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14 ペトリフコード

 俺達三人は、初級クエストNo.12『言霊使いと白昼夢』に再び挑むことになった。

 策は練られてある。

 具体的には次のような段取りだ。


 まずはテミスの<ダウンポア>を発動。

 これによって、相手の移動速度を下げはじめる。

 豪雨の効果範囲はステージ全体なので、五色沼ステージ内ならどこでもその効果を発揮するだろう。


 テミスがダウンポアを使用しているあいだは、俺が言霊使いの直接的な相手をする事になる。

 出来るだけ俺は<蜃気楼>を使う。


<蜃気楼>は、<ダークネスウィンド>ほど魔力を使わず、それでいて効力により下がった命中率は自然には回復しない。

 相手の体力こそ削れないが、なかなかにこいつの使い勝手がいい。


 そうやって相手との戦闘時間を長引かせ、ダウンポアの効果が致命的になってきたところで、ノセノセの<マージナルリング>で完全に動きを封じる。


 そこへ俺の<ダークネスウィンド>かテミスの<天雷>のどちらか、もしくは両方ともを打ち込んで、クエスト攻略完了。

 こういったビジョンだ。


 まあ、成功確率は不明だけどな…。

 何しろ、あの『言霊使い』の使ってくる技が、他にもないとも限らない。


 俺達が挑んだのは、最初の一回きりで、それ以外は全く戦っていないのだから、情報がそれしかないのも仕方ないのかもしれない。


 また、クエストの開始地点から敵の位置までは少し距離があった。

 もし開始直後に〈ダウンポア〉を使用しても、『言霊使い』がこちらに向かってこないようであれば、そのまま〈ダウンポア〉の効果で移動速度最低値まで下げてから優位に戦闘を始めることもできるかもしれない。


 それほど甘くは無さそうな気もするが。

 何はともあれ、俺達はクエストを受注した。




【初級クエストNo.12 言霊(ことだま)使いと白昼夢】

【制限時間:60分】

【ステージ:五色沼のほとり(昼~夕)】

【クリア条件:言霊使いの討伐】

【失敗条件:プレイヤーの行動不能状態】


【初回クリア報酬:1300ノーツ、カラスビシャクの種】

【獲得経験値:1000Exp】




 視界が受付広場から一転。クエストの詳細が出ると、また一転。

 あの時と同じ、『五色沼』ステージが広がる。



「…予定通り始める」


 開始直後、テミスはそう言って、左手を天に掲げた。

 すると、それまで青空にまばらだった小さな雲たちが、テミスの頭上に一同に集まり、白く軽やかだったその色を重たげな灰色へと変貌させていった。

 次第に風も吹きはじめ、辺りの草木がざわざわと音を立てる。



「フラン!! 『言霊使い』がこっちに走ってきてる!」


 ノセノセの慌てる声を耳にして、空を見ていた俺はすぐに視線をさげた。

 向こうからすごい勢いで走ってくる『言霊使い』の姿が見える。


「どうやら、<ダウンポア>に気付いたらしいな。よし、<蜃気楼>を仕掛ける!」


 俺の補助系魔法<蜃気楼>は、<ダウンポア>ほど広範囲で効いたりはしない。

 だから、向こうとの距離がある程度縮まり次第、即発動させる形になる。

 

