19 置行掘(おいてけぼり)
翌日は休日だったので、朝から『魑魅魍魎』にログインする事にした。
朝からやるのは初めてだが、少し『極楽浄土』にも時間帯による違いがあるだろうか…?
【おはようございます、フランさん。本日もよろしくお願いします】
(おはよう、ナビ子さん~)
俺はクエストの受付広場に来ていた。
相変わらず人だかりがあるかと思っていたが、平日の夜ほどの人口密度はなさそうだった。
ふーん。
朝だと人少ないんだな。
そんな事を感じながら、ふと、フレンドリストを見てみると、
「あれ? テミスがログインしている」
リスト中のテミスの枠が、ログインを示す緑色に光っていた。
ちなみに、ログアウト状態は光っていないことで示されている。
ノセノセはログアウト中だな。グジラメは…まあログイン中と。
『おはよー。早いなテミス。今クエスト中?』
テミスに個人用のチャットを送ってみる。
「後ろにいますよ?」
「テミス! …って、このやり取り、デジャヴ感がすごいな…」
個人用チャットを送ってからすぐ、俺の背後からテミスが声をかけてきた。
こえーよ。
「私は基本、休日はログインしていますから」
「ハマりすぎだろ。どんだけ暇なんだよ…」
「……。今日はついに中級クエストですか?」
「あー、まぁそうだな。もうレベルも20代に乗ったし、中級受けてみようかな?」
「そうですか、どれにしますか? 中級クエストもいろいろありますが」
「テミス、中級受けたことある?」
「……? まだ私はありませんが」
意外だった。
別に、俺達は受けるクエストの足並みを揃えようだとか、そのような約束をした覚えはなかった。
以前受けたナンバリング『言霊使いと白昼夢』は、あまりの手厳しさに、ノセノセと三人で力を合わせることになったが、それだってそれきりの話だ。
俺とペアを組んでくれと頼んではいたが、俺がログアウトしている時の行動まで、俺が制限するような関係にはない。
テミスはもうLv.24。
野良(不特定のプレイヤー達とパーティを組むこと)で中級を遊んでいても、全然不思議じゃないんだがな…。
感情が『欠損』しているテミスでも、少し俺に気を使うようにでもなったのか?
「フラン、何か考え事ですか?」
「ん? いや、特に考えてないよ」
「そうですか。……今日は中級を受けるんですか?」
「ああ。イベント前に中級に一度でいいから挑んでおきたいんだよな」
「…どうしてですか?」
「今回のイベントは通常時の三種類の難易度に合わせて、イベントクエストがそれぞれ初級・中級・上級という形でくるんだろ?
初級で安定してクリアできそうなら、確かにその初級のイベントクエストを回して、『霊魂』を集めればいい。
確かにそうなんだが、じゃあなんで『中級』『上級』なんてものが用意されるんだと思う?」
「……どうしてですか?」
「あくまで俺の予想だけど、上の難易度になるほど、報酬の『霊魂』の数が増えて、より効率的に『霊魂集め』ができるようになるんじゃないかと踏んでるんだ。
時間効率の話。通常のクエストだって、報酬のノーツは難易度があがると当たり前のように増えていくだろ?」
「確かにその可能性は高そうですね…。じゃあ今のうちに中級で肩慣らしをしておこうと」
テミスはいつものように無表情だったが、俺の言っていることを理解はしてくれているようだった。
彼女の『欠損』のことを考えると、別にこうした打算的な話は嫌いじゃないのだろう。むしろ、損得勘定になってくる分、テミスの領分だとも言える。
テミスはぶつぶつと小さく何かをつぶやきながら、あれこれと考えだしているようだった。
見た目が少し幼そうなのに、理知的な雰囲気をまとっている。
そんなテミスの姿にギャップ萌えを感じる者も絶対いるだろう。
何を隠そう、俺もちょっと感じているのだから。
俺とテミスは、とりあえずという事で、中級クエストのひとつを受けることにした。
「これなんてどうだ?」
【中級クエストNo.2:お望みのままに】
【制限時間:60分】
【ステージ:雑木林(夕~夜)】
【クリア条件:置行堀、またはのっぺらぼうの望みを叶える】
【初回クリア報酬:2200ノーツ、どろん帽】
「置行堀ですか。いいんじゃないですか? 受けたことがないのでわかりませんが」
「このクエスト、敵が二体出てくるみたいだが。『のっぺらぼう』。さすがにこの妖怪は俺も知ってる」
「『のっぺらぼう』?」
「あれ、テミス知らないのか…? まあ受けてみればわかるだろ。行くぞ」
俺とテミスは、中級クエストに慣れる目的で、まず手始めに『置行堀』のクエストを受けることにした。
――――――――――――――――――――――
例によって、視界が一度暗転し、今回のクエストのステージである【雑木林】に移動した。
ザザザァァァー…ザザアーザァァァー…
辺りは鬱蒼とした木々で囲まれている。
風が吹くと、それらの葉のかすれ合う音が俺とテミスの頭上から降り注いでくる。
木々の隙間から見える空は、夕暮れに染まっていた。
遠くからカラスの鳴き声なんかが聞こえてきて、どこか寂しいいような、物悲しいような、そんなノスタルジックな雰囲気にその一帯は包まれていた。
