6 天降女子(あもろうなぐ)
………………。
…………………………………。
【クエスト失敗 game over!! 】
【行動不能状態により、初級クエストNo.2 を失敗しました。】
【獲得経験値:0 あなたのLv.1】
血液不足による行動不能状態のため、俺はクエストを失敗してしまった。
視界のブラックアウトは、本当に俺自身が現実で眩暈を起こしたかのような鈍痛を伴う感覚だった。
(ってか、また獲得経験値ゼロかよ! それにしても、あれが初級クエストNo.2って難易度高すぎないか?)
気が付くと俺はまた、クエストを受注した時の掲示板のある広場に戻ってきていた。
【先ほどの初級クエスト『濡れ女子の話』は、コラプスと呼ばれる種類のクエストです。】
ナビ子さんが相変わらず機械的な口調で話し始める。
(コラプス?ってなんだ?? まず単語の意味がわからないんだが…)
【コラプスと呼ばれる種類のクエストは、主にプレイヤーの精神状態をかき乱そうとする傾向にあるクエストを指します。ちなみに、コラプスとは虚脱や衰弱という意味です。】
(それ、俺にはかなり相性悪いクエストじゃないか?)
【その通りです。コラプス系のクエストは、血液ゲージに負荷のかかるものが多いです。欠損が『血液』であるフランさんには、特に不利なクエストでしょうね。】
(難易度が高いというよりは、相性の問題か……。というかそもそも、このゲームのクエストって、そういう何々系みたいな細かい分類があるのか…)
【それほど細かくはありません。一般的な戦闘によるアクション系のクエスト。先ほど失敗してしまったコラプス系のクエスト。採集を目的としたコレクター系のクエスト。クエストは大きくこの三種類に分類されます。】
ナビ子さんの説明を聞きながら、クエストの貼られてある掲示板の方を眺める。
色々、クエストにもあるんだな…。
だけど、なんだか斬新な体験だったな。
フルダイブ式のVRだからか、ゲーム内でもあの濡れ女子への感情移入がやめられなかった。本当に俺まで涙が出てきて、止められなかったしな。
と、先ほどの『濡れ女子の話』の余韻を噛みしめていると、前方のクエスト掲示板の賑やかな人だかりから、少しだけ離れたところで立ち尽くしている女の子がいる事に気がついた。
人混みから、距離を取っているらしい。
話せる相手もいないのか、一人だけぽつんと佇んでいて目を引く。
見た目も普通の人間そのものだ。
目鼻立ちもすっきりして整っている。
もしかしなくても、あれは現実世界だとかなり可愛い部類に入る容姿だと見受けられる。
しかし、そんな可愛い子のそばに、もののけ族や幽体族のプレイヤーがうようよいるので、中々のカオスがそこにあった。
俺より少し背が低く、白を基調とした装飾の少ないドレスのような装備をまとっている。
皆、装備屋で様々な装備を手に入れているのだろうが、その白のドレスを着ている者はまだ見掛けたことがない。
「…………」
「……!」
無言で眺めていると、俺の視線に気付いたのか、あちらも俺の存在に気が付いたらしい。
無表情のまま、ゆっくりと俺のいる方へ歩いてくる。
そして目の前まで近づいてくると
「その耳の……」
「……ん?」
女の子は、その可憐で少し幼そうな見た目にしては、いくらか落ち着いた口調で、俺に話しかけてきた。
「この耳の、宝石みたいなこれか?」
「そう。私にもある。ほら…」
そういうと、女の子は肩くらいまである自分の黒髪をかき分けて、耳を見せた。
かき分けて現れた少女の小さい耳たぶに、神秘的な白い宝石のような石が埋め込まれている。
中に青みがかった線が入っている。
この子自体の可愛さも相まってか、その耳たぶの鉱石がとても綺麗で洒落ているものに見える。
「これ、魔力量の多い種族だけが、身体に埋め込まれてるらしいです」
少女はゆっくりと話しながら、自分の耳たぶを触っていた。
(そうだったのかよ! ナビ子さん、それならそうと教えてほしかったんだが)
【聞かれていない以上、答えようがありません。】
(ハハハ……まぁ、それはそうだけど。で、この石って、そもそも何なの?)
冷酷なるウグイス嬢ナビ子さんは、耳に埋め込まれているこの鉱石について淡々と話してくれた。
【それは魔石です。
魔力量の多いアバターが、魔力を使用する際に合わせて使用します。
魔石を介する事で、魔力にある程度の制限を持たせられます。
制限により、比較的安全に魔力を使用できるようになるアイテムです。】
(安全にってどういう事だよ…)
【『極楽浄土』の世界では、種族によって基礎的な魔力量に違いがあります。
その中でも、膨大な魔力量を擁するプレイヤーは、特にその驚異的な魔力量を扱えきれず自滅してしまうケースも無くはありません。
膨大な魔力を自在に扱えるようになるには、それなりのレベルが必要という事です。】
(そこで、この魔石か)
つまりこの魔石は、未熟なプレイヤーの魔力操作を介助する役目があり、一定の高魔力量のアバターには初めから配られているらしい。
「もしかして、音声ナビゲーションと話してる?」
「!……あ、ああ。まあね。今少し魔石について教えてもらっていたんだ」
俺がナビ子さんと話していると、いきなり目の前にいたその女の子が、顔を覗き込むようにして話しかけてきた。
音声ナビとの会話は全て脳内で完結するため、はた目には話しているように映らない。
この子は今、俺とナビ子さんとの事を勘で当てたのだろう。
恐ろしいな。
「“魔石持ち”がどういうアバターなのか教えてもらったんだけど、あ、あんたも、魔力量の多い種族なんだよな?」
俺は、緊張を隠せないまま、少女にそう尋ねた。
初対面のプレイヤーと話すのは、どのゲームでも過度に緊張してしまう。
俺の悪い癖だ。
「私は天人族です。階位は天降女子。
名前だけはもうあなたからも見えてると思いますが、テミスといいます。
ナビによると、天人族は一番魔力が多い種族だと聞きました」
天人族!!
