に! ロイの家族?
わんわん
「行ってきます、ボス」
ボスを一撫でして家を出る。
学校行きたくない、ボスとずっと戯れていたい。
駅まで20分そこから学校の最寄りまで10駅だ。
駅を降りたら学校まで歩く、約10分。
家から学校までは1時間程で着く。
「おはー」
着いて早々に健二が話しかけて来る「ん」と適当に返しておく。
「挨拶くらい返せってのー」
「はいはい」
適当にあしらいながら教室へ入り、机に向かう。
「なあ、健二」
「分かってる分かってる、明後日またあの猫カフェだろ?」
「ん、サンキュ」
明後日からの土日が明けるとそのまま夏休みだ、今年は謎の【秋休み計画】とやらで夏休みがほぼ無くなってしまっている。
代わりに10月が全部休みらしい。
「横溝くーん、ちょっと明後日なんだけど空いてる?」
そう話し掛けてきたのは同じクラスの三武だ、前にプライベートの三武が怪我してるのを助けてやってから話しかけてくるようになった。
明後日か、残念だな健二が先だったぜ!
それに例え三武が早かったとしても断る。
「健二と行くところあるから無理だわ」
「えー……」
それを聞いて、残念といった風に三武は離れて行った。
「良いのか、三武ちっちゃくて可愛いって評判で男から人気だぞ?」
コツンと健二が脇腹を小突く。
「うるさい、あんなの犬や猫に比べりゃうさぎだ」
「良いのか悪いのか分かんねえよ」
「なあ健二よ」
「ん?」
「俺今日の放課後ボスと遊びまくろうと思うんだよ」
そこで健二は「なるほどね」と全てを理解した顔をした。
「ボスの体力がやばくてお前一人だと遊びきれないから俺にも来いって事か」
「ご名答、良いか?」
「全然いーよ、俺もボス好きだし」
俺は基本毎日ボスと遊んでいるので体力があるのだけれど、健二の家には鳥しかいないし、帰宅部。
なのに健二は体力がある、世界の七不思議だ。
「横溝君犬飼ってるの?ちょっと私も遊びに行きたいなーなんて……」
「俺の家の犬知らない人NGだから」
「うー、そっか」
またひょいと三武が出てきたが、また残念と去っていく、因みに真っ赤な嘘だ。
狼犬にしてはボスは知らない人でもウェルカムなのだ、すっごい不思議。断った一番の理由は知り合いには家を見せたくないというものだ。
「いーじゃんよ、三武元だけど運動部だぞ?」
「やだ、俺は家を無下に見せたくない」
「ふうん」
両親が無駄に馬鹿でかい家を作ってしまったのだ、父親曰く「ごめんな、もう日本には戻れそうにないからなんでも好きなようにしてくれ。物置にするでも良し、人を住まわせるでも良し、動物を入居させるも良しだ」だと。
母親も同じ様な事を言っていた、でも俺は何一つその通りにしてない。
ボス以外を入居させる予定は今のところない、道端の捨て子以外は取らないと決めているからだ。
やろうと思えば保健所の子を沢山貰う事も出来る、でも全匹は無理だし、あの中から数匹を選ぶ事は出来ない。
それに何匹も貰ってしまったら一人では構いきれなくなってしまう恐れもある。それは避けたい。
だけど救えるのに救わないのは流石に胸が痛むため、地域の保健所などには寄付をさせてもらっている。
ボス、健二来たら喜ぶぞ。
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「ボス!」
健二がボスを呼ぶと「お前かー!良く来たなー!」みたいな感じでボスが駆け寄ってくる。
「っはは!変わんねえなあボスは」
「悪いけど1時間くらい遊んで、俺は着替えてくるから。お菓子とおやつ持ってくる」
「おう!あー俺の着替えも持ってきて!」
「はいはい」
健二は良く家に来るため、健二の服は何着か家に置いてある。
「えーと、あいつの服はこれでいいか。お菓子は饅頭、あとはペットボトルの麦茶……ボスのおやつはいつものっと」
ぱぱっと着替えを済ませて、健二の服とお菓子とおやつを持って庭に出る。
庭では健二がボール遊びをしていた、然しただのボール遊びではないのだ。
健二が遠くまでボールを投げる、ボスがそれを取りに行っている間に健二が隠れる、ボスが見つける。
こういった遊びだ。