「あ、あう、あう…」
「うわ! びっくりした!!」
周囲を見渡していたその時、突然目の前につるりとした皮膚一枚しかない顔の妖怪がそこに立っていた。
一目でわかるな。『のっぺらぼう』だ。
「フラン、その妖怪が…」
「ああ、そうだ」
いつの間にか横にいたテミスも、俺の目の前に来ていた“そいつ”が『のっぺらぼう』である事を理解したらしかった。
しかし、本当に何もないな。
皮膚一枚。ただそれだけ。目も鼻も口もない。耳もないし、眉毛やヒゲなんかもないんだな……。
本当にツルッツルとしている。
その皮の下にある骨格が、タマゴなのではないかというほど、形が綺麗なカーブをえがいている。
髪の毛が肩くらいまである。
白地に黒の二本線が入った着物と、その着物に似合うくすんだ赤色の下駄を履いている。
ああ、下が雑木林の土では、あまり下駄らしい“カラコロカラコロ”という音はしないんだな。あの音結構好きなのに。
ぱっと見た感じ、まさしく【化け物】だ。
いきなり現れたせいで驚かれて、攻撃によって倒されてしまってもおかしくないビジュアルをしている。
それくらいインパクトが強い。
俺じゃなかったら一発くらい攻撃していそうだ。
「あうぅ……あぅ……」
さっきから口もないのに、どこからか「あ」と小さい「う」の音を出している。
だがしかし、一応クエストの詳細を見るに、この“のっぺらぼう”と意思疎通をとらないといけなさそうだったのだが、……大丈夫か? これ。
「あの…?」
「あ……えぇ。はい……ん?…どなたかいるのでしょうか…」
声を聞いてわかる。
若い男の声のようだ。
そして、しっかりと話すことができるらしいな。
よかったよかった。
その事に俺は安心した。おそらくテミスも安心しただろう。
ただ、いまだにどこからこの声を出しているのかはさだかじゃない。
「いますよ、ここに。ふたりいますよ?」
目の前に俺達がいても、やはり目がないからわからないのだろうか?
「ああ。よかった。よかったですよ」
……。耳はないけど、俺達の声は聞こえると。
なかなかのご都合主義妖怪だな。笑
「いきなりですみませんが、わたくしの願い事を叶えてはいただけないでしょうか?」
「どんな願い事ですか?」
「わたくしは、ご覧の通り目が見えません。
その理由から、まずお話させてください。
去年の七月七日。
七夕の日、私は友人から、望遠鏡を持ち寄って天の川を見よう、という誘いを受けました。
その日は晴れるという予報でした。
わたくしは彼の家へと向かいました。
誘いでは、彼の家で天の川を見る計画でした。
無事到着すると、わたくしは望遠鏡を担いで、二階にある彼の部屋へとあがりこみました。
それから、せせこましい窓からじゃなく、開けた外で眺めてやろうという話になりました。
ですが、望遠鏡を彼の家の下屋に運び出そうとしたとき、誤って窓ガラスを割ってしまいました。
そのとき飛散したガラスが、わたくしの両目をつぶしてしまったのです。
わたくしはそれ以来、今のように目の不自由な存在となってしまいました。
そこでお願いがあるのです。
この雑木林を抜けた先に、『置行堀』というお堀があります。
少し大きい池のようになっている場所です。
そこにわたくしを連れていってほしいのです」
のっぺらぼうが一度にそこまで話しきると、その話の区切りを見たテミスがこう口にした。
「…そこへ連れていくと、何かあるんですか?」
「そこには『置行堀の主』と呼ばれる水の者がいます。
その者は、顔に寄生する水を放ち相手の目くらましをするのですが…。
その目くらましが、一度その人が見たかった光景を見せてくれるという、とても奇妙なものなんです」
おいおい、まさかな……?
のっぺらぼうの話の続きが、だんだんと読めてくる。
「わたくしは、本当ならば彼と一緒に天の川を眺めるはずでした。
友人と星空を見ることが、どれだけの犠牲を払ってでも叶えたいわたくしの願いでした。
ですから、わたくしを『置行堀の主』に会わせてください。
そうして、水の目くらましを受け、わたくしが見るはずだった光景をちゃんと見せてほしいのです!!」
のっぺらぼうは、俺とテミスに向け、祈りをささげるように両手を組んでいる。
ふむふむ。
やっぱりそうか。
彼の話を聞いていて、大体予想はついていたが……。
(ナビ子さん、クエスト開始早々にごめん。まず疑問なんだが、妖怪から妖怪、つまり敵から敵って攻撃したり受けたりできるのか?)
【異なる妖怪同士の場合には可能です。同じ種類の妖怪の場合は、そこからまた複雑な事になっていきますが、今回の説明でこれは省いたほうがいいと判断しました】
(あ、できるのね。なるほど)
可能らしい。
それならそれで、まあやってみるか。
上手くいくかはわからないが…。
「フラン、とりあえずやってみましょう」
「ああ。まあ、やってみるしかないよな…」
俺とテミス、そして『のっぺらぼう』の三人は、生い茂っていた雑木林の先にあるという『置行堀』へと向かうことにしたのだった。
【作者からのお願い】
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