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挿話 タカノノ

「―――――タカノノー。 えー、天乃原(あまのはら)タカノノー!」


 ん? 誰かが私を呼んでいる?


「おい、天乃原!! いるなら返事をしろっての!!」


「あ、先生。おはようございますッ!」


「何がおはようだ!? 今授業中だぞ!!!」


 先生からお叱りを受けてしまった。

 クラスメイトがクスクスと笑っている。

 私・天乃原タカノノは、昨日でちょうど17歳になった高校生である。

 頭脳明晰・容姿端麗・品行……不良…といった特徴を兼ね備えてるちょっとだけ不真面目な現役の女子高生。

 授業中、とてつもない睡魔がやってきたのは、先ほどの一連のやり取りからご想像いただけることだろうと思う。


 でもさ、仕方なくない?

 VRゲームおもしろいんだもん。

 こんなん寝不足にならないほうがおかしいって。

 休日だったら一日中、やっちゃうし。



 最近は『エレメンタルコープス』でヒットしたメーカーの新作を遊んでる。

『魑魅魍魎』っていうグロいパッケージが特徴的なVRMMORPGだ。


 ……和風バイオ系?

 パッケージの印象からそんなこと思ってた。

『エレメンタルコープス』が面白かっただけに、こっちの新作も多少の期待感があった。

 ついにこのメーカーさんからフルダイブ式が出たっていうのもあるけどね。

 

 ここのメーカーは、前作までVRカメラで体感できる3Dアクションゲームしか出していなかった。

 通称『セミダイブ式』。

 

 それが今度は、全身をゲームの仮想世界に落とし込んで遊べる、通称『フルダイブ式』のゲームの発売とのことだったから驚いた。




 学校が終わるなり、私は家で早速『魑魅魍魎』を起動した。


【ようこそ~いらっしゃいませ。ここは魑魅魍魎の世界、『極楽浄土』ですよ。】


 脳内に音声が響いてくる。

 なるほどね。こういう音声ナビがあるんだ。


【これは、あなたが何者であるかを見つめ直すゲームです】


(え?……なんかテーマ重たくない?…)


【それほど重たくはないですのでご安心くださいね! ご案内を続けますが、よろしいですか?】


(え! 会話できるの?)


【会話できますできます~! あ、でもあんまり変なこと聞いたり言わせたりしないでください? 結構すぐにBANされちゃうかもしれませんよ~】


 ひょうきんな声だった。

 私の脳内で会話をしてくれるその人は、ちょっとお調子者っぽい口ぶりが印象的だった。

 たぶん実際そうなんだろうね。


【あなたの等身大となるこのアバターに、お名前をつけてあげましょう~。なるべくなら、日本語か英語がおすすめですよ~!】


 アバター可愛いじゃん!

 髪の毛ちょいながで顔のパーツ整ってるし、背もいい感じ。

 う~ん。しかし悩むなぁ…。

 こういうゲームとかの名前って、私毎回悩むんだよね。

 自分っぽさを出したいけど、リアルの自分から切り離したい気持ちもあるし。


 というかそもそも、名前って、ただの文字の並びでしかないけど自由度高すぎない?

 なんかルールとかあればなぁ…。

 ルール…?


 そういえば、今日世界史の授業で、先生がおもしろい余談を話してくれていた。

 私は授業の本編より、余談にばっかり耳を傾けてしまうことがある。

 先生、ごめんなさい!笑


 余談の受け売りだけど、ギリシア神話は、『擬人化』文化の始祖(しそ)らしい。

 愛とか恋とか、善悪とか心理とか、いろいろなことがらを擬人化する都合で、その時代の人たちはそれらに神様という姿を与えて表現していたみたい。

 おもしろい文化があったもんだね。


『ルール』の擬人化ってあるのかな?

 さすがに無さそうだけど……。

 と、私は以前スマホでポチポチと検索をかけていた。


【 ギリシア神話 ルール 神 】 検索


 うーん。ルールじゃひっかからないか。

 なら


【 ギリシア神話 法律 神】 検索


 これでどうだろ?

 すると、


『 検索結果 』


『テミス - Wikipedia』


 あるんだ!笑

 ルールとか法律の擬人化。

 へー、ルールの擬人化というか、ルールの神様は『テミス』っていうんだ。


 何かで聞いたことある名前だけど、まあいっか。

 決定決定。



【あなたの名前を テミス に決定しました。】


【続いて、それじゃあテミスさん、あなたのステータスについて、ひと通り説明していきますよ~?】


 それから、脳内音声さんは私の見えている視界から、ステータスの確認や、自分がどういうタイプの怪物であるのかを説明してくれた。

 親切設計最高じゃん。涙がでる。



(種族が天人族!!

 天人族はいいけど、これ怪物って単語のイメージじゃないかも。

 でも可愛いからいいね。

 ていうか『欠損』が“感情”とかやばくない?

 これやっててゲーム楽しめるのかな…)


 感情がだいぶ欠けているらしい特殊なアバターになってしまった。

 でも魔力量は最高クラスかー。

 一長一短てやつ?


