ハーレムつくりたいと相棒にコンビ解消された支援職、未熟な美少女冒険者たちの教師というハーレムつくって幸せになる 〜また相棒に? もう遅いって。ハーレムに同じ男を置いておけるわけないだろ!〜
「すまない、カズイ。オレたちのコンビを解消させてくれ」
ギルド会館内で会った途端、前衛職の剣士マルコが、支援職の魔術師である俺にそんなことを言ってくる。
相棒のマルコとは、十年来のつき合いになる。
これまで共に汗を流し、遂には二人してS級冒険者まで成り上がって、前回の冒険者武闘大会では見事優勝を果たしたというのに。
到底納得できない俺は、マルコに言い返した。
「どういうつもりだ、マルコ。次の武闘大会も優勝して二連覇してやるぞっていう大事な時期だっていうのに?」
「わかってる、カズイ。お前が凄腕の魔術師だってことは。お前の支援がなかったら、オレはS級冒険者まで登りつめることはできなかっただろう」
「俺だって、お前が百年に一人の天才剣士だってことは誰よりも認めてるぜ。それなのにどうしていきなりそんなことを言い出すんだ?」
「それはだな……」
マルコが重々しく口を開いた。
「S級になって、優勝したオレは……女と」
「…………なに?」
「女だけとパーティを組みたくなっちまったんだ!!」
「……おい、まさか」
「……そうだ」
悟った俺は、マルコに叫んでしまう。
「美少女たちとパーティ組んで、自分のハーレムをつくりたいって言うのか!?」
「そのとおりだ! わかるだろう、お前も俺と同じ男なら!? なあ、相棒!?」
わかりたくねえよ!
そんな不純な動機で、十年来の相棒とコンビ解消したい奴の気持ちなんざ!
コンビを組んでの十年間。
モテたのは、俺より断然マルコだった。
理由は、簡単。
冒険者の界隈において花形なのは、支援職の俺より、前衛職のマルコだから。
おまけに明るい性格、整った容姿、剣の天才であるマルコは、ただでさえモテる奴だから!
安全な後方で俺が支援している間、マルコは危険な前衛で戦い続け、強敵にとどめを刺して、美少女たちの人気を上げてきた。
マルコの活躍は、俺の支援あってこそだという事実が、外から観ている女たちの目には写りづらいということもある。
モテるこいつに、俺が嫉妬することは確かにあった。
武術大会で優勝した後でも縁のない俺と比べて、こいつのモテっぷりときたら。
それでもマルコとコンビを続けてきたのは、俺なりに友情を抱いてきたからだ。
互いに支え合ってきた。俺がそうであるように、こいつにも恩義があるはず。
だというのに、こいつは……。
俺は途端に、こいつの前にいるのが馬鹿らしくなってきた。
「……話はわかった。コンビを解消してやるよ」
「わかってくれたか! さすが、俺の相棒! いやあ、うれしいぜ!」
喜んでじゃねえよ。
「俺の代わりはもう見つけてあるんだろ?」
「ああ、イズミとシオンだ。覚えてるだろ!」
昨年、俺とマルコと組んで、武闘大会に出た女僧侶と女エルフだ。
そういえば、あの時から二人してマルコに惹かれていた気がする。
まったく、どれだけ女の子を泣かせるつもりだ、こいつは。
「話は、終わりだな?」
「おう。今までありがとな、カズイ!」
「俺も本当に同じ気持ちだぜ。お前の今後の活躍を祈ってるよ!」
俺はマルコに背を向けて、その場を後にした。
マルコも知らない行きつけの酒場で、俺はカウンターの前に座って、注文した酒をグイッと飲み干した。
「あの野郎……」
自分だけハーレムつくりたいだと。
女の子を何だと思っていやがる!
「……さて、どうするかな?」
嫌な気分にされた俺は、心の中の苛立ちを抑えながら考える。
今から何をすればいいのかを。
マルコの野郎に、何とかしてやり返してやりたいとも思う。
昨日までの暮らしを奪われた俺は、明日から何をすればいいんだ?