初めてから昨日まで、一切見掛けることの無かった種族名である。
「テミスさんか。俺はフラン・グレースって名前でやってる。まあそっちからも名前は見えてるだろうけど。種族は魔族だ。よろしくー」
「宜しくお願いします」
ちょこんと挨拶を交わすテミスさん。
これほど可愛いのに、なぜさっきは人混みから浮いていたんだろうか。
確かに、VRの仮想現実世界のうち、『魑魅魍魎』は特にアバターの見た目の癖が強いように思う。
半分獣のような姿だったり、浮遊する半透明な霊体であったり、血色の悪すぎる俺みたいなやつもいるしな……。
それが理由で、普通の人の姿がかえって馴染まないのだとしても、男どもが放っておかなさそうな見た目をしている。
ネカマだとしても構わない!とか思う奴が出てきそうなくらい、この人の顔は可愛い。
下手すると、うちの高校の同級生の誰よりも可愛い。
身長は160センチも無いくらいだろうか。
近くに寄ってこられたせいか、思いのほか背丈はあるようにだった。
「テミスさん、天人族なんだ。
俺、このゲーム初めてからまだ一人も天人族の人に会った事なかったから、てっきり音声ナビが大嘘こいてるんだと思ってた。はははっ」
「テミス。私のことは『テミス』と呼び捨てで構いません。
それと、ナビはそう簡単に嘘をついたり、プレイヤーを騙したりしないと思います」
「そ、そうだね……」
テミスは単調な口ぶりで受け答えをしている。
うん。別にテミスの見た目には文句のつけようもないんだが、なんだろう…こう…。
さっきから引っかかるこの違和感。一体、何なんだ?
「フランさん、どうかされたんですか?」
テミスにそう質問された。
「ん? ごめん。なんでもない。
あ、そうだ。俺の事も呼び捨てでいいよ。『フラン』でいい」
呼び捨てにためらいがあったのか、少し間をあけてから
「フラン…。わかりました。呼び捨てにさせてもらいます。フラン」
(おお……。可愛い子に呼び捨てにされるのって、結構悪くないかもしれない。
無論、アバターが可愛いのであって、テミスの中の人が男の可能性もまだ捨てきれていないわけだが)
テミスは俺の事をフランと呼ぶことにしたらしいが、どうやらまだ敬語は抜けないらしい。
「フランはもしかして、まだ種族の生まれる割合について、音声ナビから詳細を聞いてないんじゃないですか?」
「割合?」
「この極楽浄土で生きている六つの種族は、それぞれ生まれる人数が違うんです。
この世界では、魔力量の多い種族ほど少なく、魔力量の少ない種族ほど多く生まれてくる。つまり、天人族や、フランのような魔族は、そもそも出生割合が少なく、出会える確率も低くなっているという事なんですよ」
「へぇー、そうだったのか! それは知らなかった。」
「なので、フランがまだ天人族に会ったことが無かったというのも、ごく自然な事です。」
言われてみれば確かに、魔力量の多い天人族が沢山生まれたりしたら、環境がひどい事になりそうだしな。
その辺の割合を操作しているというのも当然か。
ん…?
やっぱり何かが変だ。
テミスが話している時の表情を見て思う。
なんていうか、立ち姿はすごく人間そのものなんだけど、顔というか、表情や雰囲気のようなものが…。
(一体、なんなんだこの違和感は)
【それは彼女の『感情を読み取れない』という事だと予測されます。】
ナビ子さん! 丁度いい所へやってきた。
というかまぁ、無言でずっと脳内に居座られてる感覚だが。
(感情が読み取れない?)
【おそらく、それは彼女のステータス内容が関係しているものと思われます。】
(それは?)
【……これより先の詳細は、個々のステータス機密保持につき、伝える事ができません。これは、本人からの説明によって知る事が可能です。むしろ、それ以外に知る手段はありません。】
なんでも音声ナビが教えてくれるってわけじゃないんだな。
甘かった。
振り返ると、音声ナビに頼りすぎていた所があるし。
(わかった。タイミングを見て直接聞いてみる事にする)
テミスと共に行動していれば、そのうち聞き出せるタイミングが来るかもしれない。
あまり構えられないように自然を装いつつ、どこかで聞くことにしよう。
俺は密かにそう決めたのだった。
【作者からのお願い】
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