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98話:お出かけ その2

 服屋で買い物を済ませた俺たちは、再び車に乗ってトンカツ屋へと向かっていた。


「えへへ。いっぱい買ってもらっちゃった」


「あはは。すごい量だね。私もだけどさ」


 買ったばかりの服に身を包んだマイアコットさんとネイリーさんの嬉しそうな声が、後部座席から聞こえてくる。

 マイアコットさんは七分袖の上が黒、下がベビーピンクの小洒落たコンビワンピースを着ている。

 整備士みたいな恰好の時は気づかなかったが、女性らしい服装になったマイアコットさんはかなりスタイルがよくて思わず見惚れてしまった。

 ネイリーさんは丸ネックの紺色の二ットウェアにベージュのスカートという、シンプルな組み合わせだ。

 当初はズボンを買おうとしていたのだが、尻尾を出す穴がないということに気付いてスカートを購入した。

 ズボンも何本か買ってあり、後で自分で穴を空けるとのことだ。

 ふたりとも、2つの大きなビニール袋いっぱいの服をお土産として購入した。


「コウジ様、すみません。私にまでこんなにたくさん……」


 白のブラウスにベージュのロングスカート姿のミントさんが、申し訳なさそうに言う。

 遠慮して1着しか選ばなかった彼女にチキちゃんとノルンちゃんがあれこれ勧めて、結局上下5着ほど服を買っていた。


「いえいえ、せっかくこっちの世界に来たんですし」


「で、ですが、やはりお金がかなりかかってしまったと思うのですが……」


「大丈夫ですよ。あっちの世界で手に入れた金貨をこっちで売って、お金なら無限に増やせますから」


 笑いながら、ミントさんに答える。


「それに、俺はあの理想郷のバグ取りが全部終わったら、理想郷に永住することになってるんです。こっちの財産は必要ないんで」


「そ、そうなのですか……」


「コウジ、もうすぐトンカツ屋さんだよ。次の信号を左」


「トン、カツ! トン、カツ!」


 カーナビを見ていたチキちゃんが、俺に声をかける。

 その膝の上では、ニコニコ顔のノルンちゃんが謎のトンカツダンスを踊っていた。


「ああ、腹減った。今日は目一杯食うぞ!」


「食うぞー!」


 カルバンさんとノルンちゃんの威勢のいい声を聞きながら、車を走らせてトンカツ屋へと向かう。

 駐車場に車を停め、皆で店へと入った。

 いらっしゃいませー、と元気な女性店員の声が俺たちを迎えてくれる。

 6人座れる大きなテーブル席へと案内され、皆で席に着いてメニューを広げた。

 テーブルに備え付けのタブレットで注文をする方式のようだ。


「俺は、この『三元豚の特上ロースカツ定食』ってのにするわ」


「私はどうしよっかなぁ……『ヒレカツステーキ膳』っての、食べてもいいかな?」


「何でも好きなのをどうぞ。マイアコットさんとミントさんはどうします?」


 カルバンさんとネイリーさんの料理をタブレットに入力し、マイアコットさんたちに目を向ける。


「んー。よく分かんないから、カルバンさんと同じのにしようかな」


「私もマイアコット様と同じ物でいいです」


「チキさん、私、カキフライを食べてみたいです!」


「うん、いいよ。カキフライ定食にするね」


「俺はミックスフライ定食にしようかな」


「はあ、いいなぁ、このお店。こういうお洒落なお店って、イーギリには1軒もないんだよね」


 マイアコットさんが店内を見渡しながら、羨ましそうに言う。


「そういえば、イーギリって食べ物の種類があんまりないですよね」


「そうなんだよ。作物自体が、あんまり育たないからさ。基本的にパンばっかりだよ」


「まあ、ノルンちゃんの力で畑は作れますし、これからは種類も増やせますよ。食事処も、支援金出して斡旋してみたらどうです?」


「うん。でも、問題は天気なんだよね。ネイリーさんがいなくなった後、どうなるかなぁ」


「それなら、ビニールハウスを作るというのはどうでしょうか?」


 ミントさんが話に加わる。


