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水07 知識チート、魔法チート

 海岸から草原へ帰る。水蒸気ロケット飛行では水の精霊を置き去りにしてしまうので、水の精霊と同じように体を水で包んで空を飛ぶことにした。プール式飛行術とでも呼ぼうか。水は水魔法で浮かせて動かし、体はその水に浮いている。水を動かすときには、流れるプールみたいに少し水流を作ってやるのがポイントだ。そうすると、水だけ移動して体が置き去りになるのを防げる。

 この移動方法、海岸へ向かうときには制御がうまくできなくて満足に操れなかったが、精霊王の祝福を受けた今では、ハーネス程度まで省略・小型化できている。劇的な変化だ。精霊王に感謝だな。


「帰ってきましたね~。」


 森の上空を抜けて、草原に戻ってきた。

 今日で13日目だから、そろそろ冒険者3人組が来るかもしれない。種と苗を持ってきてくれるはずだ。


「生活拠点を調えないと……まずは畑の用意を済ませてしまうか。」


 氷のクワを作って草原を耕す。人力でやると時間がかかる作業だが、魔法でやると簡単だ。氷のクワを大量に作って、人海戦術みたいに一斉に耕せばいい。


「おお~! そんな事もできるようになったんですね。」

「精霊王の祝福はすごい効果です。」

「陛下の祝福ですからね~。

 私の契約なんかとは次元が違います。」


 水の精霊が、謎に自慢げだ。種族的には精霊と人間だから、身内意識があるのかもしれない。日本人選手が活躍したニュースを見て、外国人に自慢してしまう日本人と同類だろう。俺はやらないけど、そういう人もいるという話は聞く。

 ザクザクと氷のクワが勝手に動き、30分ほどで大きな畑ができあがった。しかし、このままだと、まだ土の中に草が混じっていて、そこからしぶとく繁殖するかもしれない。なので、除草剤代わりに海水をまく。


「よし。これで明日まで待つとしよう。」


 塩害が起きて草が枯れるので、それから淡水をまいて土壌の塩分を水に溶かし、その水を浄化して塩分を取り除けばいい。


「次に家を作るか。」


 氷で家を作ることもできるが、それだと寒くて仕方ないので、木材を使うことにする。南の森に木はいくらでも生えている。

 ウォーターカッターで木を伐採し、枝を落として、プール式飛行術で丸太を運ぶ。集めた丸太から水分を抜き取って脱水することで乾燥させる。乾燥すると木材は変形するのだ。特に板材が反り返ってしまうことで、敷き詰めた床板に隙間ができるとかの弊害が起きる。乾燥による変形を事前に起こした上で角材や板材にカットしていけば、それ以上の変形はない。


 ……と思ったが、やってみたら乾燥した丸太が放射状に割れてしまった。ヒビが入ったような感じだ。これを柱として使うのは強度的に不安だし、板材にするのもサイズが小さくなりすぎて面倒だ。どうしたものか……と、そこで思い出したことがある。

 どこで見たのか忘れたが、柱に切れ目が入っているのを見たことがある。縦に半分ぐらい、わざと切ってあるのだ。初めて見たときは「割れている!?」と思ったが、よく見ればあまりに直線的に割れている。これは自然に割れたのではなく、人工的に切ったのだと理解した。なんでわざと強度を下げるような真似をするのか理解できなかったが、今理解した。

 板材を取るために丸太の脱水を中途半端にやって、それから成形し、角材には縦に切れ目をいれて、それから角材だけさらに脱水して乾燥させる。すると……やはり、だ。乾燥による変形で切れ目が広がっていく反面、それ以外の部分では割れずに済む。板材はこのまま使うが、自然乾燥で少し反り返ってしまうのは、仕方がないと諦めるしかないだろう。

 そういえば昔の職人は、乾燥による変形も計算ずくで異なる木材を使ったり板材の表裏を組み合わせたりして、お互いの反り返りを打ち消し合うようにしていたという話を聞いたことがある。俺にそこまでの知識はないから、使っていくうちにどうしても具合が悪いならそのときに交換するしかないだろう。

 となると、メンテナンスしやすいように気をつけて組み立てないといけない。まあ、どうせ本格的な木造家屋の構造なんて知らないんだから、素人考えのシンプルな構造にするしかない。ただ材木を交換しやすいように考えるだけだ。ガチガチに固定しないで、乗せてあるだけ、みたいな構造にするといいだろう。どうせ釘なんかないし。


 角材の端を削って突起を作ったり、その突起に合うように穴をあけたり、削って溝を作ったりして、柱を組み立て、板をはめ込み、屋や壁を作っていく。プール式飛行術で材木を運べば、重機も必要ない。ガラスの代わりに氷を使い、全体的には江戸時代の民家みたいにする。土間に炊事場を作り、リビングに囲炉裏を作る。玄関は、引き戸にすることで、蝶番を使用せずにドアを設置する。

 水は沸騰させても100度にしかならないから、火をおこすには少し工夫が必要だ。乾燥した木の枝に氷を取り付け、高速回転させて摩擦熱で火をおこす。これで焼く料理ができる。鍋やフライパンがないから串焼きばっかりになるが。夜の灯にも困るまい。なお、煮たり炊いたりする料理なら、鍋釜も燃料さえも必要ない。水魔法で操ればいい。


「トイレやキッチンの下水はどうしますか?」


 水の精霊が足りないところを指摘してくれる。


「ああ、忘れていました。ありがとう。

 う~ん……そうですね……排水路を作って、外でためるようにしますか。」


 洗剤を使うつもりも作る予定もない。油を入手できないから、洗剤も必要ないのだ。従って生活排水はすべて有機肥料になる。ただし糞尿をそのまま畑にまくと毒になる。放置して発酵させる必要があるのだ。その発酵のための場所を、こえだめという。今では田舎の農村ですら見かけない。日曜日の夕方に落語家が「こえだめに落ちた」と言っていたから、昭和の頃にはまだあったのだろう。

 江戸時代のトイレは、いわゆるポットン式便所だった。従って汲み取り業者が存在したのだが、驚く事に()()()()()()尿()()()()()()システムだった。そうやって集めた糞尿を、()()()()()()()()。汲み取り業者はそうやって利益を得ていたのだ。いいものを食べている家からは、糞尿の買い取り価格も高くついたという。それだけ肥料としての価値が高かった。逆に言えば一般人の食生活がいかに質素で栄養不足だったかという事になるかもしれないが、一般人の栄養状態がそこまで悪ければ栄養失調で死者が大量に出てしまう。たぶん「いいものを食べている人の糞尿は、いい肥料になる」というのは事実以上に思い込み、迷信も混じっているのだろう。


「上水道設備は必要ないのが、ありがたいですね。」


 水魔法で水を出せばいい。

 下水だって、なんなら水に混ぜてから浄化してしまえばいいのだが、せっかくだから肥料作りに挑戦してみよう。

 あとは家具か。テーブルや食器ぐらいなら木を削って作れるが、困ったのがベッドだ。中綿の代わりに干し草でも詰めようか。いや、そもそも詰める袋がない。どうやって布を作るか……いや、これは街へ買い出しに行くほうが早いか。そうなると代金――現金を手に入れる必要がある。

乾燥してから製材……の下りに追記しました。

あんまり乾燥させると割れるでしょ。というのを忘れていましたので、書き加えてあります。

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