何かヒントはないかと、後ろを振り返り、酒場の中を見渡した。
しかし酒場のテーブルのほぼ全てが空きだった。
今はまだ日没前のため、客は数人しかいない。
そんな中、奥にあるテーブルに、身なりのいい男が座っていた。
周りに、三人の女を侍らしている。
酒場の女だから、男は金をバラまいているだけだ。
そんなこと頭の隅でわかってはいたが、今の俺には鼻につく。
真ん中に座るあの男たちの姿が、これからのマルコの姿と重なった。
あの男がもし……俺だったら?
俺のパーティだったら!?
次の瞬間、俺は天啓を授かった。
目の前の靄が晴れ、心の中がスッキリする。
「……俺もハーレムつくるか」
そのためには、支援職の俺が何をすればいいのかもわかってきた。
翌日、俺は冒険者ギルド会館に行って、受付嬢から話を聞いた。
「聞きたいんだが、最近入った新人の中で、危なっかしい者やネガティブになってしまっている者はいないか? 助けになりたいんだ」
「はい。調べればわかりますが、一体どうしたんですか?」
「なに。S級冒険者として後輩たちの力になりたいと思ってね」
ハーレムつくりたいんだとは、さすがに面と向かって言えない。
冒険者という界隈は、新人教育において非常に問題があると、個人的にずっと思ってきたのは確かだ。
「それじゃあ、この子たちの相談に乗ってはもらえませんか。ギルドに入った時は自信満々だったのに、今は見る影もなくて……」
受付嬢が紹介したのは、新米少女三人のパーティだった。
幸先がいいと思ってしまったが、ここは真面目にいこう。
「わかった。まずは話を聞こう。それでいったいどうしたんだ?」
「初めての依頼で張り切ってゴブリンの洞窟に行ったんですけど……泣いて逃げ帰る羽目になってしまったんです」
ギルドに帰ってきた時は、ひどい有様だったという。
一部の者から大笑いされて、さらに心の傷を抉られたらしい。
全員無事に帰ってこれただけで御の字だろうに。
受付嬢が、彼女たちへの連絡と話の場をセッティングしてくれる。
俺に会うと答えたのは、一人だけだった。
ギルド会館の個室で、俺は奥の席でひたすら待つ。
やがて受付嬢に連れられて、その一人が入ってきた。
俺は立ち上がって、彼女を出迎える。
彼女の職業は、武闘家だった。
真っ直ぐ伸びたきれいな黒髪と、くりっとしたつぶらな瞳が、何とも清楚にして可憐な美少女。
おしとやかで、献身的な性格だとわかる。
小柄だが、引き締まった体格。
何より胸元がかなり豊かで、俺は目が――ぐっとこらえて、完璧に隠し通した。
こんな時だし、受付嬢の前だ。
それに、明るく笑えば絶対に可愛い少女の顔が、今はあまりにも暗かった。
先を夢見て元気にがんばっていたであろうこの子の心が、絶望に染まっている。
「こんにちわ。魔術師のカズイだ」
「あのS級の……本当に?」
驚いた少女は、初めて別の表情を見せた。
「ああ。俺がS級冒険者のカズイだ」
「……初めまして。武闘家のレイナといいます」
レイナが、ほんの少しだけ笑みを見せる。
S級の俺が話を聞いてくれることが、この子にとってわずかばかりの励ましになったようだ。
俺と少女、受付嬢は、三人揃って席につく。
「話は聞いたよ……大変だったね」
「はい……」
俺が同情を示すと、彼女は涙ながらに語り出す。
逃げ帰る羽目になった理由は、洞窟の中にいたのが、依頼内容とまるで違っていたから。
