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15 グジラメ

「これを“マイガーデン”で植えればいいんだとさっ」


 ノセノセにそう言われたのが二十分くらい前の事だ。

 俺、ノセノセ、テミスの三人は、『言霊使いと白昼夢』のクエストクリアによって、それぞれ『カラスビシャクの種』と呼ばれる植物の種を手に入れていた。


(そもそもマイガーデンって何?)


【マイガーデンは、植物などのある素材を入手すると解放される『個人用の農園施設』のことです。種などを入手した際は、こちらで育成することが可能です。】



 こうした植物の種などを手に入れると、マイガーデンと呼ばれる項目が通常時のインターフェースに追加されるという事だった。



 ……これか。

 俺は視界に浮かんでいたマイガーデンの項目ボタンを押してみる事にした。


 ヴンッとにぶい音を立てたかと思うと、目の前の景色が、さきほどのクエスト受付広場から、緑豊かな大地へと移動した。

 なんというか、大草原って感じだな。

 俺のすぐそばには土のたがやされた畑が(うね)を連ね、その周囲を手頃な高さの白い柵が囲っていた。

 その横には、きれいな小川なんかも流れている。


【あちらの畑が、フランさんの所有する農園施設のうちの一つになります。初期段階では、あまり面積もありませんが、植物を育てるには十分な機能があります。】


 なるほどな。

 ここで好きなだけ農夫になれるというわけか。

 怪物が野菜とか植物育ててるって、なんだかすごい組み合わせ。

 さすがライエクだな、一味違う。(棒)


【種は、植えることで野菜や果実を実らせたりできます。樹木に育てば、そこから樹液を入手することができます。

 一度植えれば、あとは時間経過によって成長していきますので、プレイヤーは種を植える他、何もしなくて問題ありません。】


 お手軽でいいな。

 俺はとりあえず『カラスビシャクの種』を植えておくことにした。

 ナビ子さんの話だと、あとは放置しておけという事だし、このままにしておこう。


 クエスト受付広場に戻ると、すでにノセノセとテミスが俺を待っているようだった。

 そんなに時間をかけたつもりはないが、申し訳ないな。


「お、戻ってきた。……なあフランー。そういえばさ、難易度詐欺クエスト、俺達はクリアしたってことになるんだよな?」


「あ、そうだ! ナンバリングクリアか!」


「そうそうー」


 ノセノセの言葉で気が付いた。

 確か、この広場にあったもう一つの掲示板。

 プレイヤー達のあいだでは『ナンバリング』と呼ばれている例の小さい掲示板のほうには、こう書かれてあった。


『とどめきちゃんは見た! 難易度詐欺クエストにナンバリング!!

以下のクエストをクリアしたプレイヤーには、こちらの掲示板でもとどめきちゃんから別報酬をあげちゃうから、よろしくなのよ~』


 妙な口調の書き込みだが、その“別報酬”とやらを、俺達はまだ受け取っていなかった。


 すぐに、広場の隅の方にある存在感の無い掲示板へ近寄る。

 改めてその題目の内容を目にすると、やはり報酬をくれるという話らしい。


「んー? でもどうやって受け取ればいいんだ?」


「あ、フラン。掲示板の一番下のほう…」


 俺が首をかしげていると、テミスが指をさしてそう(うなが)してくる。

 ふむ。掲示板の下のほうに、注意書きがある。


『※報酬は、【ハルピーの道具屋の二階にて、お渡しするからね! 勇者きたれ!】』


 勇者きたれって? みんな怪物なんだよなー…。

 心がイケメン。心が勇者。みたいな意味で言ってるのか。


(ハルピーの道具屋ってどこ?)


【ハルピーの道具屋は、以前に訪れた“ハルピュイア”のいた道具屋のことです。一階は道具屋ですが、二階にはまだフランさんは行ったことがありません。】


 なるほど。あそこか。


「前にいった道具屋の二階で受け取れるらしい。行ってみるか」


「何がもらえるのか、書いておいてくれてもいいのになー」


 俺達三人は、以前の道具屋にまたお邪魔する事となった。


 道具屋に入ると、やはり例のハルピュイアさんがいた。

 こんなに早くまた会うとはな。

 頭と身体のビジュアルギャップがやっぱりすごい。


「おお、にいちゃん達、いらっしゃい! またゆっくり見てってな~!」


 そしてこの結構元気な口ぶり。

 さっぱりした性格なのか。NPCだけど。


「すみません、ここの二階って、どうやって行けばいいですか?」


 そう。ここの二階だ。

 ただこの道具屋、階段が見当たらない。

 おそらく、店員用カウンターの向こうに見えている扉の先にあるのだろう。


「うーん? どうした? もしかして、グジラ…あ、とどめきちゃんに何か用なのか?」


「クエスト掲示板の件で…」


「そうかそうか。じゃまぁ、奥の扉入って、すぐ左だな~。そこに階段があるから、二階にいける。階段あがってすぐの部屋に、彼女がいるぞ」


「ありがとうございます」


 淡々とテミスが話を進めていった結果、奥の階段から二階へ上がってくれという話の運びになった。

 何か、ハルピュイアが言い間違えた気がしたが……。


 カウンターの後ろにあった扉を開けると、暗い廊下が向こうに伸びていた。

 その廊下を進み始める手前に、階段がある。

 電気はついておらず、その暗い廊下や階段には人気がなかった。

 本当に、この階段の先の部屋に、『とどめき』はいるのか?

