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12 白昼夢

 ザグッ………ザグッ…ザグッ………


「ㇵッ……一体、何が…」


 いつの間にか暗闇から『五色沼』のステージに戻っていたノセノセは、自分の足元にいくつもの蛇の頭が落ちていた事に気が付いた。

 ノセノセは、自分の気に入っていた髪の毛(蛇達)をみずからの手で切り落としていたのだった。


「俺の髪が……!……体力が減っている……!」


「へびの君は何をそんなに驚いているんだい?

 君は、君の手で君の髪を切っただけじゃないか。

 メドゥーサの髪は、自分の胴体ともほぼ同義であるというのに、なんとも馬鹿げた自傷行為を……」


 メドゥーサの髪を切る行為は、自身の胴体を切断する行ないに等しかった。

 体力はみるみる減り、蛇達の切断された髪からは、大量の血液が流れだしていた。


「攻略する気がないなら、もうこの戦いは幕を引こう」


 言霊使いはそういうと、その紺色の着物から出した一本の針を、ノセノセの脳天に、軽やかな手つきで刺し込んだのだった。



「ッ…………!」


 ノセノセは、次第に視界から意識が遠のいていく感覚に陥った。

 体力は下がり続け、意識もはっきりとしなくなっていった。




―――――――――――――――――――――――


 ………………。




【クエスト失敗 game over!! 】

【参加者全員の行動不能状態により、初級クエストNo.12 を失敗しました。】


【獲得経験値:0 あなたのLv.10】



 三人全員の視界が暗くなり、今回のリザルト画面が表示された。

 結果として、俺達は初級クエスト『言霊使いと白昼夢』の攻略に失敗したのだった。

 色々と知らない事が多すぎた。

 そうして、相手のほうが色々と知っていた。

 それが今回の結果の原因だったように思えた。



 いつものクエスト受付の広場に戻ってきた俺達三人。


 少しの間、さきほどまでのクエスト中の嫌な記憶が、脳内を駆け巡って仕方なかった。

 どうすれば攻略できたのか。

 そもそも、クリアできる手段はあったのか。

『言霊使い』の言うように、やる気はあったが、手段がなかっただけなのか。


 思い返すと、色々と反省が必要だとわかる。


(ナビ子さん、色々と聞きたいんだが……)


 そばにいたテミスとノセノセに話しかけるより先に、俺はナビ子さんに話を聞きたいと思っていた。

 まず、途中で話していたあいつの『白昼夢』という技についてだ。


【……そうでしょうね。

 クエストに失敗したあと、プレイヤーの取る行動として、音声ナビゲーションに助言を乞う行為はよくあるものとして想定されています。】


(ははは……。なんか見透かされているな。で、あの言霊使いの『白昼夢』って

一体何だったんだ?)



【言霊使いのくり出してくる技の一つ:白昼夢 は、プレイヤーの認識や感覚を、実際には起こっていない事象の中にいると錯覚させるものです。


 白昼夢を受けたプレイヤーは、“実際にはそうでなくとも”場合によっては体力が消耗していると感じたり、血液が欠乏したと感じたりと、自身の現状を誤って認識する場合があります。


 しかし、“実際にはそうでない”ため、その白昼夢で見ているステータスの影響でクエストが失敗になる事はありません。


 『白昼夢』を受けていない周りのプレイヤーとしては、受けた本人がどのような幻惑の中にいるのかわからないため、手助けのしようがありません。】



(なるほどな。それで、低く見えていた血液ゲージが、一瞬で増えていたように見えたわけか)


【また『白昼夢』は、プレイヤーの過去の記憶を利用することができます。

 プレイヤーの思い出したくない状況などを、言霊使いは自由に再現できるのです。

 結果、フランさんは【濡れ女子の話】のことを思い出してしまいましたよね。】



(ああ……。しかし、『白昼夢』厄介すぎるだろ…。実際にクエストが失敗しないとはいえ……って、あれ?)


 俺はここで妙な一点に引っかかっていた。


(実際には影響が出ないはずなのに、なんでノセノセは髪を切ってゲームオーバーになってしまったんだ?)


