辺境伯子息「俺の幼馴染は極上ランク」
感想や誤字報告、ブクマなど、ありがとうございました。
思った以上に多くの方に読んでいただけたようで、非常に嬉しいです。本編は2話で終わりなのですが、他から見た話を読みたい、というご感想をいただきましたので、書いてみました。
蛇足的なお話ですが、少しでも楽しんでいただけると幸いです。
六歳まで、俺は自分が最強の男になることを信じて疑わなかった。
スウィーティア王国東方辺境を守護するマッスウェル家直系男子。
先祖代々、剣術に長けていて、俺は物心着いた時には身体を動かすことが好きだったし、三歳で庭の木登りを成功させ、メイドの度肝を抜いたこともあった。
両親は俺の才能を喜んだし、それ故に特別厳しい師をつけた。
師匠は剣術の達人とされる人で、今思えばあんな辺境に呼び出していいような人ではなかったが、俺には毎日新しいことを教えてくれる、すごい人だった。
そんな人の課題をこなし続ける自分にも、どんどん自信をつけていった。
「これでマッスウェル家は安泰ね」
「次代はボンレスの倅にも遅れを取るまい」
父と母は俺の成長と才能を大いに喜んだ。
時折口に上るボンレスとやらのことは知らなかったが、師匠に北方の辺境伯家であることを教えてもらった。
「いいですか、マーク。ボンレス家はけして侮れない家です。貴方がどれほど剣術に優れようとも、『実戦』の泥臭さは如何しようもありません。あの家は、果てしなく『実戦向き』の実力派なのです」
「それって…ししょうも勝てないのか?」
「…私は、『お綺麗な剣術しかできない頭でっかち』ですから」
そんな風に師匠が自分のことを下げて言うのは初めてで、子供ながら大きなショックを受けたものだ。
俺にとって師匠は最強で、そんな師匠に教えられている俺は最強の弟子で、ゆくゆくはその後に続くことを疑っていなかったのだから。
「マーク、君には剣の才能があります。歴代のマッスウェル伯家の中でも群を抜いた強さを得ることが出来るでしょう。しかしそれは、私との鍛錬の先にはありません。私はあくまで、貴方に剣の基礎を教えているだけですからね」
「…ししょうの言うこと、むずかしい」
「では簡単に。貴方はいずれ、私より強くなります。しかし、更に強くならなくてはならない、ということです」
今思えば、それは正しい忠告だった。
しかし当時の俺はその意味をちゃんと理解も出来なかったし、師匠の言葉に反発さえしたのだ。
……実際は、師匠の言った通りだった。
「え…?」
何が起こったのか、理解できなかった。
俺は剣を構えていたはずだ。
相手は何も持っていなかった。強いて言うなら構えをしていたが、武器らしい武器は何も無かった。
それなのに、俺の目はぐるりと回って空を仰ぎ、俺の体はどん、と地面に叩きつけられていた。
師匠に教え込まれた受け身が無ければ、大怪我をしていたかもしれない。
「…これで、良い?」
目の前にいたのは、白くて丸い、豚みたいに太った奴だった。
ハムレット・ボンレス。
俺と同じ辺境伯の跡取り息子で、武に長けた一族として意外なほどの巨体の奴だった。
最初に顔を合わせたとき、正直、俺はどうして師匠があんなに、ボンレス家のことを褒めていたのか、分からなかった。
俺の二倍は横幅のある豚みたいなやつにこの俺が負けるわけがないだろう、と。
だから、同い年の子供同士だからと二人きりにされた途端、指をビシッと突き刺して、言ってしまったのだ。
手合わせをしろ、と。
ハムレットは嫌そうにしていた。
断ってもきた。
そんなことより追いかけっこやかくれんぼや、あの森近くの一番大きな木を登ろう、とか何とか言ってきた。
普段の俺なら遊びに心惹かれない訳では無かったけれど、長い間比較され続けてきたボンレス家への対抗心もあり、強引に庭で手合わせをすることにしてもらったのだ。