 そんな不安が立ち込めてくる。

 しかし上がっていってみるしかないか。


 俺達三人は、あやしげな道具屋の二階へとあがっていった。


 ほこりっぽい臭い。(きし)む足音。

 かろうじて三人お互いの表情がわかる薄暗さ。


 そうして俺達は、ハルピュイアの言う通り、階段をあがってすぐの部屋の前までやってきた。


「あ、開けるぞ…」

「お、おう…」

「…………」


 一体どんな怪物なのだろう。

 掲示板から想像できるのは、明るい性格っぽいなという事くらいだった。

 そんなことを思い返しつつ、俺はゆっくりと扉のノブを回した。

 



―――――――――――――――――――――――――――


「お!! きたきた~! 来たね来たね、君たち~~!!」


「え?」


 部屋に入った俺達の目の前にいたのは、ちょっときわどい格好をしている少女だった。

 彼女は上半身裸だった。

 いや、本当にそのまま裸という裸ではなかった。

 胸にサラシをまき、左腕は包帯でその大部分が覆われている。

 下半身は桃色の袴を履き、その椅子にちょこんと座り込んでいた。

 しかしなかなか攻めてる格好である。正直エロい。


「あなたが、『とどめきちゃん』ですか?」


 目を引くその格好でも、テミスは平然と質問した。


「そうだよー! アタシがあの例の掲示板の書き込みをした張本人『とどめきちゃん!』だよ~」


 元気いっぱい。

 ハキハキとしていて清々(すがすが)しい喋り方。

 そんな言葉が第一印象にぴったりな女の子だった。

 道場少女って感じだな、なんか。竹刀(しない)とか握ってそう。


「君たち~! ナンバリングの『言霊使い』クリアしたのかな? 通知が来てたわ!!」


 やるじゃ~ん、とニコニコしている彼女だったが、よく見えると、左腕の包帯の終わりから、左肩・鎖骨(さこつ)・首筋・左ほおにかけて、目玉がたくさんついている事に気がついた!

 結構“精神的にきそう”な見た目をしてる部分だな…。



「ってか、名前『とどめき』じゃなくて、『グジラメ』になってるけど? 何かこれ不具合とか?」


 ノセノセの言葉を聞いて、俺も彼女の頭上に表示されたプレイヤー情報を確認した。

 確かにプレイヤー名が『グジラメ』になっている。


「あー、まあそっちが本当のプレイヤー名だからねぇ。『とどめきちゃん』っていうのは、前の“組合”でのあだ名みたいなものなんだよ~! 階位がとどめきだし」


 組合(くみあい)…?

 聞き慣れない単語が出てきた。

 例のごとくナビ子さんに回答を求める。


【組合は、複数人のプレイヤーで構成される団体のことです。組合員のみのチャットもあり、非常に便利なコミュニティ機能のひとつです。】


 ああ、他ゲームでいうギルドや団の事か。

『魑魅魍魎』では“組合”と呼ばれているのか。

 このゲームにもギルドシステムみたいなものがあるんだな。



「さて、本題だね! 君たちがここへやってきたのは、掲示板にあった“別報酬”の件じゃないかなって思うんだけど、どうかな~?」


「その通りです」


「ふむふむ。やっぱりそうだよね、気になるでしょ? 別報酬はね~、ドゥルルルルルル……ジャンッ! “なんでもいいよ”!」


「……え??」


「なんでも…?」


「…………」


 みずからドラムロールを表現して、報酬内容を発表してくれた『とどめきちゃん』だったが、“なんでもいいよ”ってどういう事だ?


「そう! なんでもいいよ! ほしいもの、なんでも一つだけあげちゃう!!」


「ええええ!!??」


「すごっ……」


「すごい太っ腹ですね」


 元気いっぱいに、なんでもいいよ! とか言われると、なんだか拍子抜けするな…。

 というか、本当になんでもいいんだろうか。


「あ、もちろん、アタシがあげられる範囲のものね! いきなりこの『極楽浄土』まるごとちょうだい! とか言われても、無理なのはわかるよね? そういう無茶はナシだよ!!」


(この人…NPCとかじゃないよね…?)