【それは、『白昼夢』という技のもっとも恐ろしい使われ方をされてしまったからです。】


(もっとも恐ろしい使われ方?)


【『白昼夢』によって影響がでるのは、あくまでプレイヤーの意識の中だけの事です。

 ですが、そのプレイヤーが、結果として何か行動を起こした場合は違います。

 その場合は、現実で行動したものとなってしまいます。

 いわゆる“寝ぼけて”行動を起こしたわけですから。】



 (…………なるほど。

 『白昼夢』のせいで、ノセノセは錯覚し、誤って自分の髪を切ってしまった。

 それがつまり、“寝ぼけて”実際に自分の髪を切ってしまったという事になるのか……?)



【そういう事です。

 ただ、注意していただきたいのは、本当に“寝ぼけて”いるわけではありません。

 “寝ぼけて”という表現は、都合上そのように私が言っているだけです。


 別に眠気もともなっていませんし、あくまで言霊使いの技に、意識が影響を受け、そのまま行動してしまっているという事です。】



 言霊使いのクエスト攻略は、初級クエストの中でも一番大変なのかもしれない。

 ナビ子さんから説明を受けている間、俺はずっとそう思っていた。

 これじゃあ、確かに誰もクリアできていないのもうなずける。


『魑魅魍魎』が発売して、まだ一か月とたっていない。

 ひょっとして、ライオット・エックスツリーの開発は、テストプレイやシミュレーションを(おこた)ったんじゃないだろうか?


 そう疑わずにはいわれないほど、このクエストだけは高難易度こうなんいどに感じる。



「…………」


 俺達三人は、クエスト失敗から、しばらく言葉を交わせないでいた。


 それぞれが、それぞれの脳内で音声ナビに今回の反省点を含め、相談したり、話し合ったりしていたのかもしれない。

 少なくとも、俺は言霊使いの技について聞いていたわけだしな。



 そうしてしばらくの間、三人して無言だったわけだが、ノセノセがその沈黙をやぶる形になった。



「いやー、しっかしきつかったね。俺なんて、髪の毛切れちゃったし!!」


 半分ふざけてノセノセはそう言った。

 彼(アバター的には“彼女”)の髪の毛は、クエストを受ける前となんら変わらない、ごく普通のメドゥーサの髪だった。


 クエスト中に切れたものは、あくまでクエスト中だけのことで、今こうして俺達が集まっているクエストの受付広場自体は、その舞台の外側という扱いなのだろう。

 よくあるゲームの仕様だな。


「ノセノセさん……もしかして中は男の人ですか?」


「あっ」



 ついうっかり一人称「俺」で話してしまったノセノセに、テミスが指摘していた。


 メドゥーサであっても、ノセノセのアバターはその体格からして女性だ。

 しかも結構可愛い。

 テミスはノセノセをじっと、真っ直ぐにまだ見つめている。


「ううぅ……そんなジッと怖い顔で見ないで…だましたみたいで悪かったよー」


 怖い顔とはいうが、無論、テミスはただ無表情のままだ。

 無表情は、受け取る側次第で怖く感じる表情らしい。

 わからなくもない。



「……そ、それより、ちょっと道具屋に寄っていかないか?」


 少しだけ気まずいこの空気を取り払いたかった。

 俺の言葉は、そんな気持ちから出たものだった。


「ああ、そうだねー。」


「…………」


「何かアイテム不足ですか?」


「いや、何かないかなって思って。言霊使いに丸腰で挑んだ結果があれだからな」


 実際、俺はアイテムを全然持っていなかった。

 最低限の回復アイテムだけだったが、攻略前はそれでいけると思っていた。

 他のクエストはそれで十分だったし。



「いらっしゃい! まあゆっくり見てってな、にいちゃん達~」


 広場から少し路地に入ったところに、小さな道具屋がある。

 気にはなっていたが、初級クエストでは不要だと感じ、ずっと入っていなかった。

 道具屋に、他者の出入りはまったくないらしかった。

 ちょうど人のいないタイミングだったのだろう。


 店員は、ひとりしかいなかった。……ひとり?

