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94話:求めていた景色

 街なかの適当な空き地に飛空艇を着陸させ、俺たちは遺物採掘場へとぞろぞろ歩いていた。

 ミントさんは先に行っているとのことで、今は姿を消している。

 彼女はこの街の中ならば、どこにでも瞬時に移動できるとのことだ。

 ポンスケ君とリルちゃんは、夕飯の支度をするとのことで先に家に帰っている。


「暗くなってきちゃいましたねー」


 日が落ちて薄暗くなっている街並みを眺めながら、ノルンちゃんが言う。


「それにしても、転送装置なんて便利なものがあるとは驚きですね。魔法障壁もなくなりましたし、これからはこの街はどんどん発展しそうなのですよ」


 ノルンちゃんの言葉に、マイアコットさんが嬉しそうに頷く。


「うん! 石炭ってすごく重いからさ、輸送が大変だったんだよ。輸送費が浮くのは、本当にありがたいなぁ。これでカゾにも転送装置があれば、もっと楽ちんなんだけど」


「それなら、ベルゼルさんのロボットを使わせてもらったらどうですか?」


「ロボット? 天空島で襲われたって言ってたやつ?」


「はい。半自律型とかいう仕組みのものってベルゼルさんは言ってました。両腕から翼が生えて、ばーって空を飛べるのです。結構力があるように見えたのですよ」


 ノルンちゃんが両手を広げて、その様子を真似して見せる。

 確かに、あのロボットだったら首から荷物をぶら下げて飛ぶことくらいわけなさそうだ。

 かなり数がいたはずだし、あっという間にイーギリとカゾを往復できるように思える。


「でも、あのロボットはおっかなかったなぁ。危うく殺されかけたもんな」


 カルバンさんが言うと、ネイリーさんも「うんうん」と頷いた。


「ねー。私も、あの時は本当に死ぬかと思ったよ」


「だなぁ。まあ、魔法使いさんがいてくれなかったら、ロボットの前に虹鯉の自爆で全員黒焦げになってたよな」


「あはは、そうだね。あの虹鯉も、荷物運びに使えたりするかな?」


 だらだらとしゃべりながら、採掘場へとやって来た。

 いまだに採掘作業は進められているようで、複数の煌々とヘッドライトを輝かせた採掘機――リディア・タイプ3――が地面を掘り返している。


「おお、まだ作業してるのか」


「皆、働き者だね。ミントさん、どこかな?」


 チキちゃんがとてとてと坂を駆け下りていく。

 俺たちもそれに続いた。


「おーい! 採掘はどんな具合?」


 マイアコットさんが作業員の1人に話しかける。

 どうやら、地面から掘り出した品々を建屋の中に運び込んでいるようだ。


「ものすごく順調だよ。採掘機のおかげで、次から次へに古代の店が見つかってさ」


 ほれ、と作業員が金属の箱をマイアコットさんに手渡す。


「これなに?」


「放送局で使ってる、発信用水晶だよ。たっぷり入ってるぞ」


「えっ! 水晶が見つかったんだ! すごいね!」


 ぱっと表情を綻ばせるマイアコットさん。

 確か、その水晶はかなり貴重品で在庫がほとんどないという話だった。

 カゾの街では、スピーカーに使われている受信用水晶が不具合のある状態で使われていた記憶がある。


「おう。専門店を掘り当ててさ。受信用水晶も、どっさり出て来たんだ」


 作業員さんが視線を向ける先には、同じような金属の箱が山積みになっていた。

 かなりの数がありそうだ。


「おおっ! マイアコットさん、よかったですね!」


「確か、水晶ってかなりお高いんですよね? これで大儲け間違いなしですね!」


 俺とノルンちゃんが言うと、マイアコットさんは嬉しそうに俺たちに振り向いた。


「うん! これで、カゾにもまた出荷できるよ。ベラドンナも困ってたから、きっと喜んでくれると思う」


「ねえ、これはなに?」


 山積みになっている品物の前でかがんでいたチキちゃんが、その中から小さな塊を取り出した。

 親指くらいの大きさで、ギザギザの歯車が付いた棒が1本飛び出している。


「あ、それってモーターじゃない?」


 俺はチキちゃんからそれを受け取ってよく見てみる。

 子供の頃に、ミニ四駆の組み立てで使ったモーターとそっくりだった。


「モーターってなに?」


「んと、これに電気を流すと、この先の歯車が回るんだ。乗り物の動力に使われてたりするね」


「そうなんだ。自動車とかも、これで動かせるの?」


「詳しいことは分からないけど、これの大きなやつがあればできたりするのかな? 自動車の中身ってどうなってるんだろ」


 俺たちの話を聞き、マイアコットさんが興味深そうにモーターを眺める。


「へえ、そんなものまで出てきたんだ。これは宝の山だね」


「同じようなものもたくさん出てきたぞ。あと、乗り物の設計図も別の場所で出たらしい。見に行ってみたらどうだい?」


 作業員さんの言葉に、マイアコットさんが笑顔で頷く。


