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9/22

8 感情

…………。


 クエスト終了後、視界が一度真っ暗闇になり、今回のリザルト画面が表示された。


【クエスト達成 おめでとうございます! excellent!! 】

【あなたは 報酬 を受け取りました。】

【報酬:500ノーツ】


【獲得経験値:500Exp あなたのLv:1】


【あなたのプレイヤーレベルが Lv:3 に上がりました!】

【あなたのアクションコマンド<ダークネスウィンド>が Lv:3 に上がりました!】


 よっしゃ。

 今回のクエスト達成で、ようやく初めてレベルが上がった。

 これ、獲得経験値がレベルアップの必要量より多すぎて、飛び級しちゃってるっていうよくあるパターンか。


 そして俺の唯一の魔法攻撃、ダークネスウィンドのレベルも上がったらしい。

 一回しか使ってないのにレベルが二つも上がった。

 これも低レベルあるあるだな。


 リザルト画面が一定時間を過ぎたためか、視界が強制的に元に戻り、クエスト出発前の広間に俺は立っていた。

 横にはテミスもいる。


 それにしても、一通りクエストの攻略が済んだわけだが、テミスが俺に何を伝えたかったのか、あるいは感じてほしかったのかまるでわからなかったな。



「クエスト、無事に終わってよかったな」


 何気なく、テミスにそう声をかける。


「フラン…。ずるいですよ」


「え? 何が?」


「フラン。あなたは、私が意図していた事を見事にかわしてしまったんです」


「何のことだよ?」


 テミスが何を言いたいのか、さっぱり見当がつかない。恐らく、俺の「ペアを組もう」という誘いを断った、その理由のことだとは思うが…。


 しかし、やはり理由の見当はつかない。

 至って普通にクエストを攻略できた。

 特にテミスに何も思わなった。

 確かに、若干いかがわしい気持ちになった場面がなくはないが…って、まさかそれか?


 そんな思案に暮れている俺に、テミスは少しだけ間をおいて次の言葉を口にした。



「……もういいです。説明しましょう。私がなぜあなたとペアを組めないのか」


「ああ。なんか、ごめんな」



「……。それは、私のマイナスステータス『欠損』に関係することです」


「テミスの『欠損』……。話してくれるのか」


 もしかして、例の『違和感』にも繋がる事かもしれない。

 クエスト中、例の件を聞き出すタイミングが無かったので、これから徐々に打ち解けていったら聞き出そうとか思っていたんだが……。

 

 しかしまさか、本人から説明してもらえる運びになるとは。



「私の『欠損』内容は“感情”です」


「感情!?」


「…………」



 どういう事だ。

 まず“感情”なんていうステータス項目は、このゲームのステータス画面にはない。いや、もしかして、種族ごとに画面が細かく異なり、天人族・あるいは天降女子のステータス画面には表示されているのか?


(ナビ子さん。もう本人から聞いたし、詳細を聞いてもいいよな? 感情なんてステータス、俺は確認できないんだが、どういう事だ?)


 俺は、テミスのセリフを聞いた直後、反射的にナビ子さんに質問を投げかけていた。



【『欠損』する内容は、以前にもお話した通り、このゲーム内にて補う事の可能なものだと決められています。補えるものであれば、ありとあらゆるものが、アバターの『欠損』となりえます。『感情』もまた、このゲーム内で補う事が可能な項目の一つです。】



(感情が欠損するってなんだよ? いまいちよくわからないんだが)


【感情の欠損は、非常にリスキーな欠損内容です。

 感情を『欠損』した者は、通常の感情のほとんどを失います。

 このゲーム内のプレイヤーや物事、全てに対して、本来抱くはずだった感情を自身では認知できなくなります。

 副次的に、感情表現が乏しくなり、物事を数値的な損得でしか判断できないようになります。また、著しく意欲や気力がそがれ、他人の気持ちもわからなくなるとされます。

 よって、その者の対人関係に多大な支障をきたします。

『欠損内容』の中でも、クエスト内外に強い影響を及ぼすタイプのものです。

 あまりにリスクの高い欠損のため、高い魔力量を誇る天人族にしか回って来ない『欠損内容』です。】


 魔力量が高いがために、天人族にしか感情の『欠損』はないのか。

 凄まじい欠損もあるんだな……。


「今、音声ナビで聞いたよ。感情の『欠損』について」


「そうですか。それで、どう思いました?」


「『欠損』に、ステータスが関与しない項目もあるんだなって関心した」



「……。それだけですか?」


 テミスのその可愛らしい顔は、依然として無表情のままだったが、おそらくは拍子抜けしていたのかもしれない。




 …なるほど。

 俺が感じていた違和感の正体はこれだったのか。

 普通、ここでこう喋るなら、こんな表情をするよな。という場面でも、表情が変わらず、口調も、雰囲気も、何一つとして変化がなかった。

 それが感情の『欠損』のせいだったということか。


 ようやく腑に落ちた。

 テミスに対する違和感は、感情の欠損のせいで生まれていた彼女の「機械っぽさ」だったのだと。


「クエスト攻略に関しては、実害がどう現れるのか、俺にはよくわからない。だって、さっきも普通にクエスト攻略しただろ? 何か変だったか?」


「さっき、私は太ももを切られる時、何も思いませんでした。たぶん普通は、あそこで何か違う反応を示すんじゃないんですか? フランも、くらやみ目の除去にかかる時、少し手が止まっていましたが」