 でも実際プレイしてみると、思いのほかつまらなくはなかった。

 もともと私は感情的じゃないほうだし。

 そのせいか、いつもより二割マシくらいで感情の浮き沈みが感じられない。


 なんというか、超落ち着いてる。

 気持ちが超安定してる気がする。

 リアルの自分は、まだ感情があるんだなと実感するくらい!笑

 感覚としては、感情が“無い”というより、感情の動きがノロノロと“遅くなっている”というほうが正しいかもしれない。



 精神的な安定が気持ち良くて、結構なルンルン気分で最初の都市へと入っていった。


 都市、と呼んでいいと思う。

 大きな壁で囲われた、箱庭みたいな街が視界に広がっていた。

 都市の中央には広場がある。

 その奥のほうに、お屋敷もある。


 広場にいる、青いゲージと名前がついている人たちはプレイヤーとの事。 

 人だかりはクエストボードみたいなところに集中している。

 どうやらここは、クエストの受付を兼ねた広場になってるっぽい。

 そんな風に観察しているときだった。


「ねぇねぇ、そこの女の子! うわ、めっちゃアバターかわいいですね!

 よかったら俺とクエスト受けませんか?」


 見知らぬ怪物から声をかけられた。

 人間くらいの身長でありながら、手足にヒレがついている。

 身体の表面がうろこで覆われている。


「……」


 私が彼の手足を見て茫然(ぼうぜん)としていると、


「ああ、これ? この手足は俺が【マーマン】だからだ。俺の種族は魔獣。階位は【マーマン】だぜ! 君は?」


「天人族です…」


「天人族!? すご! 一番魔力量高い種族じゃん!! 俺、カイルっていうんだ。そっちは?」


「テミスっていいます」


 私の名前を聞いて、それいい名前だねぇ!と謎の名前鑑定士っぷりを見せるカイル。

 なんかやけにテンション高いなぁ…。

 ちょっとおいつけないかも。


「一緒にクエやろうよ。魔力量多いってことは、技打ち放題でしょ?」


「ま、まぁ…」


(なんでわざわざ私なんかと一緒に行きたいんだろう。わかんない。

 それに、私って技打ち放題なの?)


 私の疑問に、脳内音声ナビがすぐ答えてくれた。


【魔力量が多い種族は、確かに保有してる魔力値が多い分、たくさん打てます。】


「じゃあ俺の援護よろしく!」


「…はい」


――――――――――――――



 クエストは何事もなくクリアできた。

 彼が敵キャラクターと戦ってる最中、私は回復役に徹してあげた。

<ヘヴンシャニティ>の使い勝手がよすぎるよ。


 それから、私のプレイヤーレベルと、アクションコマンドのレベルが上がったらしい。

 アクションコマンドのレベルも上がってくれるのいいね。

 数値があがっていくと、なんだか充実してると思える。


「いやー、クリアできてよかったね! 今の敵、結構強かったし!!」


「へー…」


「あれ、テミスちゃん、そうでもなかった?」


「私は回復の魔法を打ってただけなので」


「ははは…、まあ確かにそうだね」


「?」


 テンションの上がり下がり早いよこの人。いや、マーマンさん、か。

 それに初級クエストなんだからクリアできて普通なんじゃないの?


「よし、次のクエ受けていこう!」


「あ、次から一人で行ってください」


「え!? なんで!!??」


 カイルさんはなぜか驚いたような顔をしている。


「あなたとクエストに出ると、初級クエストなのにたくさんの魔力を使い、たくさん回復を発動させなければいけません。クリア時間も遅いので、効率が悪いと感じました」


「ひ、ひどいな!! まだみんな始めたばかりのプレイヤーなんだから、そりゃそうだろうが!!」


「もっと手こずらずにクリアできる人もいます。それに、マーマンが陸地の敵と戦うのは分が悪いです」


 そう、何も私と組む必要性はない。

 あなたはもっと早くクリアできる人とペアになるべきだ、と。

 そういう意味で言った。

 マーマンのことは、脳内音声さんから聞いた。


「なら、他と組めよ!!! やってらんねーわ!」


「……」


 ??


 カイルさんはなぜか怒っていて、私を思い切りにらんだかと思うと


「性格悪いなあんた。……もういいわ、じゃあな」


 そう言い捨てて、私から離れていってしまった。



――――――――――――――――――――


 また、他の人も、その次に声をかけてきた人も、みんなクエストが終わり私と会話をすると、よくわからない怒り方をして離れていってしまう。

 そんな事が何度もあった。




 感情が『欠損』しているからか、こうしたやり取りが何度続こうが、私の心は決して嫌な思いをしたりしなかった。


 ああ…。いや、もしかしたら、そういう気持ちは持っていたのだけど、『欠損』のせいで、自分で認知できていないだけなのかもしれない。


 ちなみに、この『欠損』の(おぎな)い方だけど、どうやら特定の人と長期間過ごしていく必要があるそうだ。


 だから、『欠損』を補うことはめっちゃ難しいと思った。

 だって現状、立て続けに一発で別れてしまっているんだから。


 こっちが別にそんな気がなくても、相手が誤解してなのか勝手に離れていく。

 そして、これが一番厄介な話かもしれないが、私自身は、相手に離れられても“大して困ってない”し、“辛いとも苦しいとも感じていない”のだ。


 いや、それをただ自分で認知できていない可能性もあるけど……。

 正直、認知できてないなら、それは“感じていない”とほぼ同じじゃない?