付き添いのメイド達がオロオロしていたが、ボンレス家の家令がやってくるまでに全てを終わらせれば良いのだと、俺は傲慢にもそう思ってしまっていた。
「お前、ふざけてるのか?剣も持たないなんて」
「俺にとっては、剣のほうが邪魔なんだ。だから、このままでいいよ」
「っ、後悔しても知らないからな!」
開始の合図は、アイツの投げた小石が地面に落ちたとき。
俺は石が落ちると同時に、最高速度で駆け出した。この足運びは師匠が教えてくれたもので、幼く軽い俺の体はとても早く動いてくれた。
多分、側で見ていただけなら、俺の姿は掻き消えていたことだろう。メイド達の悲鳴が上がっていた。
瞬きの内に剣を振り、無防備な横腹に叩き込もうとした、そのときだった。
柔らかなものに剣を持つ腕を掴まれて、完璧な運びを見せていた足元を崩され、ぐるん!と俺の体は回っていた。
「な…なんだ、これ……」
「マーク殿は勢いが良すぎるね。身体の動きはとても速くてしなやかだけど…もう少し、相手の動きも見たほうが良いよ」
年に見合わぬ落ち着いた声音に、師匠にも通じるだろう貫禄。
それが、同い年の子供から発せられている。
その瞬間、俺は自分自身の間違いを悟った。
───ボンレス家を侮ってはいけなかった。
師匠のお手本のような技を考えなしに使って突っ込むだけの俺では、勝てっこない相手だったのだと。
俺はむくりと起き上がって、ハムレットを見た。
「…すまなかった。師匠にどうしてもこえられない相手がいると聞いていたから、悔しくて、すごく無礼なことをしてしまった。本当にごめんなさい」
「えっ…あ、いや、そんな風に謝られるとこっちが大人げないような気持ちになるっていうか…」
「は?」
「い、いや……その、謝罪を受け入れるよ」
そう言ってハムレットは、まだ地面に尻をつけたままだった俺に手を差し伸べた。
太陽の光を遮るその影はかなり大きかったけれど、その分、安心させる存在感があった。
「改めて、マーク殿。俺と一緒に、遊びに行かないか?」
「良いのか?」
「もちろん。実は、同い年の子と遊ぶの、初めてなんだ」
「お、俺もだ」
物心ついた時から剣術ばかりで、友達なんて居なかった。両親よりも師匠と過ごした時間の方が長かったし、その師匠も、俺が六歳になる前に居なくなってしまった。
「木登りとかくれんぼと鬼ごっこ、何が良い?」
「その…木登りしか、やったことない」
「じゃあ、それ以外のことをやろうよ。せっかく二人もいるんだから」
…多分、頼めばメイドとか、俺と一緒に遊んでくれる人はいっぱい居た。
でも俺は剣が楽しくて、そしたらそれ以外が見えなくなってしまっていて、気づいたら、前に遊んでいたことも遠くに消えてしまっていた。
だから、喧嘩をふっかけたばかりの俺にこうして笑いかけてくれる奴が、どんなに太った見た目であっても、とても器の大きい男なんだと思ったのだ。
「あの…」
「どうしたの、マーク殿」
「その『マーク殿』って呼ぶの、やめてほしい。…マークでいい」
「そう?じゃあ、俺のこともハムレットで良いよ」
「…分かった、ハムレット」
その日、一日中遊びまわって、俺はハムレットをハミーと愛称で呼ぶくらいまで仲良くなった。
そして、少しずつ交流を重ねていく中で、唯一無二の親友となっていった。
ハミーは変な奴だった。
同い年にしては落ち着きすぎているし、妙に俺のことを子供扱いして世話を焼いてきた。
だけどそれも、ある意味は仕方のないことだったのだと思う。
ハミーは頭が良かった。大きな体に見合わぬ優秀な頭脳は将来の辺境伯として申し分なかった。
加えて、当たり前のように強い。
一度ハミーに負けてから、ずっと鍛錬の時間を増やした俺よりも強くて、やっと動きが目で追えるようになったと思ったら、今度は予想もしていなかった直線的な動きで吹っ飛ばされたりもした。どんな完璧超人なんだか。
