なな! 何言ってんの!?
華純、暴走。
「着いた……」
野菜の入った袋片手に駅のベンチに座る、電車は数分後に来る。
それに三武が乗っているかは分からないが。
「野菜どうしよっか、ってあ!」
すっごいびっくり、大変な事実に気づいてしまったよ。お昼食べるところが俺の家以外ない。
農家の人に「食べさせて」と頼めば快く迎え入れてくれると思うが誰かの家で食べようものなら噂どころではなくなる。
「家はあんまり見せたくないんだけどなあ……」
何度も言うが家は滅茶苦茶にでかい、元々代々受け継いでいる土地があったのに更に拡大しやがったのだ。
その広さ、本来なら十数人で暮らすくらいがちょうどいいほど。
そこに一人で住まわすとは大した親だ。
そんな家を見せてみろ。「住む世界が違うね……」ってなって離れるルートか「金持ってんの?ちょっと貸してくれよな」とかカツアゲされるルートに決まっている、前に帰国した父が「お前に危険が及んだ時に」とか言って連れてきたよく分かんない異国の拳法の達人になんかよく分からない戦い方を教えてもらっているからカツアゲされたらそれを使う。
超一流企業の社長が息子を守るためにする事って戦い方教えるとかじゃないと思うんだけどなあ……。
まあだからといってSPをつけられても嫌なんだけれど。
「ま、三武はそんな人じゃないか」
三武なら「すごーい!」とか言って終わるだろ。頭ぽわぽわしてそうだし。
「あ、電車来た」
果たして三武は乗っているのだろうか。
「あ、乗ってるわこれ」
べたーっとドアに張りつく様にしている三武が見つかった。
俺に気づくとまた少し驚いた様な顔をして、手をぶんぶん振った。
ぷしゅーと音を立ててドアが開き、三武と、ロイの入ったコロコロキャリーが出てくる。
昨日と同じく、Tシャツと短パンを来てきている。
「悪い、迎えに来た」
「ううん全然、寧ろありがとうだよ」
因みに現在8時40分、20分早めの到着だ。
あ、そうだ先に言っておかなくては。
「なあ三武」
「何?」
「俺達付き合ってないよな?」
ガシッと三武の肩を掴む。
「ふえっ、あっ、うん……でもその……そうなりt」
「何か聞かれても付き合ってないってすぐに言えよ!」
まごまごしてたりすると肯定とおばあちゃん達が受け取ってしまう、三武がびっくりして黙りでもしようものならアウトだ。
おばあちゃん達は「嫁だ嫁だ」と広め回るに違いない。
「三武?」
また固まってしまった、やばいよほんとこれ。
俺が咄嗟に言うしかないか……でも「恥ずかしがるんじゃないよ!」とか言われてしまう。
一度三武から視線を外し、もう一度三武の方を向く。
すると三武が口を開いた。
「横溝君は、私とそう思われるの嫌……なの……?」
「嫌じゃないけど違うじゃん、三武にも悪いし」
どうせ噂になるならもっと良い男の方がいいだろうし、三武にも好きな人くらいいるだろう。
「嫌じゃ……ないの?」
「嫌な訳ないだろ、三武可愛いしボスも懐いてるし、寧ろ光栄だよ。まあ良いや、行こうぜ」
「……あ、うん」
その時は気づかなかった、気づく事が出来なかった、三武の中に燃える闘志(?)に。
「のどかだね」
「だろ」
今は三武とロイ、ボスを連れてなるべく畑がない道を通っている。
このまま畑を通らずに終わりたい、そう思った矢先だった。
「あら慎也君じゃないの」
と、ひょっこり奏さんが出てきた、その後ろからは良彦さん。
「げ……」
奏さんと良彦さんの視線は俺の直ぐ横、三武に注がれている。
二人は顔を合わせ、ゆっくりと瞬きを二回し、頷いた。何だそれは、何をするつもりだ。
「なあ、慎也君」
「彼女さんかしら」
案の定だ案の定、だがまあ三武にも即答で違うと言え、と言ってあるから大丈夫。
三武が直ぐに口を開くのが分かった。
これで安心──
「──そうです!」
「そうそうその通り!……って……え?」
今こいつそうですって言った気がしたんだけど。
考える間もなくガシッと両腕が掴まれた、右に良彦さん、左に奏さん。
「ちょっと!誤解!」
「でも今その通りっていったわよね」
「俺も聞いたぞ」
目で三武に訴えかける、すると三武は頭を下げて、すっごい嬉しそうな顔で笑った。
「奏、電話でばあ様に赤飯の準備を」
「了解です」
「違いますって誤解……!」
「恥ずかしがるなよ、男だろ」
「もう、恥ずかしがり屋さんなんだから」
二人共凄い笑顔なんだけど、怖いんだけど。
「じゃあ、行こうか慎也君」
「どこに!?」
「どこにって私達の家よ、おばあ様がお赤飯の準備をしてくださるそうよ」
地面から足が浮く、数瞬遅れて二人に担がれたのだと気づく。
「彼女さんボスちゃんお願いするわね、着いてきて」
「分かりました!」
いやー、恋する乙女って何するかわかんないですよね。
好きすぎて人刺し殺した方もいたな……。