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水08 知識は一生の財産、ものの価値は希少性で決まる

前話の、乾燥してから製材……の下りに追記しました。

あんまり乾燥させると割れるでしょ。というのを忘れていましたので、書き加えてあります。

削除・変更した部分はありませんので、どうでもいいやと思う方は、スルーして下さい。

 仕方なく硬い床で寝ることにしたが、寝心地は砂浜のほうがマシだった。

 翌日、昼前に冒険者3人組がやってきた。戦士ジェフ、その妹の魔法弓士リラ、2人の幼馴染の僧侶ヨハン。助けたお礼に金銭をくれようとしたが、その時は使い道もないからと思って断ったのだ。代わりに、穀物や野菜の種や苗を持ってきてくれるように頼んだ。


「お待たせしました。」

「色々と集めてきたよ。」

「このあたりで手に入るものは一通りそろっていると思います。」


 そう言って差し出された種や苗は、数十種類におよんだ。


「すごい量ですね。ありがとうございます。早速植えてみます。」


 聖水の活性化効果があれば、季節を無視して植物が育つ。ぶっちゃけ肥料がなくても困らない。だがせっかくだから、1回ぐらいは下水の肥料を試してみるつもりだ。あまり意味がないと思ったら、下水は浄化してしまおう。


「ところで、ご覧の通り家を建てまして。

 建てたまではよかったんですが、ベッドを作るのが面倒で困っています。」


 ベッドマットや布団を作る部分が面倒だ。だが不可能ではない。木や草などから繊維を取り出して、それをより合わせて糸を作り、糸を編んで布を作ればいい。繊維を取り出すには、ひたすら細かく砕いて、煮てほぐし、また砕き……と繰り返していけばいい。すごく面倒だが。水魔法を使っても作業工程をあまり簡略化できない。


「それで街でベッドを買おうと思うんですが……他にも必要なものがあるかもしれませんし……でも、そうすると現金収入が必要です。

 稼ぐ方法はいくつかあるんですが――」


 たとえば聖水を売る。回復の霊薬にもなるし、美味しい水としても売れるかもしれない。農作物への肥料としても売れるだろう。より高く売るなら、霊薬として、だろうか。問題は容器だが。


「――その前に、重要なことに気づきまして。

 なんと、この国の通貨について全く知らないんです。

 使用されている通貨の種類や価値、物価、通貨単位など、まるで知識がないんです。

 すみませんが、教えて貰えませんか?」


 俺は木で作ったコップに聖水を満たして3人に差し出した。


「お礼にそれを差し上げます。

 ジェフさんとヨハンさんを治した回復魔法、あれを封じた水です。」


 そう言うと、3人は慌てた。


「そ、そんな……!」

「一般常識を教えるだけで、そんな強力なポーションをもらうわけには……!」

「命を救っていただいたお礼も十分にできていませんのに……!」


 俺は首を横に振る。


「種と苗。これは俺にとって命綱です。

 このあたりで手に入るものといったら、肉か魚ぐらいですからね。そればかり食べていると、体中から血が噴き出して死ぬ病気になるんですよ。それを防ぐには、植物を食べないといけません。かといって雑草を食べるのは、ちょっとアレですから。」


 壊血病という。ビタミン不足で起きる病気だ。大航海時代に船乗りが大勢この病気で命を落とした。


「つまり、あなたたちの命をつないだ代価は、私の命をつないでくれた事で、しっかりと受け取っています。

 そして通貨について無知であれば、ボッタクリの被害に遭ったり、受け取るべき収入をちょろまかされたりするでしょう。それでは生活が成り立ちません。一般常識というのは非常に重要なのですよ。だからこれは正当な報酬です。あなたたちが聖水に価値を感じるように、俺も一般常識に価値を感じているのです。」


 タダ同然の情報で価値あるものを受け取るのは気が引けるというのなら、聖水だって俺にはタダでいくらでも出せるものだ。しかし、その点は黙っておく。魔力には限界があって、強力な魔法はそうホイホイ使えないという認識だからこそ、彼らはこの聖水に価値を感じてくれているのだろう。

 もし、ほとんど無尽蔵に出せると知ったら、彼ら自身がそうでなくても小耳に挟んだ誰かが俺を利用しようと近づいてくるかもしれない。ヤバい連中に目を付けられたら、拉致監禁のうえ強制的に聖水を出し続ける道具として使われる可能性もあるだろう。


「分かりました。」

「それじゃあ……。」

「まずは通貨の種類からでしょうか。」


 この国には4種類の通貨がある。いずれも貨幣(コイン)だ。

 金貨1枚が銀貨10枚に等しく、銀貨1枚が銅貨10枚に等しく、銅貨1枚が銭貨10枚に等しい。円とかドルとかみたいな通貨単位は存在せず、「金貨1枚」とか「銀貨2枚」とかの「種類+枚数」がそのまま値段になる。

 野菜の値段が、銭貨数枚から銅貨1枚程度。露天で串焼きを買うと、1本が銅貨数枚。このあたりから考えると、銭貨1枚が10円程度の価値だろう。そうすると銅貨1枚は100円、銀貨1枚は1000円、金貨1枚は1万円ということになるが、安物の剣は金貨5枚で買えるという。剣が5万円? 日本刀なら安くても30万円ぐらい……たしか関市のふるさと納税の返礼品になっている刀は100万円単位の値段だったと思うが。


「剣って、そんなに安いものなんですか? 俺の地元だと金貨数十枚とか数百枚とかするんですが。」

「どんな名剣ですか、それ。」

「そんなの高ランク冒険者しか手が出せないよ。」

「低ランク冒険者は、粗悪な安物で我慢するしかありませんからね。」


 ものの価値は希少性で決まる。少ないもの、足りないものほど高くなるのだ。パンデミックが起きたらマスクが高くなった、オイルショックが起きたらトイレットペーパーが高くなった、重要が急増して品薄になったからだ。そういう具合に少ないものほど高い。ダイヤモンドなどの宝石も同じだ。希少性ゆえに値段が高い。

 だが大量に供給できるものや、少量しか供給できないものが、それぞれ何なのか、それは土地によって違う。肥沃な土地では農作物がよく育ち、海がない場所では魚が貴重で……そうやって物価の違いが生まれるのだ。

 しかるに、この世界では……もとい、このあたりの土地では、剣が大量に供給されているのだろう。この世界でも場所によっては剣が高いこともあるかもしれない。だがこのあたりでは、粗悪な安物さえ売れるぐらいに需要が高いのだ。原因は、森で見かけるような怪物だろう。ああいうのが多くて武器が必要――とは、想像に難くない。なかなかバイオレンスな土地柄ということだ。であれば、もしかすると、汚染によって凶暴化するという仮説に、国家の発展を左右するほどの意味があるかもしれない。

 そして、間違いなく聖水は回復の霊薬として高く売れるだろう。問題は、いくらで売るか、だ。

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