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7 くらやみ目


「テミス。よかったら俺とペアを組まないか?」


 俺は天人族の天降女子(あもろうなぐ)・テミスに、右手を差し出し、ペアに誘うことにした。


「……」



 なんだ?

 この間は、一体なんだ?

 なぜそんなに俺の差しだした右手をジロジロ見ている?

 俺の右手が、悪臭でも放っているのか? 



「遠慮しておきます」


 なにいぃぃぃぃい!!!


 なんだろう。何に不満があるのだろうか。


 別に魔族ってそれほど弱い種族ではないと思うし、むしろ『極楽浄土』の世界じゃそこそこ魔力量高いよな?

 それとも、初めたては誰ともペアやパーティ組まずに、ソロで結構いい所まで行きたいタイプか? それか、こんなフランクな感じでは誰とも組まないと決めてるのだろうか。



「な、なんで遠慮してるんだ? 別に魔族の仲間がいると、不便になるわけでもないだろ?」


「フランは誤解をしています」


「誤解?」


 ナビ子さんの言うように、やはりテミスの表情はよくわからない。

 表情が読めないまま、ただ言葉だけ発せられているので少々不気味だ。


「私があなたを嫌っていたりするわけではありません。

 不便だというわけでもありません。

 むしろ、一人きりになっていた私に、救いの手を差し伸べた救世主みたいな存在です」


 救世主は言い過ぎです。

 しかし、だとしたら尚更断る理由がわからない。


「だったら、どうしてだ?」



「……いいです。理由をお教えします。一緒に、初級クエストへ行きましょう」



「ああ、別に構わないが…」


 まさか、テミスのほうから初級クエストに誘ってくるとはな。

 ただ、例のタイミングはまだ無さそうである。


「……これにしましょう」


 クエストの貼られてあった掲示板のそばまでやってくると、テミスが俺と一緒に行くクエストを選んでくれた。

 掲示板に浮かんでいるクエスト項目を押し、シャッと音を立てて現れた詳細内容を確認する。



【初級クエストNo.6 くらやみ目の撃退(ソロ・ペア限定)】

【制限時間:50分】

【ステージ:行灯(あんどん)部屋】

【クリア条件:くらやみ目の撃退・討伐の成功】

【失敗条件:被寄生プレイヤーの行動不能状態】


【初回クリア報酬:500ノーツ】

【獲得経験値:500Exp】


 くらやみ目ってなんだよ。

 No.1の【あずき洗いの撃退】から気付いていたが、このゲームって妖怪が敵キャラクターとして出てくるんだよな。

 しかし、聞いたことないな。

 くらやみめ。 


(ナビ子さん教えてもらえる?)


【クエストにて現れる敵キャラクター:くらやみ()は、プレイヤーに寄生するモンスターです。主に脚部に寄生し、微量ながらプレイヤーの魔力を吸収し、徐々に大きくなっていくという特徴があります。】


 寄生するモンスターもいるのね…。想像したら少し寒気してきた。


「クエストを受けますね。フラン、表示画面のイエスのボタンを押してください」



―――――――――――――


【 テミス さんの受注した【初級クエストNo.6 くらやみ目の撃退】に参加しますか?】


   Yes   No


―――――――――――――


 イエスのボタンを押すと、視界が暗くなった。

 お馴染みの真っ暗なロード画面にて、再びクエストの詳細を目にする。


 ……それにしても、寄生するタイプとか厄介そうだな。

 上手く撃退出来ればいいんだが、完全に初見プレイだし。

 ペアでクエストやるのも初めてだし。

 不安しかないな。




 暗転からしばらくして、視界が変わった。


「うわ! まぶしいっ…」

 いきなり目の前に現れた光によって、視界が途切れる。

 しかし、そのまま数十秒すると、その明るさに慣れてくる。


 次第に明るさに慣れると、そこが六畳ほどの和室だという事がわかった。


「フラン、私が見えますか?」


「お、おお。なんとかな。テミスのほうも大丈夫か?」


「平気。少しまだ視界がまぶしいけど」


一緒にクエストを受けたテミスは、俺の前で眩しそうに目元を細めたり、ぱちぱちと瞬きを繰り返してみていた。



 ここが、どうやら【ステージ:行灯(あんどん)部屋】らしい。

 三方をふすまで囲まれ、一方にだけ床の間と掛け軸が備え付けられてある。

 そして名前の通り、部屋の隅には行灯が置かれてある。


 だが、どういうわけだが、その行灯の明るさは一定じゃないらしかった。

 明るくなっては暗くなり、暗くなっては明るくなる。

 その繰り返しだ。



(調子が悪いのか? この行灯は。)