ただ、残念なことに、ハミーの体型は変わることがなく…痩せたらもっとカッコよくなるのでは、とは常々言われていたけれど、その唯一最大の欠点がここまでハミーの足を引っ張ると思わなかった。
七歳の時。
初めて王都近郊のお茶会に招かれた時に、心無い奴らが、ハミーに酷いことを言ったのだ。
「なんで豚がお茶会に来てるんだ?」
「あら、嫌だ。お茶がまずくなるわ」
と。
俺はそれにカッとなって、思わず、悪口を言った奴の胸ぐらを掴んで締め上げてしまった。
三家での話し合いの結果、俺は一年間王都のお茶会に出席しないことになった。
ハミーを馬鹿にしたやつは…多分、俺たちが辺境に腰を落ち着けるまで、社交界には出てこられないんじゃないかと思う。後から教えてもらった話だけど、話し合いでハミーが言ったことはそれだけ怖いことだったらしい。
けれどその時の俺は、そんな事情を知るわけもなく。
ハミーにもうこんなことをしてはいけない、と叱られて、怒りと虚しさに半泣きになりながら一年間、鍛錬に励んだ。
だけど、そう言いながらハミーだって、俺が領地に引きこもっていた1年間、王都のお茶会に呼ばれても参加しなかった。
それを後から知って、俺は改めて、ハミーはすごい奴だと思ったのだ。
俺たちはそれぞれ東方と北方を守る辺境伯の跡取り息子。
今は気軽に出かけて話も出来るけれど、いずれ跡を継いだらこんな風に簡単には会えなくなる。
でも、やることは同じだ。
生まれた国を守ること。
離れていても、遠くにいても、会うことが難しくなったとしても。
俺たちのやることは、変わらない。
そんな未来を思い描く中で、とんでもないことが起こった。
それは、八歳のとき。
王太子殿下のお誕生会に招かれたときのことだった。
俺の謹慎期間も終わり、なおかつ将来の国王陛下のご友人になれる機会。国中の貴族の子供達が集められていた、非常に大切で大規模なお茶会だった。
そしてそんなお茶会に、ハミーは遅刻した。
入り口近くで待っていた俺が、丸い見た目に反して素早く走ってやってきた幼馴染に苦言を呈すると、ハミーは眉を下げた。
「いやもうなんていうか…しょうがなかったんだよ。まさかうちの馬車が野盗に襲われるなんて思ってなかったんだ」
…なんと不運な。
もちろん、野盗には同情しない。ハミーもきっちり返り討ちにしてやったことだろう。
だが、それでハミーが遅刻して…こんなに悪目立ちしてしまうなんて、ひどい話じゃないか。
「スラート殿下の生誕の会に遅刻だなんて、信じられませんわ」
「まあ、ご覧になって、あの身体」
「豚のように丸いわね」
「あれでしょ?あの、辺境の…」
「嫌だわ、田舎者が王太子殿下に拝謁するなんて…」
いつかのように、ハミーを馬鹿にする声ばかりが聞こえてくる。
本当に嫌になる場所だ。
俺は王太子殿下の誕生会でなければ、こんなところに来たくもなかった。
「事情は聞いているよ。大変だったね」
幸いにも、王太子殿下はハミーを馬鹿にすることはなかった。
それなりの教育は受けているのだろうし、ボンレス家が対人格闘術で無類の強さを誇る家系であることも、おそらく知っていたのだと思う。
「野盗は捕らえたということだったが…」
「はい。別働隊に留置所に向かわせました」
「そうか。ご苦労だったね」
「痛み入ります」
こういう返答が、ハミーのハミーたる所以だと思った。
なんというか、大人すぎるのだ。
王太子殿下だって、こんな対応をする八歳と会ったことはないだろう。
しかしそんなハミーのしっかりした対応が良かったのか、これ以上殿下に問い詰められることもなく、俺たちは安心して、お茶会の椅子に座った…のだが。
「あなた、お名前は?」
『とあるご令嬢』の登場により、ハミーの穏やかながら刺激的な辺境伯人生が大きく狂った。
アヴェレッタ・スカーレット。
スウィーティア王国内で王家に次ぐ王室の血筋を持つ公爵家。