まず数匹だけと思っていたゴブリンたちが、何十匹といた。
奴らの思わぬ厄介さと気持ち悪さに散々翻弄されながら、まんまと洞窟の奥に誘い出されて、突然上級モンスターのオーガの不意打ちを受ける。
その後、彼女たちはパニックになった。
自分も怖くてたまらなかったレイナは、皆と一緒に逃げることだけに必死となり、気づけばギルド会館の中で先輩たち皆から笑われていたという。
無事に生還できただけで、彼女たちは幸運といえるだろう。
問題なのは、彼女たちがこれからどうするかだ。
仲間の魔術師にケガはないが、部屋のベッドで寝たきりになっているらしい。
もう一人の騎士は、部屋の中からときどき雄叫びや悲鳴が聞こえてくるという。
レイナは、自分の想いについて明かした。
「ずっと欠かしてこなかった修行も、今は手つかずになっちゃいました……。あなたのように武闘大会で優勝するのが夢だったのに……カズイさん、私、どうすればいいんでしょう?」
話し終えたレイナは、救いを求める言葉を最後にうつむいてしまう。
「……話はわかった」
パーティの仲間の精神を支えることも、支援職の大事な務めだ。
これからは、少女たちのために働くとしよう。
「受付、彼女たちが受けた例の依頼、まだ残っているんだったな?」
「はい。オーガ出現が確認されたため、誰もが二の足を踏んでいます」
よし。荒療治だが、自信を取り戻させるためには、やられた相手にやり返してやるのが一番だ。
「レイナ」
「……はっ、はい」
「すごく怖いだろうけど、もう一度この依頼に挑め」
「……えっ?」
「君がこれまで鍛え続けてきたその拳で、今度こそ初めての依頼を達成し、勝利と自信を掴み取るんだ」
「けど、けど……」
レイナは当然拒否しようとする。
「心配するな」
そんな彼女に、俺は言った。
「今度は俺がついていく」
未熟な美少女冒険者たちの教師となって、支援し、一人前に育てる。
これが支援職である俺が、次にすべきこと。
そして、ハーレムを作るための手段だ。
まあ、そのような下心はあったが、話を聞いた俺は、本気でレイナたちの力になりたいと思うようになっていた。
翌日、俺とレイナは町を出る。
レイナの仲間たちには内緒で行った。
彼女たちのフォローは、レイナの自信を取り戻させてからだ。
いざ洞窟の入口の前にたどり着くと、レイナは足がすくんでしまった。
「本当に……本当に大丈夫なんですか?」
「大丈夫だ。俺を信じろ」
そう言って、俺はレイナに防御強化の支援魔術をかける。
「なに、これ、あったかい……。身体中からカズイさんの温もりを感じます」
「わかるか。俺も指先で君の温もりを感じている」
俺の独特の支援魔術に、レイナは心地良いと言ってくれた。
マルコの野郎は、度々軽い口調で「気持ち悪い」とからかってきたもんだ。
「どうだ。君には俺がついているとわかっただろ?」
「はい……」
「だから君は、勇気を出して洞窟を一歩一歩と進め。勇気を取り戻すために」
「……わかりました」
レイナが前に、俺が後ろになって、洞窟の中へと足を踏み入れる。
洞窟の中で、レイナが怖がる度、俺は言葉をかける。
それに背中を押されて、彼女は一歩一歩と少しずつ進んだ。
彼女の歩調に合わせて、俺はついていく。
その間にも、レイナに防御強化の支援魔術をかけ続けた。
そうやって、洞窟を40mほど進んだところで、ゴブリンを発見する。
数は、六体。
20mほど先にあるT字路と複数の穴蔵に隠れて待ち伏せていた。