【それがステージ:行灯部屋です。】


(ナビ子さん…。それがって、どういうことだよ)


【行灯部屋は、狭い和室に電球色の照明がたった一つだけ置かれたステージです。

 その照明は、プレイヤーの『目』が明るさに慣れ始めた頃、一気に暗くなります。また逆に、暗さに慣れ始めた頃、一気に明るくなるよう調整されています。

 つまり、このステージにいるプレイヤーは、時限式の視界不良を受けるようになっているという事です。】


 めっちゃ眼精疲労溜まりそうだな、このステージ。

 うわ。そう思ってる間にもまた一気に暗くなった。なんにも見えないんだが。


【それと、本来の人間の目が明暗に順応するには、暗順応が遅すぎるため、明るさと同程度に順応されるよう、視覚も調整されています。

 およそ40秒ほどで、明暗それぞれにおける視界不良と、順応の完了が起きます。】



「フラン…。音声ナビから、この行灯部屋の事聞きましたか?」


 丁度、俺の脳内でナビ子さんの説明が終わるタイミングで、テミスにそう尋ねられる。


「ああ、たった今あらかたの説明を受けたところだ」



「そうですか。では、早速ですが、私の“太ももの辺り”を見てもらえませんか?」



「は!!??」


 俺は、心臓の鼓動が早くなるのを感じた。

 無論、急にテミスが変な事を言うからである。


【血液の減少がやや、著しくなりました。血液ゲージに注意してください。】


 脳内のナビ子さんにそうツッコまれ、冷静になろうと自分を(いまし)める。

 変な想像するな、俺!


「何を想像しているんですか? 恐らく、フランが想像している事ではありません。こちらを見てください、こちらを」


「………ん? うわあっ!」



 よこしまな想像を掻き消して、まず俺の目に飛び込んできたのは、ぎょろりとした瞳だった。

 

 テミスは、俺に向けて、自分の装備してたドレスタイプの装備の裾をたくしあげていた。

 たくし上げられたその柔らかそうな太ももに、眼球が綺麗に寄生していたのだ。



 テミスの太ももの皮膚を裂いて出てきたという感じはしない。

 上下のまぶたもごく自然にあり、テミス自身もそこに痛みは感じていなさそうだった。



「うわぁー…痛そう。くらやみ目っていうからには、やっぱり目そのものかよ…。

 何か違う姿のあるモンスターかと思っていたけど」



「見た目ほど痛くはありません。ただ、魔力は少しずつですが、減っていっています。」


 ジュジュジュ……ジュルジュジュ……


 魔力を吸い取っているのだろうか。嫌な音がする。



 ふむ。この寄生したモンスターを除去すればいいんだな。


 だがしかし。



 だがしかし、その太もも。健全な男子高校生にはとてもたまりません……。



 テミスの綺麗な太ももばかりを見ていると、変な気を起こしそうである!

 だめだ。

 太もも全体で見るから、だめなんだ!


 もしかして、これはこのクエストを考えた奴の性癖か!!?? 


