女は女優
アカイアオイは、私のカレシである太一の
前でぽろぽろ涙を流したと言う。
「どうせうそ泣きでしょ」
聞けばその女は女優を夢見てこの春上京し
てきたらしく、太一の人が好いところにつけ
込み、新居までの正しい道筋に加えて彼の連
絡先をゲットし、終いにはカノジョがいる男
の心までもを奪った恐ろしい人間だ。
「百恵はうそでも泣かないもんな。強いわ」
「馬鹿みたい。騙されてるんだよ、太一は。
演技! 演技に決まってるでしょ」
「百恵はアオイを知らないからわからないん
だよ」太一はすっかりアカイアオイのファン
だった。彼が躊躇なく口にするその名前すら
本物かどうか怪しいものなのに。「アオイに
は俺がいないとダメなんだってさ」
「ーーそう。わかった。じゃ、私達別れまし
ょう」私には自信があった。「でもね、アカ
イアオイは名女優だよ。近い将来絶対に売れ
る。そして、太一は捨てられる。それがオチ」