サバト
ぽんぽこぽんぽこぽんぽこぽんぽこ
とんことんことんことんことんこ
すたたんすたたんすたたんすたたん
ぎゅあんぎゅあーっぎゃんぎゃんぎゃー
お囃子のような音楽が流れている。しかしよく聞くとそれはロック、それもヘビーメタルのようだ。
妖界の高地にしつらえられた円形闘技場はRYOZAN PARKの舞台と同じくらいの大きさ。そのふちには円周に沿って無数の鬼火がたかれている。八方向に血のような朱色に染めた漆塗りの柱が立っているが屋根はない。床には大きく魔法陣が描かれている。
中央にはプリンス・アハーン(ダークサイド)のバンド「鏖」が最後のチューニングを終え、本番を待っている。
観客はない。いや、本来観客のいるべき円形闘技場の外の闇を狗族の軍団がびっしりと埋め尽くしている。全員が鎖帷子を身にまとい、黒い槍を持っている。今にも飛びかかりそうに緊張し沈黙して待機している。
「アヌービス!」
プリンス・アハーンが声高に呼ぶと黒い軍団の戦闘からひときわ身体の大きい狗族が進み出てプリンスの前にひざまづいた。全身が黒く痩せているが無駄な肉がない。アフリカの毒蛇ブラックマンバを思い起こさせる。
「アヌービス。そちの軍団の用意はよいか」
「はい。全員覚悟はできております。いつでもご指令ください」アヌービスは長い口から舌を垂らしたまま言った。どのように声を発しているのかわからない。
「今宵は一〇〇年に一度の大満月。月から狂気が降ってくる。妖気の力が最大になる」
プリンス・アハーンは空をあおいで大きく息を吸った。
「この場所が昔「ナラッカ」と呼ばれていたとつきとめるのに時間がかかった。古の八猫士に封印されておったからな。だが今や封印は解かれ、人間界と妖界をつなぐ黄泉の玄関が開くときがきたのだ。狂気が理性を支配するとき、妖界の「ナラッカ」と人間界の「ナラク」がつながる。新しい世界の始まりだ」
「御意」
「ゆくぞアヌービス。今宵は眠らぬぞ」
プリンス・アハーンはバンドのメンバーたちと一緒に用意していた薬物を飲み干すとギター(三味線)を構え直しピックを祈るように天にかかげてから振り下ろした。
ドラムがばちをこつこつと鳴らす。
あわん、あつー、あわんつーすりふぉー
ぎゅあんぎゅあんぎゅあんぎゅあああああああん
魔宴が始まった。




