジラルドが私の目の奥をのぞき込む。


「迷いますよね。そりゃあ迷うでしょう。ええ迷いますとも。ではその迷い、私が払って差し上げましょう」


 私は身の危険を感じ、思わず一歩後ずさった。


「な、何をする気です!」


 これにルン・ジラルドはキョトンとした顔を見せ、次にフッと笑みを浮かべる。


「ご心配なく。あなたから何かを奪ったりはいたしませんから」


 そう言い終わると突然その姿を消した。


「……ルン? どこに行ったのです」


 私がつぶやいたとき、背後からコトリと何かの音が。振り返った目の前に立っていたのは。

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