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2話 迷える恋

「キミがあの評判の占い師、かね」


 先生の向かい側に座った隣村リメレの村長の弟さん、ジャンゴさんは当惑した顔で先生を見つめました。何度も見た光景です。先生が若すぎるのが気に入らないのでしょう。確かに外見だけなら先生はただの子供です。女の子みたいと言ってもいいかも知れません。


 あ、いけない。この考えも先生に伝わってしまうかも。


 でも先生は気にした様子もなくこう言います。


「若すぎて頼りなく思えるのは面目次第もありませんが、こればかりは頑張って今すぐどうこうなるものでもありませんし、ご容赦ください」


 ジャンゴさんは押し黙っています。先生に自分の秘密を打ち明けて良いものかどうか迷っているに違いありません。


 でも先生は笑顔で話を続けました。


「まず結論から申し上げましょう、お嬢さんが結婚なさらないのは好きな人がいるからです」


 ジャンゴさんは目を丸くして青ざめました。相談の内容なんてまだ一言も話していませんし、お嬢さんのことだなんて口に出していないのですから当然でしょう。


「ど、どうしてそれを」


「だって占い師ですから」


 先生は平然と言い切ります。


「それより問題はお嬢さんのお相手です。違いますか」


「そう、だが、その、相手というのは」


「街で医師をなさっている男性です。ご領主様の遠縁に当たる方ですよ」


 この言葉にジャンゴさんは難しい顔になりました。先生は静かに続けます。


「あなたのお兄様はご領主様ともめたことがありましたね」


「二十五年も前の話だ。だがいまだに関係は良くならない。私の娘が領主の遠縁の男に想いを寄せているなどと知れば、兄は怒り狂うかも知れない」


「それがわかっているから、お嬢さんは誰にも言わないのです」


 ジャンゴさんはしきりに額に浮かぶ汗をぬぐっています。顔には緊張があらわになっていました。


「ダメだ、それはいくら何でもダメだ。娘にはあきらめさせないと」


「そんなことをされたら、お嬢さんは自ら命を絶つかもしれませんねえ」


 淡々とした、まるで内容に重みを感じていないかのような先生の言葉が、ジャンゴさんの胸には突き刺さったようです。


「そんなこと! そんなことは嘘でも言わないでほしい、連れ合いをなくしてからこちら、私には娘しかいないんだ。娘は私の宝物だ。そんな酷いことは」


「ならお嬢さんの想いを応援してあげることです」


「それは、だがそれは難しい」


 苦悩に頭を抱えるジャンゴさんでしたが、次に先生が口にした言葉にハッと顔を上げました。先生はこう言ったのです。


「うちの旦那様に仲裁を頼んではいかがですか」


「ハースガルド公に? いや、しかし」


「旦那様はご領主様と旧知の間柄ですし、あなたのお兄様とも顔なじみです。他にもイロイロと顔の利く方ですから仲裁役としてはうってつけでしょう」


「しかし、私はたいした資産もない。地位も名声もない。そんな私の願いをハースガルド公が聞き届けてくださるだろうか」


「僕からもお願いしてみますよ。きっと大丈夫だと思いますけどね」


 ジャンゴさんはしばらく呆然と先生を見つめていましたが、ふいに涙を浮かべて深く頭を下げました。


「よろしくお願いします」




 朝の二人目のお客様は、街で金融業のお金持ちの家で執事をなさっているダルモントさんでした。


「我が主は現金の扱いには細かいのですが、抵当として取り上げたモノについては扱いがぞんざいでございまして、ほとんどは私が管理しております。そんな抵当物件の中に宝石がいくつかあったのですが、これが昨日より行方が知れません。最初は家の中の者を疑いましたものの、私の管理によほどの手落ちがなければ持ち出すことは難しいのです」


「つまり管理態勢については自信があるのですね」


「左様でございます」


 背筋をピンと伸ばして座る白髪のダルモントさんはクセなのでしょう、白い口ヒゲに触れながらうなずきます。


 先生は少し首をかしげながらダルモントさんを、いえ、その向こう側を見つめるような目をしました。


「三日前、キシアというのですかね、盤上で駒を動かす遊び」


 ダルモントさんが目を見張ります。


「はい、確かに三日前、キシアの試合を当方の務める屋敷で行いましたが」


「それはあなたの雇い主が主催で」


「左様でございます」


「そのときキシアに強い人、若い女性を一人外部から呼んでますね」


「はい、先だっての都市対抗戦で入賞したイエミール様を主賓として招いております。まさか、あの方が」


「そのまさかです。どうやって管理体制の隙をついたのかまではわかりませんが、犯人はその人で間違いないですよ」


 ダルモントさんはしばし愕然と先生の顔を見つめていましたが、やがて深いため息をつきました。


「となれば、私が一人で掛け合って宝石を取り戻すという訳にも参りますまい。現場に証拠は何も残っていなかったのです、訴え出ても取り合ってはもらえないでしょう。それどころか宝石の紛失を主に知られ、クビとなるしか道は残されておりません。残念ですが仕方ありませんな」


「そうでもないです」


 けれど先生は明るい笑顔で首を振りました。


「まだ雇い主には知られていないのでしょう、あと数日ほど時間を稼いでみてください。あきらめるのはそれからでも遅くないですから」



 こんな調子で先生は次から次に依頼者を占って行きます。しかしその間にも新しい依頼者が離れの外に列を伸ばしているのです。今日も忙しい一日になりそうだなあと思い、私は気合を入れました。忙しいのは大好きですから。

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