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水02 窮鼠、猫に出会わないように頑張る

 水の精霊との契約を済ませて、俺はさっそく水の魔法を試してみることにした。


「イメージが大切です。

 魔法は魔力を操って作用を起こすもの。魔力は精神の働きで動きます。

 しっかりとイメージができていれば、その通りに魔法が発動します。イメージがあやふやだと、満足な効果が得られません。」


 水の精霊のアドバイス通り、干からびた荒野を緑豊かな草原にするイメージで……北海道とかヨーロッパとかの大草原をイメージすればいいか?


「呪文とか魔方陣とかないんですか?」

「イメージを補強するために使うことはありますが、必須ではありませんよ。」

「なるほど……。ん~……水よ、あれ!」


 即座に土砂降りになった。


「あばばば……!」


 豪雨というか、まるでシャワーだ。顔のほうへ流れてくる水で呼吸がままならない。

 あ、でも、美味しいぞ、この水……! なんていうか、神社の手水舎の水で両手を清めた後に口をすすいだ時のような、神々しくてスッキリさっぱりしていて、体の内側から清められていくような……! それでいて活力が溢れてくる! 体の奥から、まるで全身が新しく作り変えられていくような、すごい活力が湧いてくるのを感じるッ!

 俺は天を仰ぎ、夢中で雨水を飲んだ。なぜだか、いくら飲んでも腹一杯にならない。たぶん、もう20リットルぐらい飲んだんじゃないかというところで、清めと活力がピークに達したのを感じた。同時にお腹がふくれる。


「……あれ? ……え? えええ!?」


 驚くべき事が3つも起きていた。

 1つは、周囲の光景。干からびた荒野だったのが、いつの間にか緑豊かな草原になっている。なぜだか、これは当然の結果だという気持ちが湧いてきた。延命を司る水神様の水によって、大地が延命されたのだ。誰かに説明されたわけでもないのに、説明を受けたような「なるほど、そうなのか」という感覚によって、そのことが理解できる。謎を解いた時のような「ああ、そういうことか」という直感とは違う感覚だ。もしかして、これが神の啓示を受けるというやつだろうか。

 2つめは、俺の体。ヒョロガリ体型だったのに、筋骨隆々になっている。ふくらんだ筋肉のせいで、着ている服がレオタードみたいにピチピチになっていた。服の袖とズボンの裾が、軽くめくったように寸足らずになっている。背も伸びたようだ。160cmのチビだったのに、たぶん今は180cmぐらいある。人体の7割は水分でできているから、延命の効果がある水を飲んだことで体が活性化したのだ。

 3つめは、俺の視界。体から溢れる魔力が、目で見えるようになった。目も活性化したからだ。魔法を使う上で、そのエネルギーである魔力を視認できるというのはありがたい。調整しやすいだろう。


「な……何ですか、今の!?」


 美しい声に振り向くと、そこに美女がいた。

 青と白のグラデーションに彩られたドレスに身を包み、こぼれそうな胸を揺らしながら端正な顔を驚愕に歪めている。


「……ど……どちら様……?

 あ……ていうか、水の精霊はどこに……?」


 周りを見回すが、あのガラス細工みたいな幼女の姿がない。


「水の精霊は私です!

 今のものすごい神々しい雨のおかげで存在の格が上がって姿が変わったんです! ていうか、あなたこそ姿が変わってますよ! 人間のくせに、その変化は何ですか!?

 いえ、それよりあの神殿が降ってきたみたいな神々しい雨は!?」

「あー……うん……なんか、水神様のお力で……?」


 俺だってよく分からないんだ。聞かれても困る。


「でもまあ、とりあえず干からびた土地が潤いましたね。」

「あ、はい。ありがとうございます。」


 ぺこりとお辞儀する水の精霊。ぷるるんと揺れるたわわな果実。しかも今は透明じゃない。け……けしからん……! なんというけしからん乳かッ……!


「それで……俺、このまま送り返されるとかじゃないですよね?」

「あ、はい。

 時間がたったら元通り、では困りますから、この土地がなぜ干上がったのか、その原因を調べ、解決して頂きたいと思います。」

「そうですか……。」


 とりあえず戻らなくてすむらしい。よかった。体はデカくなって、筋肉もついたが、赤木や風間……あいつらには関わりたくない。

 とはいえ、土地が干上がった原因なんて、どうやって調べればいいのだろうか?


「実は、ここは海岸からそれほど離れていない場所なのです。

 南に海があって、そこから森が広がっていますが、ここはもう荒野に……。

 海岸からここまで20kmしかありません。近隣の土地では、海岸から20kmなんて、まだまだ緑豊かな土地です。昔はここも緑豊かでした。それが50年ほど前から急に……なぜここだけが干上がってしまったのか……。」


 水の精霊はため息をつく。

 なるほど。急激な変化、周囲との違い。地形とか気象条件とかではなく、もっと……たとえば周辺住民の活動による影響とか、そういう大気汚染みたいな「自然には起きない原因」がありそうだ。


「あ、そうだ。

 大事な事を確認しておきたいんですけど。」

「何でしょう?」

「ここって、地球じゃないですよね?」

「違いますね。」


 そうだよな。精霊がいたり魔法が使えたり、明らかに地球じゃない。

 でも確認しておきたいんだ。不意の遭遇とかも起きない、あいつらに会わないで済む場所なんだって。


「赤木や風間は、こっちに来ていますか?」

「いえ……? 私が召喚したのは、あなた1人だけです。」

「俺が落ちた池の近くに居た2人ですけど、別の精霊に召喚されているとかいう可能性は……?」

「ないと思いますよ。

 私がチャンネルを開けたのは、あなたが身を浸した水のおかげですから。」


 水神様の神通力が宿った水ということか。その力を借りることで召喚できるらしい。

 なら、池に落ちていないあいつらが、こっちに召喚されている事はないだろう。池に沈んだ俺を探すために池に入ったとしても、水の精霊が望まない限り、新たに召喚することもないはずだ。

 ……ん? という事は、「こいつダメだ、使えねぇ」「別の人を呼ぼう」とか思われないように頑張らないとダメじゃないか。なんだ? もしかして、意外と追い詰められた状況なんじゃないか? 赤木や風間を召喚されちゃたまらない。もしもあいつらが池に入っていたら、水の精霊の気分次第で召喚できるという事じゃないか。あいつらも、さすがに俺が溺れ死ぬのはマズイと思うだろう。主に自分たちの保身のために。それで池に入るかもしれない。……で、あいつらがこっちの世界に召喚されてしまったら……こっちには警察とか教師とか止めに入ってくれる人も居ないわけで……。や……やばい……! 最悪、殺されかねない! やるしかないッ……! この理想郷を守るんだッ!

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