さらに奥には十体以上いるようだ。
「……カズイさん」
レイナが立ち止まり、俺に小声で呼びかける。
彼女の声は、怖くて震えていた。
「気づいたか?」
「……はい」
レイナが気づけたのは、俺が防御強化に加えて、感覚強化をかけたからだ。
「どうしますか?」
「このまま進んで、俺の合図で突っ込め。その後は手当り次第各個撃破だ」
「だけど……」
恐れるレイナを、俺は励ました。
「大丈夫だ、君なら勝てる。俺の支援もかかっている」
さらに闘志が湧き出る術と恐怖を和らげる術をかけてやった。
「どうだ、いけるか?」
「……いけます」
決意したレイナを先頭に、俺たちはゴブリンたちのいる方へ向かう。
そして、10m進んだところで、
「突っ込め!」
俺の合図と共に、レイナが勇気を振り絞り、ゴブリンに向かって突撃した。
同時に俺は、速度強化の支援魔術をレイナにかけた。
そうすることで、レイナの突入速度は何倍もの超高速と化す。
『ギャ?』
ゴブリンが気づく暇もなく、レイナは接近。
突入の勢いを乗せて、ゴブリンの顔面に拳を放った。
同時に俺は速度強化を消して、攻撃強化の支援をかける。
これが、俺の支援職として持つ唯一無二の最上級技術。
仲間にかけた支援魔術を一瞬一瞬の状況に応じて、最適な強化に瞬時に切り替え、限りなく一つの強化に集中させることで、効果を爆発的に向上させるのだ。
それによってレイナの拳の威力は通常の数十倍と化し、たった一撃でゴブリンを打ち倒し、その肉体を洞窟の壁の奥深くまで吹っ飛ばした。
レイナはさらに拳と蹴りを放って、そばにいたゴブリン六体を瞬く間に撃破。
あわてて出てきたゴブリン十体をも、たちまちのうちに片づける。
その間、俺は、レイナが移動と攻撃を切り替える度に、彼女にかける速度強化と攻撃強化を、完璧なタイミングで切り替えた。
こういうことができる支援職は、俺を除いたとて世界に二人といないだろう。
事が終わり、倒れたゴブリンたちを前にして、レイナは自分のやったことが信じられないかのように両手を広げながら呆然と立ち尽くす。
俺がそばに近づくと、レイナが口を開いた。
「カズイさん。わたし……」
「よくやった」
俺は、レイナを褒める。
「この調子で、オーガとゴブリンを倒すぞ!」
「……はい!」
レイナの瞳に、希望が戻ってきた。
『ギャギャ!』
『ギャギャ!!』
俺たちが進む度、ゴブリンたちがどんどん出てくる。
俺が支援していることにも気づいて、先に倒そうとしてきた。
しかし超高速と化したレイナが決して見逃さず、拳と蹴りで打ち払う。
ゴブリンたちは一匹たりとて、俺に近づくことすらできない。
そうして何十体と倒していった俺たちは、とうとう最奥の広間までたどり着く。
『グオオオオオオオオオオオオー!!』
そこには、標準を遥かに超えた巨体を誇るオーガが、ゴブリン二十体を率いて待ち構えていた。
余りの大きさと存在感に、レイナは愕然となるが、
「恐れるな!」
「……!!」
俺に激励されて、すぐに勇気を取り戻す。
時間をかけるつもりはない。
「一気に突っ込め!」
「了解です!」
レイナはそう返事をして、オーガめがけて突撃する。
彼女の動きに、もはや恐れはなかった。
俺は、レイナの強化をさらに高める。
レイナがオーガに一瞬で近づくと、腹部に拳を思いっきりお見舞いして、悶絶させる。
続けて真上にジャンプして、オーガの顔面にハイキック!