ならばそのついでだ、ボスを呼び寄せ健二の服が入った袋を咥えてもらう。
「ありがとうボス」
その後ボスは迷いなくバーッ!と走っていくと簡単に健二を見つけ出した。
「お前隠れるの下手かよ」
「ボスが凄いんよ、お前だって隠れきれた事ないだろ」
「まあな」
健二は「なー、ボスぅ」とボスをわちゃわちゃした、確かにボスは凄い。犬の嗅覚は人の1億倍、狼は100万倍と言われている。
犬よりかは劣るが断然凄い。
すると、健二がくるりと振り向き「なあ、真面目な話なんだけどな」と言ってきた。
「何だ?」
「三武さ、少しは誘ってやれよ。悪い奴じゃないんよ?」
「まあ、それは分かってるけどさ……」
三武は寧ろ良い奴だ、それは分かってる。でも嫌だ、これに関しては気分としか言い様がない。
「機会があったら誘うよ」
「機会って……あ、三武も犬飼ってるんよ?」
「知ってる、俺は飼ってない」
ボスは飼ってるんじゃない、ボスはもう家族だから一緒に暮らしているのだ。
「あ、そっかお前は飼うって表現好きじゃないよな」
「動物は誰かの所有物じゃないからな」
そんな事を話していると、ボスがガバッと起き上がりそわそわとし始めた。
「ボス?あ、健二直ぐ着替えて」
「おうよ」
健二が着替え終わるのをボスを宥めながら待つ、近くの雑木林に向かってボスは今にも走り出そうとしている。
「ボス、全力ダッシュは辞めてね」
分かってる、という風に一言鳴いた。
「終わった!」
「よし、ボス行け」
背中をポンと叩くとボスが走り出す、勿論俺達がついていけるくらいのスピードでだ。
「捨て子でも見つけたのかな」
「ボスそんな事も出来るのか……?」
「いや知らない」
でも犬が捨て子を見つける、というのは聞かない話ではない。ボス狼だけど。
然しボスが走っていった先にいたのは一匹の黒柴の成犬だった。赤い首輪にリードまでされている。
「黒柴の成犬……」
「しかも首輪ついてんのな」
黒柴はこちらに気づき、とてとてと近づいてきて、くうんと鳴いて体を擦り寄せてきた。
相当不安だったのか下がっていた尻尾も、人が来た事が嬉しいのかぶんぶんと振られている。
名前は ……ロイか、首輪に書いてある。
「捨て犬じゃないな、捨てる時に首輪なんて付けないし。多分何かに興奮して飼い主置いて走ったら迷子になりましたみたいな感じだろ」
「どうすんよ」
「家族が見つかるまでは家で暮らしてもらう、でも見つかるかどうか……」
ここら近辺の家の犬や猫は種類から名前、家族まで把握しているがこの犬は見た事がない。
「SNSに上げとくか」
パシャ、とロイの写真を撮る。勿論首輪も写す。
「見つかんなかったらどうすんよ」
「家で暮らしてもらう」
見つかると良いのだけれど。
「ボスよく見つけたな、偉いぞ」
ボスをわちゃわちゃ撫でると「当然やで」みたいにキリッとした顔で鳴いた。
その後は黒柴を連れて家に戻り日が暮れるまで遊んだ、黒柴はもう歳らしく直ぐに疲れて寝てしまった。
健二はボスとたっぷり遊んで帰っていった。
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風呂から上がって数分してからスマホが震えた、SNSの通知だ。
名前は『❁華❁︎』アイコンは例のロイに似ている。
『もしかしたら家の子かも、一度確認させて頂けませんか?』という文面だ。
「こんなに早く見つかるとは……」
だがまだ決まった訳ではない『了解です、いつ頃が良いでしょうか?』と返信しておく。
数十秒後、また携帯が震えた。
『予定がなくなってしまったので、私は明後日が空いています』
「明後日か……」
やむを得ない……。
『ごめん、明後日の約束なしで』と健二に送る、直ぐに『分かったー』と返ってきた。
それを確認して『明後日、了解です。待ち合わせはどこにしますか?』と送る。
これで滅茶苦茶遠かったら違うという事だ。
『では、12時にここなんてどうですか?』という返信と共にURLが送られてきた。
開くと、地図アプリが起動され、駅を1つだけ跨いだ場所がマークされていた。
わんわんときたらにゃんにゃんだけども、どっちかってっとにゃーにゃーですよね。