【この方はプレイヤーです。階位がとどめきですので、種族は(あやかし)族に属します。】


 プレイヤーなのになんでもあげますって、いろんな意味ですごいな。


「なんでもって急に聞かれても困るなぁ~」


「だよなー」


「そもそも、どんなアイテムがあるのか、まず全体を把握してませんし…」


三人とも、スケールの大きすぎるこの選択に、少し詰まっていた。


(ナビ子さん、こういう時俺におすすめのアイテムとか何かある…?)


【要求されてるアイテムならあります。おすすめかはわかりませんが…】


(要求されてるアイテム?)


【アクションコマンド<蜃気楼>がLv.10に到達しています。

 特定のアイテムを使用する事で、上位のアクションコマンド<空中楼閣(くうちゅうろうかく)>Lv.1へ強化させる事が可能です】


 おお!

 上位のアクションコマンド!!

 レベルと特定のアイテムの使用で、アクションコマンドを強化できるのか。

 <蜃気楼>は『言霊使い』戦で、かなり輝いてたと思う。

 これより強くなるのか。


(空中楼閣っていう上位コマンド…?)


【アクションコマンド<空中楼閣>は、単体の敵に対し、その視界を完全に閉ざす強力な補助系魔法です。

 敵の視覚は完全な暗闇の楼閣に閉じ込められ、一定時間が経過するまで、もとの視界には戻れません。

 本人以外からは至って普通に見えています。

 また、かけられた側の意識が閉じ込められている楼閣の暗闇は薄くなったりせず、効果の続いている間は時間経過の直前までも完全な暗闇となります。】


(おおー。もはや命中率うんぬんっていうステータス関与じゃなくなるわけか。結構強そうだな)


【こちらのアクションコマンドは、レベルアップと共に、その効果時間が伸びていくようになっています。】


 視界を閉ざす効果の補助魔法か。

 幅広く使えそうな効果だな。

 ここぞという場面で視界が真っ暗にされたら、相手はたまったもんじゃない。


(で、必要なアイテムは?)


【アクションコマンド<蜃気楼>から<空中楼閣>への強化には、<蜃気楼>Lv.10の到達のほか、クエスト報酬でもらえる『プロメテイオン』が必要となります。】



 そのアイテム『プロメテイオン』があれば、俺の<蜃気楼>を強化できるという事らしい。

 現状、とどめきに申し出る最有力候補だな。


「ねぇねぇ~、何がほしいか決まったー?」


 俺達三人が、それぞれ悩んでいるのを待ちきれないといった様子で、とどめきがそう口にする。


「う~ん……」


「あっかっかっか! ずいぶん悩んでるねぇ~」


「そういえばこれってつまり、【難易度詐欺クエスト】をクリアするたびに好きなものを一つずつもらえるって事ですか?」 


 あっかっかっかっと、面白い笑い方をする妖怪。

 そんな妖怪に、冷静沈着な我らがテミス嬢はそんな言葉を投げかけていた。

 確かに気になるいい質問だ。


「おおっ! あなたって、とってもいい質問するんだねぇ~♪」


「で、どうなんだ…?」


 ノセノセも気になるといった顔で聞き返す。


「残念ながら答えは“これっきり”だよぉー! 嫌な予感通りの一度きりッ!

 大切なチャンスだからじっくり考えたほうがいいとも思うけど、アタシ的にはサクッと決めちゃってほしいんだよねー」


 とどめきは、人差し指を立てた片方の手を唇のすぐ下にあてながら、首をかたむけ、態勢をフラつかせながらそう口にした。


 大切なチャンスだ。

 自由にアイテムを選んでいい。なんならアイテムじゃなくてもいいのかもしれないな。

 アイテム以外って、そもそもプレゼント機能の対象なのか謎だけど。


「ちなみに、『グジラメ』さんはこのゲームのアイテムを全て持っているということですか?」


「あ、アタシのことは『とどめきちゃん』でいいよ~?

 アイテムはね~、今結構持ってるんだけど、言われたものを持ってなかった場合は、その報酬がもらえるクエストにアタシを同行させてもらおうかなって思ってるんだけど、……それが答えでダイジョブ?」


「「一緒にクエスト行くの!?」」


「上級クエストまでならアタシ、ソロで余裕よ~?」


 俺とノセノセは、驚いて目を丸くさせた。

 いろんな意味で驚きだった。

 テミスは相変わらず無表情だったが、


「…妖怪のような人ですね」


 と、ぽつり一言こぼしたのだった。

 なんか妖怪って言葉がしっくりきた。

 と、そういう事なのだろう。

 わかる。

【作者からのお願い】

作品を読んでいて


「続きが気になる!」

「更新楽しみにしてる!」

「応援してるよ~」


と思われた方は、是非【☆☆☆☆☆】から評価を入れていただけると

作者のやる気がアップします。


面白くても、つまらなくても評価は大歓迎です!

お手数でなければ、よろしくお願いしますね!

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