たった二撃で倒されて、オーガが地響きを立てながら崩れ落ちた。
いきなりの事態に、洞窟の中がほんのひと時だけ静まり返る。
次の瞬間には、ゴブリンたちが我先にと逃げ惑った。
しかしどこにも逃げ場はない。
レイナは追撃し、残りのゴブリンを全て打ち倒した。
「はあ……はあ……」
広間の中で、レイナが立ち止まっている。
実はまだ敵は残っているのだが、俺が感覚を強化していても彼女は気づけない。
勝利に気分が昂ぶって、周りが見れていないのだ。
「レイナ」
俺が呼ぶと、レイナは振り返る。
「カズイさん……私、やりました。私、やれましたー! カズイさんの……」
その時、レイナはようやく気づく。
俺の背後にある広間の入口の奥に、もう一体のオーガが隠れ潜んでいることに。
しかも、先程のオーガよりさらに大きい。
時既に遅く、そのオーガが、物凄い勢いで俺の背後から襲いかかってきた。
「カズイさん、危――!!」
『ガアアアアアオ――!!』
レイナの見ている前で、俺は攻撃強化を自分自身にかけて、振り向きざまに拳を繰り出す。
何十倍もの威力に高めた一撃を、もう一体のオーガの顔面に打ち込んだ。
目の前でオーガをうつ伏せに倒して、レイナを驚愕させる。
「フウ……」
「カズイさん!」
俺が一息つくと、俺を失うかも知れないという恐れから今日この日最も怖がっていたレイナが、思わず俺の腕に抱きついてきた。
彼女の豊かな胸元が、俺の腕に押しつけられる。
俺は嬉しい気分を表に一切出さずにいると、レイナが涙目になって顔を上げた。
「カズイさん……あの大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。このぐらいなんともない」
「すいません、私……」
襲撃寸前までオーガに気づかなかった自分の失敗と、思わず抱きついてしまったことを恥じて、レイナが瞳を潤ませながら俺の腕から手を離す。
俺は、彼女に言った。
「油断大敵。勝利を喜ぶのはいいが、町に生還するまで気を引き締めろ。冒険者としての心得の一つだ。覚えておけ」
「はい。ごめんなさい……」
俺に叱られて、レイナは落ち込んだ。
「だがそれ以外はよくやったぞ」
俺はすかさず言葉を重ねて、レイナを明るくさせた。
「俺の支援もあったが、オーガとゴブリンたちを倒したのは、間違いなく君の手柄だ。がんばったな、レイナ」
「カズイさん……ありがとうございます!」
今度は褒められて、レイナは喜んだ。
叱るべきところは叱る。褒めるべきところは褒める。
教師として、当然のことだ。
「それにしてもカズイさん、体術使えたんですね。力も技も、私なんかよりずっとすごかったです」
「ああ。支援職を先に狙ってくる敵から身を守るために習得したんだが、俺自身に強化魔法をかければ、この通りだ」
「はい、本当にすごかったです……。あの、カズイさん、私にもっと教えてくれませんか!」
いきなりレイナがそのようなことを言ってくる。
この言葉こそ、俺が待ち望んでいたものだった。
「私に体術も、冒険者としての心得も……この依頼が終わった後も、もっともっと教えてください。お願いします!」
「ああ、構わない。君がよければ。俺も君にもっとたくさんのことを教えてあげたいからな」
「あ、ありがとうございます!」
レイナは大喜びしてくれる。
俺もうれしかった。
「さて、帰ろうか」
「はい……。未熟な弟子ではありますが、これからどうかよろしくお願いします」
それから俺は、レイナとパーティを組んで、彼女の指導に当たった。
レイナの方も、俺の雑事や家事を手伝ってくれる。
レイナの仲間たち二人の復帰にも力を尽くした。
まずは女騎士のエリーゼ。剣と盾の前衛職。
金髪碧眼の背が高いキリッとした目つきの美人で、気が強い性格だった。
俺を信じるレイナに反して、エリーゼは俺を疑ってくる。
やがて彼女から話がしたいと言われて、俺とエリーゼは町の公園に行き、二人っきりで肩を並べてベンチに座る。