現当主クラウス・スカーレットは社交界デビューしてから20年以上経つにも関わらず、黄金の貴公子としての美貌に満ちている。輿入れしたのは侯爵家の令嬢とのことだったが、社交界では異常な情報量で恐れられた紅眼のヘンドリッサ。当時社交界を恐怖の渦に叩き込んだ最強 夫婦だったらしい。母上が言ってた。
スカーレット家の3人の子息は、法政やら経済やら学問やらの分野で優秀さを発揮する化け物級の天才達。
そして、そのスカーレット家の血筋を引く直系の令嬢が、このアヴェレッタ・スカーレット。
金髪紅眼。
文句のつけようのない美しさに、優秀な頭脳。
その会話は既に一端の貴族婦人に引けを取らないほどに完成されている。
すっと伸びた背筋は自信に満ちており、頭の先から足の指まで完璧な姿に、圧倒されない訳がない。
八歳にして既に社交界の華として堂々たる振る舞いをしており、初めて見た俺でも、一目で彼女がかの有名なスカーレット家のご令嬢であると分かったほどだ。
───俺は知っていた。
アヴェレッタ嬢をちらちらと見つめるいくつかの目。
その中に、本日の主役である王太子殿下の控えめな、しかし確実な熱を孕んだ瞳が混じっていたことを。
しかし、そんな中で。
「私はアヴェレッタ・スカーレットと申します。あなたは?」
アヴェレッタ嬢の熱い眼差しは、俺の幼馴染に注がれていたのだ。
騒つきはじめる周囲。
突然の美少女に固まるハミー。
そんなハミーをフォローしようと慌てて口を開く俺。
「あの、アヴェレッタ・スカーレットさま、ですよね?俺はこいつの友人で、マーク・マッスウェルと…申しま…して……」
いやもうびっくりするぐらい真剣な目。
俺のことなんて視界にすら入れない徹底ぶり。
美少女にこれ以上ないくらい無視をされて、俺は撃沈した。
師匠にコテンパンにされるよりもきつかった。
ハミーは、おそるおそる、口を開いた。
「ええっと…ハムレット・ボンレス、です」
「…ハムレットさま?」
ぱちり、とルビーのように美しい瞳が瞬いた。厚みのある唇が艶やかに歪み、八歳にして異様なほどの色気が漂っていた。
「ハムさまとお呼びしても?」
「え?」
「私のことはアビーと」
「は、あ、いや…俺は、そんな……」
「嫌がられてもお呼びいたしますわ」
雲行きがおかしい。
そんなことは、側で見ていた誰もが理解していた。
しかし、そんななか、特大の爆弾が落とされた。
「ハムさま、スカーレット家と縁続きになりませんか?」
「は?!」
「私の、婚約者になってくださいませ!」
ハミーは逃げた。
アヴェレッタ嬢は追った。
結果、お茶会は台無しになった。
「……これ、ハミーは悪くない…よな……?」
そっと王太子殿下の様子を伺うと、傷ついた顔で天を見上げているところだった。
心の底から同情した。
☆☆☆
あれから、六年。
いろんなことがあった。
ハミーのとばっちりで王太子殿下に睨まれたり、ハミーのついでに国王陛下に謝ったり、ハミーの友人としてスカーレット家に締められたりした。
要するにハミー絡みの事件しかなかった。
もちろん、教養を叩き込まれたり色々大変なことはあったけれど、そんな日常よりも非日常の方が頭に残るものだ。
「いいか、マーク。よく聞くんだ」
学園に入学しても、ハミーは俺の面倒を見ようとする。
この場に俺たちしかいないせいか、その右腕にべったりとアヴェレッタ嬢が張り付いている。どうやら彼女は俺をライバルか何かとして認定しているようで、殊更過激なスキンシップを取ろうとしているのだ。
もういつものことなので気にしないことにしているが、それは勘違いだと教えてあげたい。
遠い目になりかけている俺に、ハミーは真剣な顔をして言う。
「知らない人から、食べ物をもらっちゃだめだからな」
「いや、当たり前だろ、そんなの」
「本当か?アヴェレッタ嬢から貰うクッキーとは訳が違うんだぞ?」
