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28話 銀色の馬車

「雨は真夜中になると()むの。そしたら地平線より少し上の南の空に満月が雲間から顔を出す。そのとき月光の中にフェルンワルドへの扉が開くから、それまで待ってなさい」


 アタイの言葉に、タクミ・カワヤは素直に従った。と思ったら。


「フェルンワルドに迫っている脅威について、詳しいことは教えてくれないのかな」


 なんてことをたずねてくる。うるっさいなあ。


「そういうことはフェルンワルドに着いてから! 女王様が教えてくれるんだから待ちなさいよ!」


「いや、それにしたってある程度は予備知識があった方が理解しやすいと思うんだけど」


「知ーりーまーせーん! アタイは女王様からアンタを連れてくるように言われただけだから、何が敵でどんな脅威かなんて知らないんですー!」


「そんな自慢げに言わなくても」


 ムキーッ! 何よコイツ、ムカつく! こっちが優しくしてりゃ付け上がっちゃってまあ。いまに見てなさいよ、ビックリして腰抜かすんだからね。


 そうこうしているうちに雨音はしなくなった。南向きの寝室の窓を開くと、黒雲に覆われた空にポツリポツリと星がまたたいている。


 やがて舞台の幕が開くように雲が割れて、南の低い空に満月が昇った。来るよ架かるよ、光の橋が。来るよ走るよ、輝く馬車が。


 まず満月から細い糸みたいな光が二本、こっちに向かって伸びてくる。その糸から滝のように流れ落ちる無数の光の帯が輝く壁を作り出しながら、窓辺まで続く橋を支える土台になった。


 その橋の上を走って来るのは三頭立ての銀色の馬車。先頭を一角獣が、その後ろ左右を天馬が引く、透明な宝玉で(いろど)られたそれが、かすかな鈴の音を鳴らしながら窓の外に停まった。


「どう、女王様からのお迎えよ。凄いでしょ」


 さあビックリしろ、おったまげろ。人間の世界にこんな凄いモノないものね。と思ってタクミ・カワヤを振り返ったら、何コイツ。何で平然としてんの。


「確かに凄いけど、ちょっと演出過剰なんじゃないかな」


「何その御意見。迎えに来てもらってる立場でそれ言う?」


 あっきれた! コイツ全然ダメ。能力はともかく、魂として全然ダメ。女王様に会わせていいのかな。けど、いまさら連れて行かないって訳にも行かないし。ああもう困る!


 馬車の扉は音もなく開く。早く乗せろという催促(さいそく)だ。仕方ない、乗せてやるか。


「ほら、タクミ・カワヤ。さっさと乗りなさい」


「じゃあリコットを先に……」


「ちょーっと待ったーっ!」


 何だろうなあもうこの男は。少しくらい素直に言う通り動けばいいでしょうが。


「リコットはここに残るの」


「あれ、そうなの」


「リコットがここに残ってくれないと、アンタここに戻って来れないんだからね」


「へえ、そいつは知らなかった。なるほど、リコットがここに一人でいる姿が見えているのはそのせいか」


 タクミ・カワヤはようやく納得したようだ。ホント面倒くさい。


「見えてるんならわかるでしょ、いちいち説明させないでよ」


「見えてるだけじゃ理解はできないさ。人間はそんな優秀な生き物じゃないんでね」


 アンタに言われなくても、人間が優秀じゃないことくらい知ってる。そう言いたかったけど、とにかくいまは急ぎたい。


「わかったら、さっさと乗って」


「ハイハイ」


 そう笑ってタクミ・カワヤはリコットの右肩から手を離した。


「じゃあリコット、ちょっと行ってくるから待って……あ」


 何よ、今度は何なのよ。


「リコットから手を離すと馬車が見えないんだな」


 ああーっ! もうコイツだけはまったく! アタイはタクミ・カワヤの右肩に座った。座りたくなんてないけど仕方ない。


「ほら、これで見えるでしょ」


「おお、見えた見えた。それじゃ」


 タクミ・カワヤは窓枠に足をかけて外に身を乗り出した。躊躇(ちゅうちょ)せず足を踏み出し、光の橋を歩いて馬車に乗り込む。ちょっとくらい怖がるとか疑うとかすればいいのに。


 扉が閉まって馬車が進み始めると、光の橋はグルリ円を描いて伸び、やって来た道に合流する。その間タクミ・カワヤは馬車の窓からリコットに手を振っていた。何さ、手くらいアタイだって振れるんだから。おーいリコット、待っててね!




 明るい満月に向かって走っていた馬車の周囲が暗くなる。月は消えた。星も消えた。何もないボンヤリとした薄明るい空間。「ゴーネの裂け目」だ。フェルンワルドはここを越えた先にある。


「もうしばらくかかるから、おとなしく待っててよ」


「そうする」


 アタイを右肩に乗せたままのタクミ・カワヤはやけに素直に応じると、ぼうっと外を眺めていた。そういう態度を取られると、何か気になる。


「アンタ、どうして慌てないの」


「え、何が」


「ここじゃ時間の流れも見通せないでしょ。いきなりこんなとこに連れて来られてビックリしないの」


 するとタクミ・カワヤは苦笑しながらため息をついた。


「二回目だからね」


「ここに来たことあるって意味?」


「前回はホントいきなり連れて来られたから、嫌な思い出さ。それに比べれば今回は随分とマシだよ。理屈も一応はわかるし。キーシャなら僕の過去が見えるんじゃないのか」


「あら、アタイは過去も未来も見えないけど」


 するとタクミ・カワヤは随分と驚いた顔を見せた。


「え、見えないの」


「アタイは過去にも未来にも飛ぶことができるだけで、ここに立ったまま過去や未来が見られる訳じゃないの。そんな能力持ってんの、アンタくらいだよ」


「なるほど、跳躍系か。ルン・ジラルドみたいな感じだね」


「何それ」


「いや、そういう知り合いがいてさ」


 タクミ・カワヤがそこまで話したとき、馬車の御者台についているベルがカランカランと鳴った。


「あ、着いた」


 アタイがそう言った途端、馬車の窓の外が虹色の輝きに満ちた。


 赤青黄の三つの太陽が地上を照らし、空には常に虹がかかる国。暖かいそよ風に極彩色の花びらが吹雪のように舞い散る永遠の楽園、フェルンワルド。その中心に立つ巨大な世界樹の前に馬車は停まった。やったーっ! 到着! 無事帰還! ただいま我が故郷!

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