「カズイさん、あなた……私たちをたぶらかして、ハーレムをつくろうとしてるでしょ!!?」
エリーゼに頬を染めた顔ではっきり言われて、俺は激しく動揺してしまった。
だがそんな内心はおくびにも出さず、どう言い逃れるか必死に考える。
そこですぐある考えに至った俺は、機転を変えた。
こういう女性は、男たちの誰をも疑っているだけだ。
だから心の内は、とても脆くて純粋なのだと。
「……そうだ。俺はハーレムをつくりたい!」
「なっ……!?」
だから、想いをストレートにぶつける。
「そしてお目当ての女性たちの中で、君が一番素敵だと思っている!!」
「がっ…………!!」
エリーゼは、顔をもっと赤くして硬直した。
それ以来何も言わず俺の指導に従って、短期間の内に冒険者として復帰する。
俺とレイナのパーティに戻ったのは言うまでもない……フッ。チョロいな。
もう一人の仲間、童顔な青髪の魔術師キャシーには時間をかける。
気が弱い彼女には、それだけの長い時間が必要だった。
まずは彼女の部屋の中で、身の上の話を聞くことから始めた。
「ちっちゃい頃に、家の物置の中から古い本を見つけたの……」
「君が今の道に踏み出すきっかけになったんだね。それで――」
キャシーの才能は、このまま腐らせるには勿体ないぐらい本物だった。
やがては、レイナたちと一緒に町に連れ出す。
「キャシー。ほら、これおいしいよ」
「えっ……もぐもぐ……もぐもぐ……おいしい!」
「なに!? レイナ、私も、私も!」
数カ月後、キャシーは冒険者としての活動を再開した。
まずは町中でのお使いや町周辺の魔物退治からだ。
「《火炎呪文》!!」
「やったぞ! スライム四体目撃破だ!」
そしてレイナ、エリーゼ、キャシーの三人で、再びダンジョンに挑ませる。
もちろん、俺も一緒だ。
「今よ。下がって、エリーゼ!」
「わかった!」
「よし。今だ、キャシー!!」
「任せて、《火炎爆発呪文》!!」
俺の強化を受けたキャシーは、数倍に強化された攻撃魔法で、地下墓地を占拠していたリッチ一体とスケルトン十体をまとめて討伐した。
「やったね、キャシー!」
「キャシー、これでわかっただろ。君ならできるって」
「カズイさん……ありがと」
レイナ、エリーゼ、キャシーの三人は、本当の意味で自信を取り戻す。
特にレイナの体術は見違えるまでになった。
「みんな、本当によく成長したな。今までのがんばりの成果だ」
「いえ……私たちがここまでなれたのは、カズイさんのおかげです」
「そうか。そう言ってくれると俺も嬉しい……」
レイナたちは、俺に感謝してくれていた。
「ところでレイナ。武闘大会で優勝したいっていう君の夢。今も変わりないか?」
「はい、変わりません。私、大会で優勝したいです。今は、あなたと一緒に……」
「……そこでだ。今度の武闘大会、君たち三人で、俺と一緒に出てみないか?」
君たちの凄さを見せてやりたいんだ。特にあいつに。
『さあ、今年もやってまいりました、第十三回冒険者武闘大会!』
実況の声が響き渡る中、町の闘技場が集まった大勢の人たちで賑わう。
『今年栄えある優勝の栄冠を勝ち取るのは、果たして誰なのか!? 注目したいところですねー!!』
種目は数多くあるが、俺たちが参加するのは、四対四のパーティ戦。
何十ものパーティがしのぎを削るトーナメント方式。
一試合ごとに、四人パーティと四人パーティがぶつかって、どちらかが全員倒れるか降参するまで戦う。
俺が昨年、優勝した種目だ。
何の因果か、俺たちの一回戦の相手は、よりにもよってあいつだった。
『それにしても何ということでしょう。昨年、共に優勝した二人の華々しい戦いは、今でも私たちの記憶に刻まれています! だというのに記念すべき第一回戦第一試合で、今や袂を分かったこの二人が、早くもぶつかることになろうとは!?』
本当に実況の言うとおりだ。
『第一回戦第一試合。西門、マルコ・パーティ!!』