 ポツ……ポツ……ポツポツポツ……


 俺が『言霊使い』をしっかり視界にとらえながら<蜃気楼>の準備をしていると、鼻先に早速テミスの<ダウンポア>の雨が当たり、降り始めた。

 よし。いい感じ。

 いい感じに予定通り進んでいる。




 ザザザザ―――――


 小さかった足音と共に、『言霊使い』が俺達との距離を詰めてくる。

 そして、


「ふん。また厄介なプレイヤーが私の前に現れたらしいな」


「来たな!!」


 ようやく『言霊使い』の声が聞こえてくるまでの距離になったタイミングで、同じく技の届く範囲だとみきわめた俺は、補助系魔法<蜃気楼>を発動させた。


「…うっ……なんだ?…………そうか。君たちは以前、私に敗北したプレイヤー達だな。妙な攻撃を覚えて再戦というわけか」


【補助系魔法<蜃気楼>により、『言霊使い』の命中率を少し下げました。】


 俺の<蜃気楼>によって、『言霊使い』のステータスに変化が起きたことを、ナビ子さんが脳内で告げる。


「ははっ……まぁ、そんな感じだな」


 会話のできる敵キャラクターというのも珍しいな。

 と、そんな事を考えているあいだにも、テミスの<ダウンポア>は、次第にその雨の量を増やしていく。


 ザアアアァァァァ……



「くっ……身体が……身体にも何か仕掛けてきたな…」


 段々と、『言霊使い』の動きがにぶくなっていく。

 無論、テミスの<ダウンポア>による効果だ。

 悪いな『言霊使い』。だが、残念ながら俺はまだ手を抜かないからな。


 俺は、移動速度が低下していく『言霊使い』に向けて、またしても<蜃気楼>を発動させた。


【補助系魔法<蜃気楼>により、『言霊使い』の命中率を少し下げました。】


「……確か、フランといった君。君はまだあの事を克服していなかったはずだ。だからいつまでも、その【嫌な思い出】をふと思い出すことがあるんだろう?」


「…え?……別に克服はしてないけど、思い出すことはない。たぶんこれからもな」


「な…ッ!?……なぜだ。どういうことだ!!??」


「何が?」


「おかしい。……私の『白昼夢』に……なぜ掛からない!?」


 自分の『白昼夢』が“はずれている”事など、それこそこいつは『夢にも思わない』んだろうな。

 戸惑うその姿を見ていると、これまではずした事などなかったとでも言いたげだ。

 あとそれと、俺はまだ手を抜かないって言ったよな。



【補助系魔法<蜃気楼>により、『言霊使い』の命中率を少し下げました。】



「うっ……そ、そうか…。さっきから私の前に見えているお前は、お前の影でしかなかったか……」


【補助系魔法<蜃気楼>により、『言霊使い』の命中率を少し下げました。】


 俺の<蜃気楼>によって、『言霊使い』の命中率はガンガンに下がっていった。

 魔族の魔力量なら、このくらいでもまだ余裕はあるくらいだ。


<蜃気楼>は、俺の幻影を相手にみせる事で、命中率を下げる技だ。

 最初こそ、その幻影が幻影だと相手に見抜かれてしまうが、何度も使用し、命中率を下げていけば、その幻影は実体の俺と区別ができなくなっていく。


「…………」


ザアアアァァァァザザァザアアアァァァァ―――


 テミスの<ダウンポア>による雨は、本格的にその勢いと雨量を高めていった。

 完全な豪雨に近づいていってる。

 そんな中、『言霊使い』は完全に声を出さなくなっていた。

 意気消沈(いきしょうちん)、というのもあるだろうが、<蜃気楼>によって、どの俺に『白昼夢』を掛ければ正解なのか、対象を絞り込めないのだろうと思う。


「なんか、俺の技いるー? もう圧倒的じゃない?」


 ノセノセがそういうと、立ち止まっていた『言霊使い』の足元から、ノセノセの<マージナルリング>による蛇の拘束が始まった。



「『言霊使い』、もうあんたの負けだよ」


「フラン、トドメを」


 天に左手をかざしたまま、テミスが俺にそう言う。


「………」


「もう<ダウンポア>で通常攻撃も出せないだろ。じゃあな」


<ダウンポア>の効力で、飛び道具も素早くは投げられない。

 そう思っていた。その時だった。


「うわ!!なんだ!!??」


 それまで普通の原っぱだった俺の足元が、急に泥沼のように柔らかくなり、一気に腰のあたりまで俺の身体は埋まってしまったのだった。

 俺の立っていた辺りがまるごと泥沼になったため、<蜃気楼>で見えていた幻影達も、途端にその効力を失った。


「アッハッハッハッハッハッ!!! 油断したな」


「何だよこれ!!??」


「私が『白昼夢』しか使えないとたかを(くく)ったな。…それじゃ、まずは一人、君を倒そう」



「「フラン!」」



ザアア……ザザァ………ポツ…ポツ……


 やられている俺を見たせいで、テミスが動揺のあまり左手を下ろしてしまった!

『言霊使い』はその<ダウンポア>の途切れた瞬間を見逃さなかった。


「テ、テミス!!!」


「君たちはやはり甘いな」


『言霊使い』は足元をノセノセの蛇に拘束されていながらも、またしても俺に向け、三本の鋭い鉄の管を素早く投げた。

 ズシュッと鈍い音を立てた後、俺の心臓からドクドクと血液が流れだす。



【血液ゲージの減少量に異常が見られます。相応の措置を取る必要があります。】


「また、こんな…。こんな終わり方になるのかよ……」


 血液の現在値:48


 嫌な流れだ。

 またクエストが失敗に終わる。

 そう思った。

 再戦で、クリアできると思ったのに、またダメになるのか?

