森の中で。
ある森の中。
「…ハァ、ハァ…。」
一人の少女が駆けていた。
後ろからは獣の息遣いが聴こえる。
「…うぅっ。」
少女の体力は限界の様だ。
獣との距離も狭まってきている。
「…。」
そこに、何処からともなく男が現れる。
◆◇◆◇◆
「…はっ!?」
「…目が覚めたか。」
辺りは闇が降り始めていた。
「ここは…、あたしは…!?」
「…問題は解決している。とりあえず落ち着け。」
「…あなたは?」
「とりあえず体力を回復させろ。飯がある。」
「…あ、はぃ、ありがとうございます…?」
具沢山なスープと、柔らかなパンが渡された。
初めて見る料理だが、何とも言えない薫りに腹が鳴る。
「…い、いただきます。」
「喰ったら寝ろ、俺は夜番しておく。」
「あ、はぃ。…うぁ、おいしぃ…。」
少女の食事の音だけが響く。
「…ごちそうさまでした。」
「あぁ、寝ろ。」
「あの。」
「明日に、近くの村にでも送ってやる。」
「ありがとうございます、おやすみなさい…。」
◆◇◆◇◆
翌日、近くの村の門前で。
「ありがとうございました。」
「…あぁ、ではな。」
「お名前を、お礼させて下さい!」
「…覚える必要はない、礼もいらん。」
「でも!」
「忘れて構わん、ではな。」
音もなく、男はいつの間にか消えていた。
「…あ…、ありがとう。」
少女の呟きだけが残った。