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水05 人? は見た目が9割

 飛んでいったら30分で海岸に到着した。やっぱり地形を無視して進めるのは速いな。

 問題は、土地が干上がった原因がまるで分からない事だ。それらしいものが何もない。


「仕方ない。空を飛ぶ訓練をするか。」


 せっかく海に来たわけだし、今後どこへ行くにも飛行訓練は役に立つだろう。

 まず、この水に浮いた状態で水もろとも空を飛ぶという方法は、それほど速度も出ず、大量の水を不安定に動かすので効率が悪い。別の方法を試してみよう。


「水よ、あれ。」


 足の裏と掌から水を噴射して、その反動で飛んでみた。

 フライボードというマリンスポーツがある。ホースにつないだ板に乗って、ホースから水を噴射する反動で空を飛ぶスポーツだ。スケボーやBMXみたいに、アクロバティックな空中技をキメるのが醍醐味のようだ。

 バランスを取りつつ水の噴射をだんだん強くして、体を浮かせていく。


「おお! いいぞ、いいぞ……って……! うわ……! ちょ……! ぎゃあああ!」


 ちょっと浮いたところで、俺はバランスを崩して海に落ちた。

 まあ、最初からうまくいくはずもない。練習あるのみだ。フライボードは足だけで制御するが、俺は両手からも水を噴射するから、フライボードよりも制御しやすいはず。


「がんばれー。」


 割とどうでもよさそうな声援を飛ばして、水の精霊が氷の椅子に座って飛んでいた。

 ……ああ……氷で足場を作る方法もあったか。

 なんていうか、天才がバカを応援しているような、あるいは大人が子供を応援しているような、そういう格差を感じる。なんという劣等感ッ……! 絶対に見返してやろう。そのために水を噴射する方法を選んだんだ。






 しばらく訓練したら腹が減ってきた。

 海水を持ち上げて、そこから水分を抜いていく。そうすると、海水の塩分濃度が高くなり、海水と一緒に持ち上げられた魚も大量にゲットできる。そして水分子の運動を加速すると、水温が上がって魚の塩ゆでができる。


「おええッ!」


 食えないッ! なんだこれは!? 反射的に吐き出してしまった。

 海水に混じった色々な成分が濃縮されていて、妙な臭みやえぐみがある。なんだろう? なんていうか、薬とか洗剤とかを適当に混ぜて腐らせたような、ひどい風味だ。昔、コップを洗ってすすぎが不十分のまま水を飲もうとした事があるが、体が拒絶反応を起こしたみたいに吐き出してしまった。わずかにすすぎ残した洗剤でも反射的に「おえっ」と来るのだ。それを何十倍もひどい状態にした感じだ。


「……水質汚染か……?」


 困った時の神頼みといってみよう。


「水神様、払いたまえ、清めたまえと、かしこみかしこみ申します。」


 魔力の青い光が広がり、暗い青色をしていた海水が急激に透明になっていった。海底が見えない濃い青色だった海水が、まるで沢の清流みたいに透明になって海底が見えるようになったのだ。

 塩ゆでにした魚も、漂白したみたいに真っ白になった。


「あっさり塩味!」


 うまい! 同じ魚とは思えない劇的な変化だ。

 適当に腹ごしらえをしたら、訓練の続きといこう。劇的に透明になった海の上で訓練するのは気持ちいいだろうな。






「ひゃっほーう!」


 訓練すること3日目、水を噴射する飛行方式をマスターした。

 さらに俺は次の段階として、水をそのまま噴射するのではなく、気化して噴射することにした。水は蒸発すれば体積が1600倍とか1700倍とかになる。水をそのまま噴射するより効果的だ。だから水車よりも蒸気機関のほうがパワーもスピードも出る。原理的にはロケットだが。


「待ってぇ~!」


 水の精霊が一瞬で置き去りになる。

 俺は飛び回りながら眼下の海を浄化して、ぐるっと1周して水の精霊のところへ戻ってきた。

 すると海面に青い光――魔力が集まり、海水が渦を巻いて巨大な人魚の姿になった。

 ヒゲが立派なムキムキのおっさんだ。……美女ならよかったのに。


「何者だ! この海をこんなにしおって!」


 下半身が魚の巨大なおっさんが、銅鑼を鳴らしたような轟く声とともに俺たちをギョロリとにらみつけた。


「へ、陛下……!」


 水の精霊が慌てて跪く。


「……え? ……陛下……?」


 陛下ということは王様なのか? 人魚の王様? 海中に住んでいるのだろうか? 水の中に居る関係で、水の精霊がこの人魚のおっさんを知っている……?

 ……あれ? 水の精霊は、干からびた土地を潤して欲しいと言った。かつては緑豊かな土地だったとも言った。神々しい水を浴びて存在が進化したとも言った。なら、海水が浄化されることは喜ばしいはずだ。なのに、この人魚の王らしきおっさんは「こんなにしおって」なんて言う。なんで叱られるっぽい気配になってるんだ? 敵対しているのか? 人魚のおっさんのほうが格上だから跪くだけで、みたいな?


「その通り。わしは水の精霊の王じゃ。

 そのほう、名はなんと申す? この海をこんなにしおったのは、そのほうであろう!?」


 あれれ……? 水の精霊の王? 人魚の王じゃなかったのか。て事は、水の精霊とは敵対していないと……? ん? じゃあ、なんで俺が叱られる気配なんだ? ますます分からん。


「早川秋水といいます。

 あの……なにかマズかったでしょうか?」


 尋ねてみると、精霊王はキョトンとした。

 それから「しまった!」と言わんばかりに、片手で顔をぴしゃんと叩く。巨体だからバチーン! と凄い音がしたが。


「いや、よくやった! 褒めてつかわす!

 こんな顔じゃが、別に怒っておるわけではないんじゃ。顔が怖くてすまんのう。」

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