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夜勤での話

ジョナサン・フライマンはロンドン・ポリスステーションに勤務する刑事として、これまでに色んな事件現場や、加害者等を見てきた。だが、今回のオマー・リオの殺人事件はジョナサンにとって悲惨で悪辣(あくらつ)なものであった。


現場に着いてケリーと目にしたは暴漢達によってめちゃくちゃにされた店内と、オマーの遺体であった。オマーの遺体はリンチを受けたことで、顔面が崩壊し割れた頭からは血や脳みその一部が垂れていた。


また、この事件を通報したケイレブは骨折を負っていた。ケイレブはオマーを殺した暴漢達は移民やムスリムに対して敵意を抱いていた、とジョナサンとケリーに話した。ジョナサンはケイレブの話を聞いて、オマーを惨殺した連中がブリテン・ファーストの思想に洗脳された右翼だと読んだ。



その日の夜、ジョナサンは署内にいた。今日は夜勤であった。ジョナサンはテイクアウト(出前)したピザを食べながら日誌を書いていた。日誌を書き終えて、ピザの一枚を口に運ぼうとした時だった。


「美味そうなピザだな。俺にも一つわけてくれないかな?」


誰かがジョナサンに話しかけて、ピザを一枚わけてくれと言う。ジョナサンに話しかけたのは黒人男性のジャック・ウェズリー刑事であった。ジャックの年齢は三十代後半。背は190センチ。顔は元ボクサーのマイク・タイソンに似ている。ジャックはジョナサンと同じ刑事だが、ベテラン刑事であった。ジョナサンはジャックを「ジャックさん」と読んでいた。


ジョナサンはピザを一枚欲しいと言うジャックにピザの一枚をジャックに渡す。ジャックはお礼を言ってからジョナサンからわけてもらったピザの一枚を口に運ぶ。


「うん、美味いピザだ。ところで、今回の事件のことはケリーから聞いたよ。気の毒にな。オマー。というのも彼には妻子がいた。彼はシリア移民で、血で血を洗うシリアから脱出してレストランを経営をして上手くいっていたのに、まさか暴漢達に殺されてしまうとな…」


イギリスには情勢が不安定な中東の移民が多く暮らしている。レイシストな思考を抱く暴漢に殺されたオマーは、現在も情勢が安定しないシリアから死にかけながらも家族でシリアを脱出した身だった。


内戦により崩壊した自国から脱出したオマー達はイギリズへ渡り、生活のためにレストランを開店した。レストラン経営は楽なものでない。儲からず開店して、短期間で閉店してしまうレストランも少なくはない。オマーは運良くレストラン経営が上手くいっていた。しかし、それが移民排除主義の暴漢達の怒りを受け、殺されてしまったのである。


「私は犯人を許せない。たとえ右翼であろうと逮捕してやるわ」


ジョナサンはオマーを三人で暴行した末に殺した犯人達に憤りを感じていた。たとえ右翼が移民や難民に対して差別意識、または敵意を抱いていたとしても彼らに何らかの形で攻撃を加えたりすることは許されることでない。


そもそも移民や難民は彼らに対して何か攻撃をしたりしていない。彼らは情勢が安定しない自国を泣く泣く捨てて、イギリズという異国の地へ渡り、何かと苦労しながらも懸命に生きている。にもかかわらず、自分達が上手くいかないことを移民や難民のせいにして、彼らを虫けら同然に見なす連中をジョナサンは許せないのだ。


「確かにオマーをあのような手口で殺害した犯人達はクソ野郎だ。君が怒るのも同然だ。だが、犯人達がここへ連行されて尋問(じんもん)を受けるのは時間の問題だ」


「それはどういうことです?」


「俺の見方が合っていれば話だが、オマーを殺した連中の素性はだいたいわかる。以前にもここの署に連行されて、俺に尋問を受けた連中だよ。名前は何て言ったかな…?」


ジャックはオマーを殺した連中を正体は何となくわかっていた。名前は思い出せないが、わかっていることは以前にもここの署に連行されて、ジャックが連中を尋問したこと。その時、連中が逮捕された経緯(いきさつ)はパキスタン人移民に暴行を加えたことだった。


「明日にでもその犯人を逮捕しなければまた今回の惨劇が繰り返されますね…」


「そうだな。明日にでも逮捕せねばならんな。だが、ブリテン・ファーストもよけいなことをしてくれる。連中のヘイトスピーチによってイギリスはレイシスト(差別主義者)が増えてしまった。ブリテン・ファーストの連中を逮捕してブタ(ばこ)(刑務所)にブチ込んでやりたいのが本音だがね」


この署でブリテン・ファーストに対して良い感情を抱いていないのは何もジョナサンやケリーだけでない。ジャックもブリテン・ファーストに対して良い感情を抱いていなかった。ジャックは黒人だ。それ故に移民や白人以外の人種に対して差別と敵意を抱く、ブリテン・ファーストに良い感情を抱かないのは無理のない話であった。


「ブリテン・ファーストは『自分達はそこらの極右団体とは訳が違う』と言っているが、嘘もいいところだよ。確かに政治の世界には右翼的な考えを持つ者は少なからず存在する。例えばフランスのマリーヌ・ル・ペンだってその一人さ。ま、ル・ペンの国民戦線はブリテン・ファーストと訳が違うかも知れんがね」


ジャックは軽く笑いながら言った。


ジョナサンとジャックが会話をしている時だった。


「オマーを殺害した犯人のことについて教えてやろうか?」


二人の背後から誰かがそう言った。二人は同時に頭を声が聞こえた方に振り向ける。そこに立っていたのは紺色の作業服を着た六十代の男性だった。


「アンソニーさん」


二人に声をかけた男性の名前はアンソニー・ウェスト。ここの署で掃除係として夜に出勤している男性だ。


「あなたが何故オマーを殺した犯人のことを知っているんだ?」


ジャックはアンソニーにオマーを殺した加害者のことを何故知っているのか、尋ねる。


「何故かって?俺が住んでいるアパートにオマーを殺した三人の一人、ランディ・ウィルソンが住んでいたんだよ。今は別なアパートに引っ越したがね。ランディは右翼の塊さ。奴は俺を含む」

アパートの住民一人一人にこんなことを言っていたよ。『偉大な英国の平和と和睦(わぼく)を乱したのは移民だ! 移民は排除せねばならんのだ!』と、ね。俺や他の住民は奴をまともに相手にしなかったがな」


アンソニーはオマー・リオを殺した暴漢三人の一人、ランディ・ウィルソンのことについて話した。ジョナサンとジャックはアンソニーの話を聞いて、ランディが危険な人物であると理解した。


「アンソニーさん。あなたはランディが今は別なアパートへ引っ越した、と言いましたよね? 彼が今、住んでいるアパートとか知っていますか? 知っているのならば教えて欲しい」


ジョナサンはアンソニーにランディが現在住んでいるアパートを知っているのならば是非教えて欲しいと頼む。


「知っているとも。だが、ただで教える訳にいかんね。俺の条件を聞き入れると言うのならば教えてやっても良いぞ」


アンソニーはジョナサンに情報提供をする代わりに、自分が持ち出した条件を聞き入れろ、と言い出した。











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