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11/11

Episode:11

「何も起こっていないとしても、言葉通り一夜は過ごしたんだから奴隷は全部よこせよ」


 テオとヨシュルダに軽蔑の眼差しを向けられ、ノヴァは色のない顔で頷く。

 その後はもうトントン拍子にことが運び、開放された奴隷は全てつつがなく獣人国へと送られた。

 獣人たちも少しは疑い深くなったようで、あれから奴隷狩りにきた者たちを撃退することができたようだ。

 たまに捕まってしまう者もいたようだけど、仲間だけでなんとか助け出すことができたと聞いている。そもそも運動能力が半端なく高いので、知恵さえつければなんの問題もないのだろう。


「あーあ」


 ――ところで私たちはと言えば……テオとヨシュルダは未だ住む場所がないからと私の家で住んでいる。

 ノヴァはたまにうちに顔を出すが、ちょっと気まずいのかあまり長居はしない。

 大きく伸びをして、深呼吸する。


「…………」


 今日は快晴。

 ウッドデッキテラスで寝椅子に転がり、ヨシュルダが入れてくれたハーブティーを飲む。


「……終わったねぇ」


 私がこの世界に来て三ヶ月だろうか。

 気持ちだけはもっといるような気がして、ちょっとだけ口角を上げる。


「まあ、カンナは頑張ったんじゃない?」

「そうだな」


 主に頑張ったのはみんなの方だと思ったが、ちょっと笑うだけにとどめた。


「カンナはこのあとどうするつもりなの?」


 ヨシュルダの問いに、眉根を下げる。


「ちょっと迷ってるかな。なんかすることが無くなっちゃったというか……」


 そう、いわゆる燃え尽き症候群だ。

 目標がなくなり、何をしていいのかわからない。

 せっかくなので新しい世界を知るために旅に出てみようかと思ったが、この家の快適さを手放すのは惜しい。

 そもそも旅慣れしていない私が旅に出たらすぐに騙されて死にそうだ。


「……ならさ」


 私の上に影が落ちる。


「僕との未来を考えてみてよ」

「は!?」


 怒鳴ったのはテオだ。


「あのとき、はっきりわかったんだ。僕の思いは僕だけのもので、呪いなんかじゃなかったって」

「えっ……な、なにを……」

「奴隷の呪いのことだよ」

「でも、奴隷の呪いって心まで縛るんじゃ……」

「今僕がお前のことを気になっているって言ってるんだから、信じてくれても良いんじゃないの?」


 いや、でもそんな……そんな思いを向けてもらえるほど、私が何をしただろう……


「妖精はね、気に入った人間に執着しちゃうんだ」

「執着……?」

「波長の合う人間を見つけると自分のものにしようとする。よく聞くだろう? 森で出会った妖精が人間を惑わす話を」


 近い。近いよ、ヨシュルダ。


「獣人の番と同じだと思ってくれていい。それだって奴隷の呪いみたいじゃないかと言われたらそうなのかもしれないけど、でもそれでも――」


 一息にそう言って、静かに息を吸い込む。


「カンナ、僕はお前が気になってしょうがないんだ。この気持はどこから来るのかな? お前が僕のことを心配してくれたとき、死ぬほど嬉しかったよ。一生僕のことだけ見てくれたら良いのにって思った」