闘技場にいる観客たちの歓声が響き渡る中、東門に立つ俺たちの前に立ちはだかったのは、俺の元相棒のマルコだった。
他の三人は、全員女性。
昨年、俺とマルコと組んで優勝したメンバーのシオンとイズミ。
あと昔からあいつの大ファンだった、魔女のシャオリー。
四人全員が、S級冒険者だ。
マルコを中心に立ち回れば、十分すぎるほどに大会二連覇を狙えるだろう。
『東門、カズイ・パーティ!』
それと比べて、レイナたち三人は、ランク外の新米冒険者。
闘技場にいる誰もが、マルコの勝利を確信していた。
俺の考えは、全くの逆だがな。
試合前の挨拶のため、俺とマルコは、闘技場の中心で向かい合う。
「よう、カズイ」
マルコが、本当に幸せそうな笑顔で気安く話しかけてくる。
「オレと別れた後どうしているかと思っていたら……お前もかよ」
ニヤつくこいつのイヤラシイ視線が、俺の後ろにいるレイナ、エリーゼ、キャシーの三人に向けられた。
「お前も隅に置けないな、コノヤロウ♪」
「フン。何のことだ」
俺はあえて、しらを切る。
「まあ、新米のあの子たちにはケガさせないが、凄腕の支援職であるお前には容赦できねえぜ。恨むなよ……女の子たちの前で、無様な姿を晒したくないからな!」
「構わん。俺も容赦する気はない。元相棒のお前が恥かくことになろうともな!」
互いに本気で、正々堂々と、恨みっこなし、と俺たちは誓い合った。
その上で、お前にコンビ解消させたいと言われて、嫌な気分にされた時の借りを返させてもらおうか。
それにだ――。
俺が戻ると、レイナが心配になって話しかけてくる。
「あの、カズイさん……私たち、本当に勝てますよね? マルコさんには、あなたのすごさをわからせてあげたいですけど……」
自分はまだ未熟者だと思っているのだ。
エリーゼとキャシーも不安な目を向けてくる。
そんなレイナたちに俺は言った。
「大丈夫だ。俺がついてる。君たちなら勝てる!」
――レイナたちに、優勝というプレゼントを贈りたいからな!
『両パーティーとも構え!』
試合開始直前、審判の声が響く。
向こうで、マルコが剣を抜いて、余裕の笑みを浮かべる。
俺は皆の後ろに立って、先頭のレイナに叫んだ。
「いいな。作戦通りに」
「はい!」
闘技場全体が、緊張に包まれる。
『それでは第一回戦第一試合…………はじめ!!』
試合開始の合図と共に、レイナは真っ直ぐ突進した。
同時に俺は、レイナに速度強化の魔法をかける。
レイナの速度は、数百倍に達した。
「……ほえ?」
いきなり目の前にレイナが来て、マルコが惚ける。
そんなマルコにレイナが拳を振りかざし、俺は攻撃強化の魔法をかけた。
「ぐばっ!?」
数百倍に強化されたレイナの拳が、マルコの腹奥深くにクリーンヒット。
「ぶへえーっ!?」
続けて、数百倍と化したレイナの左アッパーが、マルコの顎にクリティカル!
S級冒険者にして天才剣士、前回優勝者のマルコは、新人の女の子にぶっ飛ばされて、空高く飛んで行く――。
俺がちょっと本気を出せば、このとおり。
マルコの敗因は、俺の真の実力をわかっていなかったことと、自分が女の子にやられるなんて少しも思ってもいなかったこと。
そんな油断を俺は、遠慮なく突かせてもらった。
悪いな、マルコ。
お前が大恥かくことになろうとも、レイナをこの手で優勝させてあげたいんだ。
――空からマルコが、ボテっと落ちてきた。
勝つはずだった天才剣士の無様な姿に、闘技場にいる観客たちは静まり返る。
あいつの仲間たちは、呆然となって立ち尽くした。
「まだ、やるか!?」
俺は叫んで、マルコの仲間たちを怯ませる。
「どうする!? シオン! イズミ! シャオリー!」
「……降参します。降参しまーす!!」
頼みのマルコが倒れたことで、戦意を喪失した彼女たちが両手を上げる。
『勝者! カズイ・パーティー!!』
観客たちの大歓声が響き渡る中、エリーゼとキャシーは大はしゃぎ。
「……勝てました。勝ちましたよ、カズイさーん!!」
