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暴言の代償

「その条件の内容はいったい何ですか。アンソニーさん?」

ジョナサンはアンソニーに条件の内容を尋ねる。


「何、何も金をよこせって訳じゃない。ただ明日にでもピザをおごってくれるかな。条件の内容は俺にピザをおごってくるか、ってことさ」


アンソニーはジョナサンが食べていたピザの箱を見て、自分もピザが食べたくなったのだ。ちなみに箱の中は空だった。


「それが条件?」


ジョナサンはアンソニーの言葉を聞いて一瞬、ポカンとなった。その五秒後、軽く笑う。


「なぁんだ、それならば良いですよ。明日も出勤しますよね? だったらアンソニーさんが好きなピザを一枚でも二枚でもおごってあげますよ」


「いやいや、一枚で十分だ。俺が食べたいと思っているピザは肉なしの野菜オンリーのピザだ。歳のせいかね、肉ものがこたえるんだ…」


自分の条件をすんなりと聞き入れてくれたジョナサンにアンソニーは約束通り、オマー・リオを殺した暴漢の一人、ランディ・ウィルソンの情報を提供した。同時に忠告もする。


「ジョナサン刑事。俺はあんたが好きだから忠告するが、ランディを逮捕する際には注意した方が良いぜ。というのも、ランディには右翼のダチ公が多くいる。ランディを逮捕したら、そのダチ公から報復を受けるかも知れねぇぜ」


アンソニーは、自分が住んでいるアパートに一時期ランディが住んでいたことでそのことを知っていた。ランディを逮捕することはそれほど難しいことでない。だが、問題は逮捕した後だ。ランディは極道同然であり、その仲間だって極道である。故にランディを逮捕すれば仲間達が警察署に殴り込んで来るのではないか、と懸念を抱いていた。


「犯人の報復を恐れていては刑事はつとまりませんよ。アンソニーさん。情報を提供してくれてありがとう。明日、お礼にピザを奢りますよ」


ジョナサンはアンソニーにお礼を言った。



翌日の昼間、ランディ・ウィルソンは警察署の取り調べ室の席に座っていた。オマー・リオを殺めた罪で逮捕され、取り調べ室に連行されたのだ。取り調べ室にはジョナサンとケリーの姿があった。


「あなたが仲間と組んでオマーを殺したことは認めるのね?」


ジョナサンはランディに罪を認めるのか尋ねる。


「ああ、認めるとも。確かにあのムスリム野郎を殺ったのは俺さ。だが、それで何が悪いんだ?」


ランディは一人の人間を殺めておきながらも良心の呵責を一切感じていない。ランディの態度にジョナサンとケリーは憤りを感じた。


「あなた、自分が何をしたかわかっているの?」


ランディはジョナサンの問いに対してヘンッと鼻で笑う。


「ムスムリ何ざブッ殺したって良いんだよ。移民や難民のせいで苦しんでいるのは誰だよ。イギリス人だよ。あいつらは害虫なんだよ。害虫は駆除したって良いじゃねぇかよ!」


移民や難民を害虫呼ばわりするランディに対して、ジョナサンの憤りが爆発した。


「移民や難民が害虫ですって?! ふざけんじゃないわよ!」


憤りが爆発したジョナサンは怒りのあまりランディの襟首を掴んで、ジョナサンに怒声を浴びせる。


ランディに激怒するジョナサンに対してケリーは驚く。


「いい? よく聞きなさいよ! 彼らは好きでイギリスに来ている訳でないのよ。国の情勢が安定しないから泣く泣く国を捨てているのよ。あなた、それもわからないの?! そんな彼らを害虫って、あんたみたいなバカは一発ブン殴ってやるわ!」


ランディは自分の襟首を掴みながら怒声を浴びせるジョナサンに対して、一瞬ニヤリと笑う。


「俺をブン殴るだぁ? やってみろ! ブタ!」


ランディはジョナサンをブタ呼ばわりすると同時に、ジョナサンの顔面に右ストレートを浴びせた。


「キャアッ!」


ジョナサンは悲鳴を上げて、床に倒れる。


「ジョナサン刑事! お前なんてことを!」


ケリーはランディを取り押さえる。


「うるせぇ! この裏切り者がぁ! 同じ英国人ながら移民や難民の肩を持ちやがって! ブッ殺してやる!」


ランディは自分を制止するケリーをはじき飛ばす。


「このメスブタ! よくも俺様に罵声を浴びせたな! てめえは許さねぇ!」


ランディは自分に怒声を浴びせたジョナサンに罵声を浴びせながら、腹部に蹴りを入れた。


「あ…っがっ!」


腹部を蹴られたジョナサンは胃液を吐く。しかし、やられっぱなしのジョナサンでない。ジョナサンはランディの足を掴んで、ランディを床に転倒させる。


「この野郎! 図に乗るな!」


ジョナサンはランディの顔に平手打ちを浴びせる。それも一、二発でない。ジョナサンはランディの顔に何度も平手打ちを浴びせる。たとえ、男女の力の差があってもジョナサンの平手打ちは思った以上に強烈だった。


ジョナサンの凄まじい怒りにいきがっていたランディは、次第に怖くなり、そして、


「お、俺が悪かったぁ! 許してくれぇ!」


と泣きながら詫びを入れた。同時に取り調べ室の乱闘を聞き付けた他の刑事達が取り調べ室に入って、ジョナサンを制止する。ジョナサンは怒りを静めるために何度か深呼吸をする。


ランディに弾き飛ばされたケリーはランディの方に歩み寄る。ジョナサンの予想外な返り討ちを受けたランディは泣きながら「罪を認めるから、俺をこの凶暴女から助けてくれぇ!」 と訴える。


二人はそんなランディに対して何ともまぁ情けない姿だこと、と思った。いや、情けなさ過ぎる。オマーを殺し、取り調べでは自分のやったことを正当化し、その挙げ句の果てにジョナサンを暴行するが、ジョナサンの返り討ちにビビッて涙する姿はランディがその実気の弱い人間であることを晒した瞬間でもあった。


今までは移民という弱い立場の人間を理不尽な形で責めていたランディであったが、自分なんかよりもはるかに強い(ジョナサン)から手厳しい制裁を施されたのである。

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