 とかそんな風に思っている時だった。


 私は、広場にて、クエストの貼ってある掲示板を眺めていた。

 人だかりからちょっと離れて一人きりで眺めていた。


 そんな私を、ずっと見つめているプレイヤーがいた事に気付く。



「…………」


 耳に魔石をつけているプレイヤーだった。

 魔石の説明は、前に脳内音声さんに聞いたことがある。

 あれは魔力量の多い種族である証のようなもの。


 そういえば、私はまだ、魔力量の多い種族のプレイヤーと顔を合わせたことがなかった。

 それは、そもそも出生割合が低いという話だから、仕方なかったのだろうけど。



 今まで、私は相手から声をかけられるばかりだった。

 自分から声をかけるなんて、そこにまず理由が見当たらない。


 でもなんだろう?

 今の状態に、嫌な気持ちとか、苦しい気持ちとか、実はそういうのを感じていたのかな?

 それか、やっぱり心から『クリアできてよかったね!』と、あのカイルの言葉みたいに、誰かとクエストのクリアを喜び合いたいと感じていたのかな?


 私の足は彼のほうへ向かっていた。


 少し血色の悪い肌をしていた。

 片方のまぶたの上から、角のようなものがニョキりと飛び出ている。

 近づいていくと、結構背が高いのだとわかる。


 まず、耳の魔石について話しかけてみよう。

 なんとなくそう考えていた。


「その耳の……」


「……ん?」


 私のいきなりの質問に、少し間をあけてから彼は答えた。


「この耳の、宝石みたいなこれか?」


「そう。私にもある。ほら…」


 私は自分の髪を手でかきわけて、彼に耳の魔石を見せることにした。

 よく考えると、私はこの魔石を誰かにこうやって見せた事はなかった。

 

「これ、魔力量の多い種族だけが、身体に埋め込まれてるらしいです」


 私がそう言ってから、しばらく返事がなかった。

 別に私を無視してるわけじゃなさそうだった。


 私の言葉を聞いてから、考え事をしているというか。

 あ、ひょっとして…。


「もしかして、音声ナビゲーションと話してる?」


「!……あ、ああ。まあね。今少し魔石について教えてもらっていたんだ」


 あれ?

 今気が付いた。

 私は今まで、ずっと誰に対しても敬語だった。

 でも、この人と話していると、うっかり敬語が外れちゃいそうになる時がある。

 なんだろう。妙に話しやすさが心地良いから、そのせいかな?


 「“魔石持ち”がどういうアバターなのか教えてもらったんだけど、あ、あんたも、魔力量の多い種族なんだよな?」


 でも向こうは緊張しているのか、慌ててるのか。

 その話し方にへんなぎこちなさが見てとれる。


「私は天人族です。階位は天降女子(あもろうなぐ)

名前だけはもうあなたからも見えてると思いますが、テミスといいます。

ナビによると、天人族は一番魔力が多い種族だと聞きました」


「テミスさんか。俺はフラン・グレースって名前でやってる。まあそっちからも名前は見えてるだろうけど。種族は魔族だ。よろしくー」


「宜しくお願いします」


 あぶない。

 気を付けないと、私まで敬語を外してしまいそうだった。

 不思議な雰囲気のある人だな…。人っていうか、魔族なんだけど。


「テミスさん、天人族なんだ。

 俺、このゲーム初めてからまだ一人も天人族の人に会った事なかったから、てっきり音声ナビが大嘘こいてるんだと思ってた。はははっ」


 彼の乾いた笑い声に、少し私の心が引っ掛かった。

 …………。

 でも、さん付けで呼ぶのは、やめてほしかった。

 その気持ちだけは確かにあった。


「テミス。私のことは『テミス』と呼び捨てで構いません。

 それと、ナビはそう簡単に嘘をついたり、プレイヤーを騙したりしないと思います」


 それから彼は、なら自分も『フラン』と呼び捨てで構わないと言ってくれた。

 初めてだった。

 お互いを呼び捨てにするという事。

 まだクエストに一度も行っていないのに、へんな人。

 あ、へんな“魔族”だね。笑

【作者からのお願い】

作品を読んでいて


「続きが気になる!」

「更新楽しみにしてる!」

「応援してるよ~」


と思われた方は、是非【☆☆☆☆☆】から評価を入れていただけると

作者のやる気がアップします。


面白くても、つまらなくても評価は大歓迎です!

お手数でなければ、よろしくお願いしますね!

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