 うーん。“一人”というか、“一匹”というかね。

 どう数えるのが正しいのかはわからないが……。


 その店員は、頭部が人間の女性で、首から下は(わし)のような身体をしていた。


(なんだかすごい格好の魔物だな。これも、プレイヤーってことか…?)


【彼女は、“ハルピュイア”と呼ばれる魔獣です。

 NPCです。

 ですが、プレイヤーにもこのハルピュイアと同じ姿の者がいるでしょう。

 まだフランさんの周りにはいませんけど。】


 ハルピュイアね、へー…。

 店員のハルピュイアは、明るく、ハキハキと喋る様子が印象的だった。

 親しみやすそうな喋り方をしている。

 顔はニコニコおだやかだが、その足の鋭いかぎ爪は、見ていてどこかゾッとしてしまう。……俺だけか?



 道具屋には、様々なアイテムが並べられ、売られてあった。


 回復系、増強系、補助用のアイテムなどなど。

 どれも、俺の所持金ならば余裕で買える金額だ。

 たくさん買える。予備としても買えそうなくらいだ。


「たくさん買うのがいいのか、悩みどころだな」


「うん、確かにね……。でもこのゲーム、戦闘中にアイテム使用するの結構難しくない? タイミングというか…」



 アイテムの並べられた棚を見ながら、ノセノセがそう口にする。


「…わかるっ!!」


「そうですね」


 ノセノセの話に、テミスさえも共感を示していた。


「戦闘中にアイテムを使用すると、その後高確率で敵からまた攻撃もらっちゃうしなぁ…隙があるならこっちだって攻撃しておきたいし」


 クエストで戦闘してる時というのは、それほど選択肢があるわけじゃない。

 攻撃するか、様子を見て守りに徹するか、道具を使い戦況を有利にするか、状況次第ではリタイアするか…。

 そうやって、選択を細かく繰り返して、その末に勝利する。

 攻略はそういうものだと思う。


 けれど、今回の言霊使いはそう一筋縄ひとすじなわではいかないらしい。


(白昼夢に弱点とかないのか?)


【白昼夢には、使用者が隙だらけになるという弱点があります。

 また、白昼夢は基本的に一人にしか使用出来ません。なので、その使用中を他者が狙う。というのが具体的な対策だと言えます。】


(それ、やらなかったか? ほら、最初にテスミが〈天雷〉撃っただろ?)


 そういえばあれも、なぜ避けられたのか謎のままである。

 まさか、雷より速く動けるのか?


【それは、ただあの言霊使いが予測をし、回避しただけだと思われます。

 回避した際は、フランさんへの『白昼夢』もやめていたはずです。


 何にしても、鋭い観察力です。

 単体への攻撃魔法は、基本的に発動時間が全て同一です。

 それだけに、予測されればそのほとんどが避けられてしまいます。】


(マジか…。予測で避けたりできるなんて、もう本当に勝てるビジョンが見えなくなるんだが…)


 落胆する俺に、ナビ子さんは変わらず機械的に話を続けた。


【逆に言えば、予測する余裕のないタイミング・予測できないタイミングで攻撃出来れば、当たるという事です。


 その際は、その一撃を皮切かわきりに、一気に畳みかけられるでしょう。


 もともと、言霊使いは体力も多くありません。勝敗はその一撃に掛かっています。】



(予測できないタイミングなんて、あったのか?

 何か意表を突ければ、そこで攻撃できそうだが…)



 あれ、待て?

 何か、一度あいつに攻撃が効いてたような…。



【一度、メドゥーサの〈マージナルリング〉が効いていますね。】



「ノセノセの攻撃か!!」


【作者からのお願い】

作品を読んでいて


「続きが気になる!」

「更新楽しみにしてる!」

「応援してるよ~」


と思われた方は、是非【☆☆☆☆☆】から評価を入れていただけると

作者のやる気がアップします。


面白くても、つまらなくても評価は大歓迎です!

お手数でなければ、よろしくお願いしますね!

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