レイナは大喜びして、俺に抱きついてきた。
そのおかげで、彼女の豊かな胸元の膨らみがまた俺に――。
「これも全部……カズイさんのおかげです」
「いや……レイナたちのおかげだよ」
俺の心の中は本当に、レイナたちへの感謝の念で一杯だった。
その後、俺たちは決勝戦まで勝ち進み、見事優勝の栄冠を勝ち取る。
俺は二連覇、レイナたちは初優勝だ。
優勝者インタビューで、レイナ、エリーゼ、キャシーの口から俺が今までしてきたこと、「私たちの実力ではありません。優勝できたのはぜんぶ、カズイさんのおかげです」と語られて、俺の名声は一気に広まった。
未熟な少女冒険者たちを保護し、育成する、俺の教師としての名声が。
冒険者界隈における俺の地位は確立されて、俺の元にはたくさんの美少女冒険者たちが集まった。
俺は時に厳しく、時に優しく指導し、彼女たちを一人前の冒険者に育てていく。
たくさんの少女が俺に感謝しなから自立していったが、多くの者たちが俺を慕ってそばに残ってくれた。
自立した子たちも、しょっちゅう訪ねてきてくれる。
中には、俺に想いを寄せてくれる少女も……。
「カズイさん、ダンジョンに行く準備ができましたよ」
「ああ……」
特に、レイナがそうだった。いつまでも俺の指導を受けていて欲しい。
そんな時にだ。
「よう、カズイ……」
「マルコ」
元相棒のマルコが、冒険者ギルドの会館にいた俺を訪ねてくる。
「久しぶりだな……」
「どうした、突然?」
「いや、実を言うとだな。オレ、最近上手く行っていなくてよ……」
「そうみたいだな」
マルコのきれいだった服は汚れていた。
確か今のマルコは、誰とも組めずたった一人だ。
元パーティのシオン、イズミ、シャオリーの三人は、紆余曲折あって今は俺を手伝ってくれている。
「お前はつくれたんだな、ハーレム……うらやましいぜ」
「マルコ……。俺に助けて欲しいのか?」
「……そうだ。助けて欲しい。オレが頼れるのはもうお前しかいないんだ」
マルコは本当に困っているみたいだった。
「率直に言うよ。またオレとお前でコンビを……」
「断る」
俺は即答して、マルコを唖然とさせた。
「……いや、虫のいい話だってのはわかってる。まずは謝らさせてくれ。お前がどう思うかも考えずにコンビ解消なんて言い出して……」
「わかってる、お前が後悔しているってことは。あの子たちに手を出す気はないってことも。俺も別に恨んじゃいない。今のお前に同情したぐらいだ」
借りも返せたしな。
「けど俺の答えは変わらない。お前が何を言ってもだ」
「……どうしてだ?」
「逆の立場になって考えてみてくれ。俺たちがつくりたかったハーレムという場所は、男一人がたくさんの女に囲まれていて初めて成立する。そんなところに同じ野郎一人を置きたいと思うか?」
「うっ……」
「今、俺はモテまくっている。ハーレムの中にいる! こんな幸せの絶頂を誰かに分けてやる気になんてなれない。むしろみんなに見せびらかせてやる! わかってくれるよな、お前も俺と同じ男なら。なあ、元相棒!?」
「ぐううっ……」
「だからお前にしてやれることは何もない。言うことは一つだけだ……帰れ」
いけないことに、俺はつい笑ってしまった。
「チクショー!!」
俺に笑われて、悔しいマルコはわめきちらす。
「今に見てろよ。スケベ野郎なお前なんて、すぐに追い抜いてやるからなあー!! コンビ解消言い出したのは本当に悪かったー。調子に乗ってたんだよ。マジでバカだった~~。ごめんよおおお~~~」
そんな負け惜しみと謝罪を言い残して、去って行く。
「……がんばれよ」
悪いな、マルコ。
彼女たちと一緒にいられて、俺は本当に幸せなんだ。
「カズイさーん。なにしてるんですか? はやくー」
「ああ、今行く」
俺は微笑んで、彼女たちのいる心地の良い場所へ戻っていった。
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