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95話:機械の体

「――はっ!?」


 唐突に戻ったような意識の感覚に、俺は目を見開いた。

 目に映るのは、見慣れた染みだらけの天井だ。

 いつものように一拍置いて、部屋の中に無数の光が現れた。

 ノルンちゃん(小人サイズ)、チキちゃん、カルバンさん、ネイリーさん、マイアコットさん、そしてミントさんだ。

 ノルンちゃんはちゃぶ台の上に、他の皆は畳の上に横たわっていた。

 全員がのそりと身を起こした。


「おお、また戻って来たのか」


 カルバンさんがきょろきょろと部屋を見渡す。

 ちゃぶ台上の小人なノルンちゃんが、ぴょこんと立ち上がった。


「何だか久しぶりですね! コウジさん、お腹が空きました! 外食しに行きませんか?」


「うん、いいよ。何食べたい?」


「焼き肉を食べてみたいです! コウジさんが学生時代に、炭火を使うお店でお肉をもりもり食べているのを、天界で見ていたのですよ!」


「おおっ、いいね! イーギリじゃ、毎日野菜とパンだったもんね」


「おっしゃ! そうと決まれば、すぐに行こうぜ!」


 カルバンさんが嬉しそうに立ち上がって廊下に向かう。

 廊下には俺たちの荷物が一緒に転送されてきていて、カルバンさんはその中から自分のバッグを手に取って服を取り出した。

 以前、こちらで買った洋服に着替えるようだ。


「コウジ、私、アニメ見たい。羽ばたき飛行機械が出てくるやつ」


 チキちゃんが俺の服の裾を引っ張る。


「あ、そんなことも言ってたね。パソコンで見れるから、食事して帰ってきたら見せてあげるよ」


「うん。あと、この人数だとコウジの車には全員乗れないよ? またバスで行くの?」


「あー、確かに。もう、いっそのこと車を買い替えちゃったほうがいいのかな……」


「コウジ君、それなら私は魔法で飛んで行こっか?」


「ダメですって。ソフィア様に、こっちじゃ魔法を使うなって言われたじゃないですか」


「あ、あのさ、事態がまったく把握できてないんだけど……」


 わいわいと話す俺たちに、マイアコットさんがおずおずと声をかけてきた。

 ミントさんは黙って畳の上に座ったまま、俺たちの様子を眺めている。


「あ、すみません。ここ、前に話した地球っていう場所なんですよ」


「ええと……私たちが住んでる世界の、外の世界だっけ?」


「はい、そうです。で、そこにあるのが、さっきまで俺たちがいた理想郷ですね」


 俺は部屋の隅にある理想郷を指差した。

 マイアコットさんが四つん這いで、それに這い寄る。

 俺も立ち上がり、それに近寄る。

 ドーム状のそれは相変わらず青白く光り輝いていて、中にはミニチュアサイズの世界が広がっている。

 映し出されている情景の中心には、イーギリの街があるようだ。


「わっ、すごい。これ、イーギリの街だよね?」


「ですね。あ! 触ると吸い込まれちゃうことがあるんで、触らないでおいてもらえると!」


 思わず手で触れようとするマイアコットさんを、俺は慌てて止めた。

 前に俺が触った時は、すさまじい吸引力で中に引きずり込まれてしまった。

 せっかくこちらの世界に来たというのに、いきなり帰ってしまうのはすごくもったいない。

 どうせなら、あちこち見て回ってもらいたいところだ。


「これが、先ほどまでいた世界なのですか……」


 いつの間にか隣にきていたミントさんが、理想郷を見下ろして言う。

 ふわりと、優しい甘い香りが俺の鼻腔をくすぐった。


「これ、どうなっているんですか? 原理がさっぱりわかりません……」


「ええと、神様の持ってる力がどうのってノルンちゃんが……って、ミントさん?」


「はい?」


「影、ありますけど……」


「えっ?」


 理想郷にミントさんの影がかかっていることに気付き、俺は驚いてミントさんを見上げた。

 ゴスロリ服姿のミントさんは半透明ではなく、向こう側の景色も空けていない。

 ミントさんは自身の体を見回し、驚いた顔になった。


「こ、これは……2000年前に使っていた、機械の体ですね。地下に埋まっているはずなのに……」


「何だ? 埋まってる体まで、こっちに転送されてきたってことか?」


 カルバンさんが不思議そうに言う。


「わかりません……それに、この体は壊れていて動かせる状態にはないはずだったんです。どういうことなのでしょうか……」


 不思議そうに言うミントさん。

 機械の体とは言うが、見たところ普通の人間とそっくりだ。

 ずっと地下に埋まっていたというのに、まったく劣化していないんだな。


「なんかよくわからないけど、よかったんじゃない? 問題なく使えるんでしょ?」


 やり取りを見ていたマイアコットさんが言う。


「まあ、そうですね。よくわかんないですけど。ノルンちゃん、これって、ソフィア様が何やってくれたのかな?」


 ちゃぶ台の上にいるノルンちゃんに、俺は目を向けた。

 畳に下りようとしてちゃぶ台の隅から下を窺っているところのようだ。


「ぬおお、相変わらず、すごい高さ……あ、はい! 何ですか?」


「ミントさん、機械の体があるんだけど、これってソフィア様がやってくれたのかなって」


「んー、どうでしょう。バグのせいかもしれませんし、ソフィア様のお力添えかもしれないですね」


「そっか。まあ、体があったほうが便利だろうし、これはこれでいいかな?」


「はい! ミントさん、その体なら食事もできるんですよね?」


 よっと、とノルンちゃんが畳に飛び降り、俺たちの下へと駆けてくる。


「はい。処理機能も正常に動作しているようですので、一定量でしたら摂取することができると思います」


「ふむふむ。なら、ミントさんも楽しく食事ができますね! 2000年ぶりのお食事なのですよ!」


「あっ、そういうことになりますね。食事、すごくひさしぶりです……」


「……あ、あのさ。さっきから気になってたんだけど」


 それまで、俺たちのやりとりを見ていたマイアコットさんが、口を挟む。


「ミントさん、この部屋にきてからすごく感情が豊かに見えるんだけど……感情システムってやつ、オンになってるんじゃない?」


「え?」


 ミントさんが驚いた顔になった。

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