「ああ……。だって他のプレイヤーの足を切るからな。ちょっとためらうというか、痛かったらごめん。とか、そう思うだろ普通」


「……ごめんなさい。よくわかりません」


「…………」


 なるほど。そういう感じか。


 さっきのクエストを例にして言えば、仲間のためにダメージを最小限にしつつ寄生モンスターを除去するとか、そういう気の使い方が出来なくなるのだろう。


 そして、今の会話ではっきりしたのが、クエスト外でのやりとりによる行き違いだ。

 テミスと会話をしていると、必ず馬が合わなくなる。

 意見が割れる。分かれる事になる。

 こうなると、当然…。


「そういえば、俺以外の誰かとクエストへは?」


「二回ほど行きましたよ」


「彼らはもう一緒じゃないのか?」


「どこかへ行ってしまいました。私といるとイライラするらしいです。」


 だよなー…。

 自分と意見が合わない者。

 自分に共感してくれない者。

 そういった者を、多くの人はいいように受け取らないだろう。

 外見がモンスターのプレイヤーであっても、中身は一人の人間だ。

 感情があり、相手にも感情があると思って生きている、普段から社会的集団に属する者達なんだ。


 掲示板の前で、クエストを吟味している大勢の者達を眺めながら、感慨にふける。


 このゲームの『欠損』には、こういった種類のマイナスステータスもあるのか…。

 えぐいな…。

 いくら天人族が高魔力量だからって、なかなかハードモードだぞこれ。


 しかし、完全に蓋をされたわけじゃない。

 ナビ子さん曰く、これさえも、補う方法があるという事らしい。


(欠損した『感情』には、どういった補い方があるんだ?)


 脳内のナビ子さんに問いかける。


【感情を『欠損』している場合、当然ながら『感情』を補充する必要があります】


(感情って補充できるのか!!??)



【……冗談です。感情を補充はできません。いえ、できるにはできますが、正確には、補強されていく、という表現が正しいかもしれません】


(補強?)


【感情を欠損している場合、特定の人物と長時間接し続ける事で、感情が補強されていく事になります。むしろ、それ以外に方法はありません】


(それって、人物が入れ替わるとだめなのか?)



【あくまで特定の一人だけとです。その人物が入れ替わってしまった場合は、またゼロからという事になります。】


 特定の一人だけ、か。

 それじゃあ確かに、テミスの事情を知っている者が現れない限り、彼女の『欠損』に回復の(きざ)しが見えてくる前に、離れていく者がほとんどになってしまうだろう。

 テミスがパーティを組むのは、かなり難易度が高いに違いない。

 俺には、そう感じられた。


 今、向こうのほうで複数人でクエストの受注をしている者達が、ごく当たり前のように行えている事が、この天人族の彼女には難しい。

 クエストに出掛けてしまえば、百人力かもしれなくても、それ以前に越えなければいけない心理的ハードルがある。

 そういう事なのだろう。


 これは『ゲーム』でありながら、『社会』でもある。

 人が不特定多数集まり、遊んでいる以上、必ず発生する厄介な代物だ。

 彼女には非常に酷かもしれない。


 と、そう思っているはずなのに、俺はなぜか改めて右手を差し出して


「うん。やっぱりそれでも、俺とペアを組まないか?」


 懲りずにテミスを誘っていた。



「……。フランは、もしかして頭が悪いんですか?」



「はっはっは。そうかもしれないな」


「私とペアを組むと、あなたもイライラするかもしれないんですよ?」


「事情はわかったって。まあ俺、これでも達観して物を見るのが得意なほうなんだ」



 そうだ。

 俺は何しろ、エオネオを買ったはいいが自分の心理を優先した挙句に、遊ばないという選択肢を取る強情っ張りである。

 人は、これを天邪鬼(あまのじゃく)ともいうかもしれない。

 皆が手を組もうとしないプレイヤーとこそ、ペアを組む。

 無論、楽しみをそこに見出していこう。

 これはもう、天性のひねくれ気質が招いている結果なのかもしれないな。


 テミスは相変わらず無表情だが、その顔の奥では、呆れているかもしれない。


 そう考えながら、ふと空を見ると、辺りは次第に夕暮れに差し掛かり始めていた。

【作者からのお願い】

作品を読んでいて


「続きが気になる!」

「更新楽しみにしてる!」

「応援してるよ~」


と思われた方は、是非【☆☆☆☆☆】から評価を入れていただけると

作者のやる気がアップします。


面白くても、つまらなくても評価は大歓迎です!

お手数でなければ、よろしくお願いしますね!

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