 そんなのは、絶対に嫌だ!!

 そう思った時だった。


「<ペトリフコード>!!!」


「!!??」


 ノセノセがそう叫ぶと、なんと俺に刺さっていた管から出ていた血液が止まったのだった。


「ど、どういう事だ!?」


 俺とテミスはもちろんだったが、この場にいた誰より一番驚いていたのは、『言霊使い』だった。

 その驚いた瞬間を、見逃すわけにはいかなかった。


「今だ!! <ダークネスウィンド>!!!」


 ビュウウウウウゥゥゥゥビュウゥゥゥ!!


「はッ、しまった!!うぉああああああ!!!!」


 レベルも高くなっていたダークネスウィンドにより、『言霊使い』の体力はあっという間に瀕死と呼べるほどの数値にまで落ちた。


「今度は外さない」


 俺のダークネスウィンドを追うように、テミスは吹き飛ばされた『言霊使い』に<天雷>を浴びせた。

 それがトドメとなり、『言霊使い』は俺達の前からかき消えていったのだった。




―――――――――――――――――――――――


【クエスト達成 おめでとうございます! excellent!! 】

【あなたは 報酬 を受け取りました。】

【報酬:1300ノーツ、カラスビシャクの種】


【獲得経験値:1000Exp あなたのLv.16】


【あなたのアクションコマンド<ダークネスウィンド>が Lv:13 に上がりました!】

【あなたのアクションコマンド<蜃気楼>が Lv:10 に上がりました!】




 なんとか『言霊使いと白昼夢』のクエストが終わり、暗い視界にリザルト画面が映し出される。


「よっしゃあああああああああああ!!!!!」


 ここ最近で一番の声を張り上げた。

 全身を喜びという感情が駆け抜けている。

 俺は心からそう思った。

 きっとそれは、あのふたりも同じだと思う。…いやそう思いたい。

 広場に戻ったら、何か祝杯をあげよう。

 今日の攻略にはそれくらい価値があった。

 それくらい、俺には特別なものだった。



―――――――――――――――――


 クリア後、クエスト受付広場に戻った俺は、すぐ隣に立っていたテミスとノセノセと顔を見合わせた。


「やったーーーーー!!!」


「やった!! やったよなぁ!! やってやったわ! アッハハッハッハ!!」


「やりましたね。い、いえーい…」


「だはははは!!! テミスちゃん、不慣れすぎだよ、その喜び方! あははは!」


「………」


「ノセノセ、そういじめるなって~」


 勝ち星。

 難易度詐欺クエストに勝ち星を決めてやった。

 その事が、三人とも同じように心のなかで誇らしく思っていてほしかった。

 それが今の俺の気持ちだった。

 だからこういう時、一緒に上手く喜びを表現できないテミスは、やっぱりかわいそうな気がしていた。

 本人からすれば、そんなことは余計なお世話かもしれないが。


 それにしても、俺にはいくつか、気になる点があった。

 無論、先ほどのクエスト中での事だ。


「そういえばさ、ノセノセ。終わってから聞くのもあれなんだが、最後の<ペトリフコード>って技?なのか、あれはなんだったんだ?」


「私も、あれ初めて見ました。フランの血液が止まりましたよね」


 俺達ふたりの言葉に、ノセノセはクリア後のテンションのせいか少しウザめに答えた。


「あれは~、メドゥーサならではの技だよ諸君!」


「メドゥーサならではって?」


「新技の<ペトリフコード>はね、プレイヤーひとりの“心臓だけを石化”させて血液の減少を完全に食い止めることが出来るんだよね~」


「し、心臓だけを石化!!??」


「それは本人へのダメージになったりはしないんですか?」


「そうそう。ナビに聞いた話だと、ダメージにはならないみたい。デメリットも特にないけど、強いていうなら、少し魔力の消費が重いかな?」


 心臓だけを石化させる補助系魔法か。

 ノセノセにはまだ少し聞きたいこともあったが、とりあえず一番の謎は解決した。

 というか、できればクエストやる前に教えてほしかったんだが…。

 まさかサプライズにしたかったのか? 

 なら、いらなすぎるわ!!

【作者からのお願い】

作品を読んでいて


「続きが気になる!」

「更新楽しみにしてる!」

「応援してるよ~」


と思われた方は、是非【☆☆☆☆☆】から評価を入れていただけると

作者のやる気がアップします。


面白くても、つまらなくても評価は大歓迎です!

お手数でなければ、よろしくお願いしますね!

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