99話:お出かけ その3
食事を終えた俺たちは、車を走らせて高速道路に乗り、コ〇トコへとやって来ていた。
コ〇トコに入るには会員証か1日無料券が必要なのだが、俺が会員登録をしようと財布から免許証を出そうとしたところ、1日無料券が人数分入っていた。
きっと、ソフィア様が用意してくれたのだろう。
巨大倉庫な造りの店内を、皆でぞろぞろと歩いて見て回る。
店内にはお客さんがたくさんいて、かなり繁盛しているようだ。
皆、大きなカートを押して商品を見て歩いている。
「うおお……こりゃすげえ店だな……」
大きな棚に高さ10メートルほどにまで積まれている商品の積まったコンテナを、カルバンさんが見上げる。
皆も「おー」と声を漏らしながら、口を半開きにしてコンテナを見上げていた。
「これ、全部商品なのか?」
「ええ。ものすごい量の在庫を抱えてるみたいです」
「すげえなあ……こんだけ在庫があるってことは、全部売れる見込みがあるってことだもんな」
「毎日、すごい人数のお客さんが来ますからね。万が一にも在庫切れにならないようにしてるんじゃないかと」
「コウジ、あっちにぬいぐるみがあるよ」
チキちゃんが通路の先を指差す。
人の背丈ほどもあるクマのぬいぐるみが、巨大なカゴにすし詰めになっていた。
「おお、大きいなぁ。チキちゃん、欲しい?」
「うん……でも、荷物になっちゃうよね。あのぬいぐるみ、すごく大きいし」
「あはは、そうだね。馬車に載せて連れて回るのは、ちょっと厳しいかな」
「コウジさん、お菓子コーナーがありますよ! 行ってみましょう!」
「コウジ君、あっちには大きなテレビがあるよ!」
ノルンちゃんとネイリーさんが、別々の方向を指差す。
時間はあるので順繰り回ろうと2人を説得し、まずは家電コーナーに向かった。
大量のテレビやパソコン、洗濯機やエアコンまで、さまざまな家電が売られている。
「すごいね。この前行ったショッピングモールも驚いたけど、ここはその比じゃないよ」
ネイリーさんが試運転中の大型液晶テレビの前に立ち、感心した様子で言う。
「イーギリでもさ、こういう巨大商業施設作ったら、観光の目玉にできるんじゃない?」
「あー、確かに。マイアコットさん、やってみたらどうです?」
俺が話を振ると、マイアコットさんはこくこくと頷いた。
「それいいね! あの街、観光客なんて滅多に来ないから、来てもらえるようになれば財政も潤いそうだね」
「魔法障壁もなくなったんですし、これからはカゾからグランドホークで簡単に行き来できますもんね。きっと上手くいきますよ」
「カゾの観光客を、そのままイーギリに取り込むのですよ! 2つの街を、互いに行き来する観光コースとして定着させるのです!」
チキちゃんの腕の中から、ノルンちゃんが話に加わる。
カゾはもともと観光で成り立っている都市なので、代表のベラドンナさんに協力してもらえば宣伝してもらえるだろう。
ただ、イーギリはカゾみたいに美味しい料理や綺麗なホテルがまったくないので、そこも何とかしないといけないな。
「ベラドンナに手伝ってもらわないとだね。私たち、観光業はズブの素人だし」
「向こうに戻ったら、再会のベルで彼女に連絡するのですよ」
「あ、そっか。魔法障壁がなくなったから、魔法具で連絡ができるんだもんね」
「はい! これからは、今まで以上に2つの街が密接に協力できるはずです。私たちもお手伝いしますので! ね、コウジさん?」
ノルンちゃんが俺に、にこりと微笑む。
なんかこのやり取り、カゾでもあった気がするな。
「そうだね。またしばらくの間、お手伝いしよっか」
「いひひ。また、カゾの高級ホテルに泊まれるかもしれないのですよ。あの頬っぺたが落ちそうなくらい美味しかった料理を、また食べれるかもなのです」
「それが目的か……」
口の端によだれを光らせているノルンちゃんに、俺は苦笑する。
「あっ、いえいえ! あくまで副次的な目的ですので!」
「ほんとかなぁ。まあ、俺もまた食べたいけどさ」
「あはは。そのホテルの料理、そんなに美味しかったんだ?」
俺たちのやり取りに、マイアコットさんが笑う。
「ええ。かなり美味しかったですよ。景色は綺麗だしホテルは豪華だし、あそこは本当にいい街ですよね」
「マイアコットさんは、カゾには行ったことないんですか?」
ノルンちゃんが尋ねる。
「うん、一度も。カゾとやり取りする時は、魔法障壁の外にある連絡所から再会のベルで話してたからね。どうしても会わないと行けないときは、ベラドンナが飛んできてくれてたんだ」
「ベラドンナさん、翼がありますもんね。確かに、そのほうが効率的なのですよ」
「でも、私も一度、カゾに行ってみたいな。そんなにいいところならさ」