「ヨシュルダ、あの――」

「そうだ、今度は起きている間にキスをしよう。そうしたら、僕がどれくらいカンナのことを気にしているかわかってくれる?」

「え!? いや、それはちょっと――え、今度は? どういう意味?」

「ノヴァとは寝ようとしたくせに?」

「あれは仕方なく……ああっ……待って、待って、お願い……ちょっ――」


 あと少しで押し倒されると思ったときだ。

 急にヨシュルダとの距離があき、そのままヨシュルダは後ろの方へ吹き飛んでいった。


「カンナに触るな近ぇ!!」


 額に血管を浮かせたテオが、真っ赤な顔でヨシュルダを怒鳴りつける。


「いった……」


 起き上がったヨシュルダが不満げにテオのことを睨みつけるが、テオはそれを無視して私に向き直った。


「カンナ」

「はい」


 近いと言ったが、この男もだいぶ近い。


「お前の奴隷になったのは俺が一番先だろう」

「……そう、だね」

「俺だって、お前のことを想う権利はあるはずだ」

「……あ~……あの……」

「駄目なのかよ」

「いや、そういうことじゃなくて……」


 一体どうしたんだろう。

 どうしてこんなに……まさかまだ呪いが解けていなかったのかと顔を曇らせると、テオは「呪いじゃねぇ」と呆れたように言った。


「どうしてかなんてわからねぇよ……ただ、俺は……たぶん、お前は俺の番なんだと思う」

「え!?」

「だが確証がない。お前ここ最近生理きたか? 生理になれば俺の番かどうかはっきりわか――」

「最低!!」


 クッションで思いっきり顔を叩けば、くぐもった声がする。


「わ、悪い……! でも、お前なんでか匂いが薄すぎるんだよ……!! 獣人の番ってのは体臭でしか嗅ぎ分けられないんだから、仕方ねぇだろ……!」

「ははっ、ならその鼻馬鹿なんじゃないの? きっと勘違いだよ離れて」


 テオの肩に置かれたヨシュルダの手は、すぐさまテオによって振り払われる。


「うるせぇ!! それでも甘い匂いがするんだから、多分そうなんだよ……それに、お前のことを考えると……こう、胸が……」


 真っ赤になるテオにつられ、私の顔まで赤くなる。

 どうした、なぜ急にモテ期が来たんだ。

 一体どうなっている。


「待ってください!! 話は聞かせていただきました! そう言うことでしたら、私も立候補したく!」


 激しい音を立てて現れたのは、ノヴァだった。


「うわあ~!! 面倒なのが現れた!」

「カンナ女王様!! 酷いことをおっしゃらないでください……!」


 思わず叫んでしまったのは悪くないと思いたい。

 扉壊れていないだろうな……


「カンナがお前のことを好きになるわけないだろう」

「そうだ馬鹿が。お前のしたことをよく考えろ。お前は童貞だから微笑みを向けられただけで惚れたと思いこんでいるだけだ」

「ぐぅっ……全く反論できないですが、だとしたら、だからこそ、私はこの思いを育てたい……!」

「一人でやってろ」


 どこから現れたんだと頭を抱えていると、直ぐ側まできて跪いたノヴァが今にも泣きそうな顔で私を見上げる。


「やり方を間違えてしまいました。どうか私をお許しください。そして私にもチャンスをいただきたい」


 本当にどうしてこんなことになっているのだろう。

 三人とも嫌いじゃない。でも好きかと言われるとわからない。

 というかこれ、今ここで答えないといけないのだろうか……この三人が見ているこの場で?


「…………」


 いや、無理だ。

 そんなことはできない。

 そもそも人を好きになるってどういうことだ。

 私は――


「カンナが混乱してる」


 ため息混じりにそう言ったのはヨシュルダだった。


「今日は一旦やめ。取り敢えずカンナ。時間はあるんだから真剣に考えてみてよ。僕たちの中の誰を選ぶのかをさ」

「いや、あの……」


 眉根を下げて狼狽えていれば、テオが困ったように笑って頭を撫でた。


「困らせて悪ぃ。でも、考えてみれくれ。まだ全員“好きだ”って自覚したわけじゃねぇし。気になっているレベルなんだ。まだ気が楽だろう? そう重く考えんなよ。ほら、行くぞ」


 まだ何か言いたげなノヴァを二人で引きずり、部屋の中へと入っていく。


「…………」


 この世界から元の世界に戻ることはないのだろう。

 いずれ私は恋をして、結婚して、子供を生んで……と、お決まりの人生を歩むのだろうか。

 そのときに私の隣りにいるのは――


「……何をやっているんだろう、私」


 三十にもなって恋愛の一つもできない。

 だからこそ三十で独り身なんだろうけど、急に湧いて出たこの話に乗れないあたり、すっかりこじらせてしまっている。

 というかあの人達、私の年齢とか知っているのだろうか。


「…………」


 血の気が引く。

 なんか急に不安になってきた。

 おばさんじゃん、私。

 どう考えてもあの子達の方が年下だよね……? いや、エルフや妖精はもしかしたら……

 でも、私は特に綺麗でもなければシミやシワだって増えた。体型だって悪い。胸もなければ学もない。

 臆病者だから、こういうときに前に進めなくなるんだ私は。

 というか相手がイケメンぞろいなのがまた困る。そりゃ卑屈にもなるさ。やめてくれ。


「どうしよう……」


 でもここでチャンスを逃したら一生独り身だよ。

 私の中の悪魔がそう囁き、顔がゆがむ。

 結局私はまた彼らを利用するのだろうか。

 苦しくなった胸を押さえたときのことだ。あの人の言葉が心に浮かんだのは。

浮かんだ言葉は誰の言葉だったのでしょうか?

Twitterでアンケートを取っていますので、ぜひ投票をお願いいたします。

それによって結末が変わる予定です。


[追記]

投票の結果、過半数を占めてテオルートになりました!

ご協力くださった皆様ありがとうございました。

息抜き小説のため執筆は不定期ですが、絶対に完結させますので気長にお待ちくださいませ。

https://twitter.com/morinonoko/status/1161282780053016577?s=21

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