 はぁー…。


 ゲームの運営に、太ももに眼球を寄生させるという特殊性癖の持ち主がいる事に溜め息をつく。いやいないかもしれないが、ならせめて18禁とか、無難に規制したほうがいいと思う。


 テミスの傷一つないその太ももが、行灯部屋の時限式視界不良によって、余計にみだらな雰囲気をまとっている気がする。


 しかし、戸惑っている場合じゃないな。

 テミスはくらやみ目で魔力を奪われていっているんだ。


「よし!! 忌々(いまいま)しいこのくらやみ目を撃退する」


【くらやみ目は、寄生している表面から切り離すことで取り除く事ができます。

 魔力をこめた刃物などで、眼球が見えている部分の周囲を切り込んでいけば切除することが可能です。】



「なるほどな…。それで、刃物とか持ってない俺はどうすれば?」


「刃物なら、ここにあります」


 テミスが、俺の右手にゆっくりと触れてそう答える。



「右手!?……あ、手じゃなくて爪か」


 よく見ると、テミスは俺の指先に触れていた。


【そちらの方の言う通り、魔人の爪は、刃物と同等かそれ以上の強度を誇ります。この場合、指先に魔力を込めるだけで、くらやみ目を切除する道具として使えるものと予測されます。】



「そうと決まれば話は早いな!」


 テミスやナビ子さんから助言を受けて、自分の右手に魔力を込め始める。

 こうしている間にも、テミスの太ももに寄生していたくらやみ目は、わずかながらに大きくなっていく。



 ジュグジュジュ……ジジジュ……


 急げ。急いだほうがいい。




 俺の右手の人差し指から、緑色に光る小さな粒子の群れが溢れ出ている。

 恐らく、魔力を指先から使用できる状態だという事を示しているものと思われる。


「そ、それじゃあやるぞ? テミス」


 緊張しつつも、血液不足にならないよう、平常心を心掛ける。

 

「って、うわ!! 暗くなるタイミング!! 全然関係ないところ切るところだった」


 テミスの太ももを切ろうとしたその時、丁度部屋の明かりが落ちたのだ。


 行灯部屋の場合、ステージ自体がクエストの攻略をこうして阻害してくるのか。

 危ない。本当危ない。

 文字通りの闇医者かよ、俺。

 

「気をつけて」


「ああ、わかってるよ」


 部屋の明るさに合わせて、テミスの太ももに右手の人差し指を近付ける。

 魔力の粒子を宿している爪の先端を、そっと優しく当てていく。


「ッ……平気です」



 テミスは、…我慢しているようだ。

 少量の血が出はじめ、テミスの体力ゲージがほんの少しずつ減っていく。


 テミスの顔は、痛みでゆがんでいるだろうか。

 そう考えつつも、顔は見ないようにしていた。

 雰囲気や呼吸でなんとなくそうかなと察したが、合っているか確かめるのも変だと思ったからだ。



 俺は視線を上げず、一心不乱にくらやみ目の除去を目指す。

 結構細かい作業だ。

 部屋の明るさは不安定で、しかも余計な所を切ってしまえば、それはプレイヤー個人に無駄な痛みを負わせることになる。


「…………」



(あと少し……!)



(もう数ミリで眼の周りを一周できる……!!)


 二人の呼吸音だけが、明滅するこの部屋に響いていた。







 そして、


「ふぅー!!……よしっ!!!」



 一仕事したとばかりに、俺はいつの間にか垂れてきていた額の汗を腕でぬぐった。


 無事、くらやみ目をテミスの太ももから切り離すことができた!

 妙な達成感に浸りそうになった。

 とそこで、


「『撃退』なので、切り離したそいつを倒さないと、クエストは終わらないです」


「そ、そういえばそうだな」


 テミスは、自分の太ももに手を当てて、傷付いた箇所を回復しているようだった。

 回復魔法使えるんだな。

 うらやましい。



「よし、【ダークネスウィンド】!!!」



 ビュオオオオォオォォォ!!!


「ジュウウウジュグジュゥゥゥゥー!!」


 俺は、切り離されたくらやみ目に向けて、ダークネスウィンドをくり出した。

 叫ぶ必要は全くない。

 くらやみ目はあっという間に切り刻まれ、空中へかき消えていった。


 一通り終わったな。

 目の疲労感に耐え兼ねて、俺は両目を何度か腕でこするのだった。

【作者からのお願い】

作品を読んでいて


「続きが気になる!」

「更新楽しみにしてる!」

「応援してるよ~」


と思われた方は、是非【☆☆☆☆☆】から評価を入れていただけると

作者のやる気がアップします。


面白くても、つまらなくても評価は大歓迎です!

お手数でなければ、よろしくお願いしますね!

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