「そしたら、後でグランドホークで皆でカゾに遊びに行くのですよ。町興しの協力のお願いと、観光業の視察を兼ねてお泊りしましょう!」
そんな話をしながら、家電コーナーを回り終えてお菓子コーナーへと向かう。
欲しいものはなんでも買ってあげる、と俺が言うと、皆が大喜びで気になったお菓子をカートに放り込んだ。
「いろいろな種類のお菓子があるのですね……トールの街が懐かしいです」
ミントさんが果汁グミの大袋を手に、懐かしそうな顔になる。
「トールにも、そういうお菓子があったんですか?」
俺が聞くと、ミントさんはこくりと頷いた。
「はい。お菓子屋さんやケーキ屋さんなど、食べ物関係のお店がかなりありました。レストランも、たくさんありましたよ」
「そうなんですか。そういえば、ミントさんに見せてもらったお葬式の映像で街並みが少し見れましたけど、すごく綺麗でしたよね。街全体が、あんな感じだったんですか?」
「はい。景観と生活環境を第一に考えて街が作られていましたので、とても綺麗な街並みでした。緑豊かで、街全体が花に包まれていました」
「ふうん……お葬式の時はいい天気に見えましたけど、今みたいに雨ばっかりじゃなかったんですか?」
「雷の精霊と協力関係にあったので、天候も操作できていたんです。雨の降る日と晴れの日を、作物の生育状態に合わせて設定しておりました」
天空島のベルゼルさんの国もそうだが、2000年前の世界の技術水準はとてつもなく高かったようだ。
今の理想郷にそういった技術が現存していないというのも不思議だが、過去に起こった争いや、天空島で発生したという風土病のようなもので世界が衰退してしまったということなのだろうか。
こう思うのは不謹慎かもしれないが、なんとも哀愁を感じるというか、ロマンチックにも思えてしまう。
「それは暮らしやすそうですね。天候を操作する装置って、地下に埋まってたりしないんですかね?」
「あれは街の中央にあった、とても大きなタワーにあったので……採掘場には見当たりませんでしたので、現存していないと思います」
「そっか。あれば便利だったのに、残念ですね」
「コウジ。私みたいに精霊さんとお話できる人を、街で雇えばいいと思うよ」
チキちゃんが提案する。
「精霊さん、説明すれば分かってくれるから。街の上で雨が降らないようにするくらいなら、やってくれるはずだよ」
「ああ、それもそうか。マイアコットさん、魔法使いさんを役所で雇えるように、議会で提案してみたらどうです?」
マイアコットさんがすぐに頷く。
「うん。それがいいね。ネイリーさん、知り合いの魔法使いさんで、街に住んでくれそうな人っていないかな?」
マイアコットさんが話を振ると、ネイリーさんは「うーん」と唸った。
「私、根無し草だったからなぁ。行った先々で他の魔法使いと友達になっても、その後も連絡を取るような人はいないんだよね」
「そうなんだ。まあ、募集をかけて気長に待つしかないかな」
あれこれとイーギリの将来の展望を話しつつ、店内を歩き回る。
あれもこれもとカートに商品を詰め込んで、カートが半分ほど埋まったところで食品コーナーにたどり着いた。
「コウジさん! お料理だらけなのですよ! お寿司、すんごく綺麗ですよ!?」
ノルンちゃんがお寿司コーナーの棚に目を向け、チキちゃんの腕の中から身を乗り出す。
コ〇トコ特有の大容量パックで、握り寿司48貫セットやら、巨大な海鮮ちらし寿司やらと、種類が豊富だ。
お寿司コーナーは大混雑なのだが、お客さんは誰もノルンちゃんを気にしている様子はなかった。
これも、ソフィア様が手を回してくれているのだろう。
「おっ、いいねぇ。今夜はお寿司にする?」
「お寿司も、ですよ! あっちにはシュリンプカクテルもありますし、鶏の丸焼きもあります! あれもこれも食べたいのです!」
「あはは。じゃあ、たくさん買っていって、今夜は家で宴会だな!」
「おい、あっちでステーキの試食やってるぞ! 俺、食ってくるわ!」
「なんですと!? チキさん、私たちも行くのですよ!」
「うん!」
ばたばたとカルバンさんとチキちゃんが駆けて行く。
寿司、俺が適当に選んじゃっていいのだろうか。
「マイアコットさん、ミントさん。食べたいものがあったらカートに……あれ?」
俺が振り返ると、先ほどまでいたふたりの姿が消えていた。
どこへ行ったのかと辺りを見回すと、ふたりは近くにあったソーセージ売り場で試食の焼きたてソーセージを頬張っていた。
美味しさに感激しているのか、ふたりともニコニコ顔で楽しそうだ。
「あっ、ずるい! 俺も!」
俺は寿司のパックをいくつかカートに入れ、試食をいただこうとふたりの下へと向かったのだった。