「……お前が直接食べさせてもらってるものを引き合いに出すなよ」
それでも、ハミーの助言は大体正しいので、俺はわかった、と了承の返事をした。
そして、その数日後。
校舎裏を散歩していると、見知らぬ女子生徒に声をかけられた。
珍しい黒髪の、とても可愛らしい雰囲気の女の子。
その子が、木の株に座り、俯きながら食事をしていた。
俺はそっとその場を立ち去ろうとしたけれど、うっかり、足元の枝を踏んでしまったのだ。
「あ」
ぱちり、と目があった。と、思った次の瞬間。
「あのっ!」
勢いよく、その子は俺のところに走ってやってきた。
「これ、一緒に食べませんか?」
「……は?」
差し出されたのは、市販のものと比べて色合いも匂いも薄い、お菓子らしきもの。
だけど俺はその時にはハミーの助言を受けていたので、きっぱりはっきり首を横に振った。
「悪い。俺、知らない人から食べ物を貰うなって言われてて…」
「っ、誰にですか?やっぱり、アヴェレッタ様に?」
「え……?」
「私、アヴェレッタ様に虐められてて…」
「は?アヴェレッタ嬢が?」
何の冗談だ。
俺が言うことでもないが、アヴェレッタ嬢は虐めなんてするような人じゃない。
何せ、彼女の興味はハミーにしかない。
たとえ年々豚化が進んでいたとしても、むしろそれを喜んでしまうし、ハミーに関わることでなければ、基本的に全て放置する。
そんなアヴェレッタ嬢が…虐め?
理解が追いつかなくて、その生徒を見つめていると、何を勘違いしたのか、目を潤ませて、そっと身体を寄せてきた。
「きっと私が、分不相応に王太子殿下とお喋りなんてしてしまったから……」
「えっと…それがどうして、アヴェレッタ嬢が君を虐める理由に?」
俺はさりげなく彼女から一歩遠ざかる。
「え?……それは、私が伯爵令嬢として弁えていなかったからで……」
彼女がまた近づいてきて、その一歩の距離が詰まる。
俺は更に歩幅を大きくした。
「その程度で目くじらをたてる人じゃないだろう」
「え?」
「君…もしかして、ハミーに何かしたのか?」
「は、はみー?誰、それ……」
「誰って…ボンレス家のハムレットだよ。知らないのか?アヴェレッタ嬢の婚約者の」
「は……はぁ?!」
意味がわからない、と顔色を変えた女子生徒に、俺は得体の知れないものを感じて、「とにかく、君の勘違いだと思う!」と言い捨てて走り去った。
「あれ?マーク、どうかしたのか?」
「ハ、ハミィィィィ!!」
偶々、庭を歩いていたハミーに、助けを求めて抱きついた。
ハミーは優しく俺の肩をポンポンと叩いて慰めてくれたので、うっかり聞いてはいけないことを聞いてしまった。
「なあ、ハミー。アヴェレッタ嬢って、誰かを虐めたりしてないよな?」
「は?」
未だ嘗てないほどの幼馴染の怒りに触れてしまい、俺は全力で土下座した。
それからしばらくして、件の伯爵令嬢は学園を退学させられた、と風の噂で耳にした。
やはり、貴族社会に馴染むには些か問題があったとのことだったけれど…。
「…何か、変な感じするなぁ」
まるで、ハミーが動いた後みたいな、スッキリしない感じがした。
マークは貴族にしては正直すぎるのが玉に瑕ですが、とても素直な子でもあるので、危ないことを事前に知っていれば回避できます。
今回、ヒロインの女の子に近づかれてもハムレットの助言を受けていたため、変に拗れることはありませんでした。
また、マークからアヴェレッタ嬢の疑惑のことを聞いたハムレットは、こっそり王太子殿下に警告に行ったりしましたが、マークもアヴェレッタもそのことを知りません。
ただ、マークは野生の勘で何かあったような気がしています。
学園卒業後、マークとハムレットは滅多に会えなくなりますが、マークはこれでハムレットのことが大好きなので、事あるごとに手紙を送り、アヴェレッタに嫉妬されます。