「ビニールハウス? なにそれ?」


「ビニールで全体を覆った小屋のことです。雨風を防げますし、太陽が少しでも出ていれば小屋の中は温かいので、ある程度時期を無視して作物を育てられるんです」


「ふうん……ビニールっていうのは?」


「先ほど服を買った時に、服を入れていただいた袋がビニールです。あれの分厚くて透明な物で、骨組みを覆った小屋を作るんです」


 ミントさんが簡単に説明してくれる。

 どうやら、2000年前にはビニールが存在していたようだ。


「そうなんだ。でも、そんなもの作れるかなぁ?」


「街の地下に埋まっている製造設備が無事なら、作ることができるかもしれません。原料となる石油も過去に採掘できていたので、掘れば出てくると思います」


「えっ、イーギリの地下に油田があるんですか?」


 驚く俺に、ミントさんが頷く。


「はい。あそこにトールの街が作られた理由は、地下に油田があったからですので」


「おおっ! 石油が出れば、イーギリの街はお金持ちになれますね! エネルギー革命が起きるのですよ!」


 チキちゃんに抱かれているノルンちゃんが、嬉しそうな声を上げる。


「そうだね。ミントさん、石油の精製施設もあるんですよね?」


「2000年前にはありましたが、原形をとどめているかどうか……地下を掘り進めれば街を管理していた市庁舎がありますので、そこの管理システムにアクセスできれば私が建築設計図をダウンロードできます。1からにはなりますが、他の工場も建設できるかと思います」


 ミントさんが右耳に手を当てる。

 すると、耳がパカっと取れて、中からUSBケーブルのようなものがしゅるっと出てきた。

 まるで蛇のように、うねうねと動いている。


「うわ!? な、なにそれ!?」


 ミントさんの隣にいたネイリーさんが、ぎょっと目を剥く。

 俺たちも、突然のことに全員が驚いて声を上げた。


「通信ケーブルです。これを市庁舎の管理装置に接続できれば、無線通信よりも高速でデータをダウンロードできます」


「そ、そうなんだ……おお、中でなにかピコピコ光ってる……」


 ネイリーさんがミントさんの頭の中を覗きながら言う。

 ケーブルがミントさんの頭の中にするすると戻り、ミントさんが耳をはめた。

 はめた耳の部分に切れ目などは一切なく、完全に一体化しているように見えるのがすごい。

 いったいどういう仕組みになっているのだろうか。

 そんな話をしていると、店員さんが料理を運んで来てくれた。

 皆でいただきますをし、早速箸をつける。

 例によって、箸を使うのは俺とチキちゃんだけだ。

 他の皆には、フォークとスプーンを用意してもらった。


「もぐもぐ……んんっ!? うまっ!? これ、めちゃうまじゃん!」


 トンカツを頬張ったマイアコットさんが目を見開く。


「だろ? この国の食べ物、何を食ってもめちゃくちゃ美味いんだよ」


 ガツガツとトンカツを頬張りながら、カルバンさんがにっと笑う。

 チキちゃんも、頬をぱんぱんにしてカキフライと白米を食べながら頷いている。

 ノルンちゃんは小皿に分けられたカキフライを、両手で抱えるようにしてかぶりついていた。

 チキちゃんが気を利かせて箸で半分に切ってくれており、きちんと中身を食べることができているようだ。


「ミントさん、どうです?」


「もぐもぐ……美味しいです。ビタミンとたんぱく質が豊富で、優秀なエネルギー源ですね」


 サクサクとトンカツを齧るミントさん。

 そういえば、彼女の体は機械なのだけれど、食べたものはすべてエネルギーに変換できるということなのだろうか。

 どういった仕組みで動いているのか、少し気になるところだ。


「はあ、ひさしぶりのお肉だよ」


「はは。ネイリーさん、肉食ですもんね」


「うん。パンも嫌いじゃないけど、やっぱり食べるならお肉だよね!」


 そんな話をしながら、俺たちは楽しく食事を続けたのだった。

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