36話 暴かれる過去
翌朝早くに雨は上がりました。リコットは結局私の部屋に泊ったのですが、あまり眠れていないようです。私も眠いですけど、今日も先生のところにはお客様がたくさん来られるでしょう。弱音は吐いていられません。頑張らねば。
と思っていたのですが、今朝は占いのお客様より先に別の方々がいらっしゃいました。ご領主様のところから来られたお役人が三人、そしてその後ろにいたのは、リコットのお母さん、セレアナさんです。
お役人は言いました。
「公爵閣下には後程正式な書面をお届けするが、まずは本人に話を聞きたい。このセレアナの娘をここの占い師が誘拐したという訴えが出ていてね」
「誘拐? そんなことしてません」
私がそう答え終わるより早く、セレアナさんが怒鳴ります。
「こいつはインチキ占い師の仲間だよ! さっさと踏み込んでおくれ、リコットが心配なんだ」
「何言ってるんですか、あなたこそリコットに酷いことを」
お役人はセレアナさんをかばうように立ちはだかりました。まるで私が悪者みたいに。
「まあ落ち着きなさい、ともかく占い師をだね」
「占い師ならここにいますが」
その声に振り返れば、離れの入口に先生がリコットを連れて立っています。セレアナさんは大喜び。
「リコット! ほらお役人さん、リコットがいたよ。早く助けてやっておくれ」
「この少年が占い師かね」
顔を見合わせているお役人たちに、先生はうなずきます。
「それはセレアナさんに聞けばわかりますよね」
「そうだよ、コイツがインチキ占い師なんだ、早く捕まえておくれよ!」
お役人は険しい顔で身構えました。
「ようし、動くな。詳しい話は役所で聞かせてもらう」
しかし先生はいつも通り笑顔で平然としてます。
「いいですよ。ちょうど僕もお役人さんに話したいことがありますし」
「話したいこと? 何だ」
「ギルメアさんのことです」
そのとき、悲鳴が響きました。セレアナさんです。驚いて振り返ったお役人の前で、恐怖に満ちた真っ青な顔をして、ガタガタと震えて立ち尽くしています。
「何で……何でそれを」
「だって占い師ですから」
先生はそう言うと、不思議そうな顔で振り仰ぐリコットに微笑みかけ、こうたずねました。
「ねえリコット。これを君に答えさせるのはとても残酷なことだとわかってはいるんだけど、君にしか答えられないことなんだ。君の人生を決めていいのは君だけだから。リコット、君はこれからどうしたいのかな。どこで生きて行きたい?」
「リコット! おいで、こっちにおいで!」
セレアナさんが叫びますが、リコットは動きません。そして悲しそうにうつむくと、先生の手を握りました。
「ここがいい」
先生は無言でうなずくと、お役人に向き直りました。
「行きましょうか、みなさんの聞きたいことにはすべて答えます。ただし、その前にセレアナさんの家に寄ってください」
お役人たちは困惑しています。
「家に寄ってどうするんだね」
「セレアナさんの寝室の、ベッドの下を掘り返すんです」
そのときセレアナさんの上げた叫び声は、地獄から聞こえるかのようでした。
「いやああああああっ! やめ、やめて、やめてぇっ! 何で、何でそんなことを」
これはさすがに何かおかしいと、お役人も気付きました。
「ベッドの下に何があるというんだ」
先生はいつも通り、平然と、本当に平然と静かな笑顔をたたえながらこう言います。
「十五年前に行方不明になったセレアナさんのお母さん、ギルメアさんの死体が埋まってるんですよ」
「アタシは知らない! アタシは、アタシは何もしてないんだ! アイツが勝手に、勝手に死んだんだよ、ホントなんだ、アイツが勝手に死んで、だからアタシは、アタシは、だって、アイツがアタシを殺そうとしたから!」
もう半狂乱のセレアナさんは、髪を振り乱し口角泡を飛ばして絶叫し、地団駄を踏んでいます。
「アタシは、アタシは悪くないよ、悪くないんだ、ホントなんだよぉ!」
これはいったいどうしたものか、お役人は顔を突き合わせて話し合っています。ここに先生が参加しました。
「とにかく現地に行くだけ行ってみましょう。それが一番早い」
確かに実際、それしか方法はないと思えます。お役人は、さっきとは少し違う態度で先生に言いました。
「では、一緒に来てくれるかね」
「わかりました。ステラ、リコットを頼むよ」
「あ、はい」
あと二人のお役人はセレアナさんを落ち着かせようとしていますが、暴れ回って手に負えないようです。
「嫌だ! 行きたくない! 行かない! 嫌ぁっ!」
しかし、ついにお役人の堪忍袋の緒が切れました。
「構わん、縛り上げて連れて行け!」
セレアナさんは力尽くで取り押さえられ、両手を後ろ手に縛られて引っ立てられて行きます。遠ざかる影を、リコットは悲しそうな目でいつまでも見つめていました。
先生はお昼過ぎに戻って来られましたが、多くは語りません。待ってくれていた占いのお客様の相談を休憩も取らずに夜遅くまで受けて、最後のお客様が帰った後、私の部屋にいたリコットを訪れて短い一言を告げました。
「君はもう、お母さんと会うことはない」
そしてフラフラの体で母屋の食堂に向かったのでした。