「うん、そうする! あと、ミントさん見てない? 半透明に透けてる女の子で、フリフリの服を着てるんだけど」


「ああ、その娘だったら俺も会ったぞ」


「そうなんだ。何て言ってた?」


「どこをどれくらい掘れば何があるかってのを、細かく教えてくれたんだ。おかげで、採掘がかなり楽になってさ」


 作業員さんが嬉しそうな表情で言う。


「んで、少し話したらぱっと消えちまってさ。本当に驚いたよ」


「そっか。なら、歩いてればそのうち会えるかな。コウジ君、行こっか」


 作業員さんに別れを告げ、俺たちは採掘場を歩き出した。

 あちこちでたくさんの物が掘り出されているようで、真っ暗な中で作業しているにも関わらず、作業員さんたちは皆がニコニコ顔だ。


「すごいね。半日くらいしか経ってないのに、いろんなものが掘り出されてるね」


 そこかしこに山積みになっている品物を見て、チキちゃんが感心した様子で言う。


「そうだね。きっと、まだ見たことのない機械とかが……あっ! ミントさん! おーい!」


 停まっているシャベル付きのスチームウォーカーに座っているミントさんを見つけて、俺は声をかけた。

 ミントさん、足をぷらぷらさせながら、採掘作業をしている作業員さんたちを見ていたようだ。

 彼女は俺たちに気付くと、次の瞬間、その姿がブレた。

 その場からぱっと消えて、一瞬で俺たちの目の前に姿を現す。

 何度見ても、すごいテクノロジーだ。


「皆様、お待ちしておりました」


 ミントさんがぺこりと頭を下げる。

 先ほどの足をぷらぷらさせていた姿、すごく可愛かったな。


「ミントさん、作業員さんたちに埋まっているものの場所を教えてくれたんですって?」


「はい。記憶にあった商店の場所をお教えしました。以前と変わらない場所に、それらの建物はあったようですね」


「ええ。おかげさまで、いろんなものが掘り出せてるみたいです」


「ミントさん、転送装置の場所は分かったの?」


 マイアコットさんがミントさんに問いかける。


「はい。そこの地下約100メートルの位置に埋まっています」


 ミントさんが、すぐ目の前の地面に目を向ける。


「ひゃ、100メートル? ずいぶん深いんだね」


「転送装置は地下の専用施設にて運用されておりましたので」


「そっか。それだと、そこまで掘り進むのにはもうしばらくかかりそうだね」


 少し残念そうに言うマイアコットさん。

 掘り進むにしても周囲が崩れないように処理しながら作業を進めないといけないし、採掘機があってもしばらく日数がかかりそうだ。


「マイアコットさん、安全第一でのんびりやるのですよ」


 ノルンちゃんがマイアコットさんににぱっと微笑む。


「それまでの間、私たちも作業をお手伝いします。ね、コウジさん?」


「もちろん。マイアコットさんの家の屋根の修理もしないといけないし、畑ももっと大きくしたいしね」


 俺たちが言うと、マイアコットさんは嬉しそうに微笑んだ。


「ありがと! 野菜や果物、皆すっごく喜んでたからさ。もっと畑を広げてくれるって言ったら、皆きっと大喜びだよ。屋根の修理も、本当にありがとね!」


「んじゃあ、明日から早速本格的な屋根の修理に取り掛かるか」


「カルバン、屋根の材料がまだ届いてないよ」


「材料なら明日届くことになってるよ。私も手伝うから、ぱぱっとやっちゃおっか!」


 皆でわいわいと話している姿を、ミントさんがじっと見つめている。

 俺がそれに気付いて小首を傾げると、ミントさんは俺ににこりと微笑んだ。


「この街の皆さんは、仲良しで一生懸命で、とても素敵ですね。またこんな光景が見れるなんて、思いませんでした」


 ミントさんが優しい笑顔で言う。

 そういえば、この街は昔、外の人たちから敵対されていたのだった。

 争いがあったともミントさんは言っていたし、この街にいた人々は怯えながら生活していたのかもしれないな。


「今のこの光景を、あの人にも見て貰いたかったです。きっと、喜んでくれたでしょう」


「ミントさんのパートナー……ペンネルさん、ですか?」


「はい」


 ミントさんが少し寂し気な雰囲気になる。

 彼女は感情システムをオフにしてある、という話だったけど、やはり感情があるように俺には見えるんだけどな。

 涙を流したりもするし、感情が少し漏れ出ている状態なのかもしれない。


「彼は私に『この街の行く末を見守ってほしい』といいました。きっと、今のこの街のような姿を、彼は自分の代わりに私に見てもらいたかったのかもしれませんね」


 ミントさんがそう言った時、突然、俺やノルンちゃんやチキちゃん、さらにはマイアコットさんやミントさんの体までが、激しく輝き出した。

 ミントさん以外の皆が、ぎょっとして自分の体を見る。


「あわわ! コウジさん、帰還の光なのですよ!」


「ミントさんまで光ってるけど大丈夫なのこれ!?」


「これは……システムには何の警告も――」


 ミントさんが怪訝な顔でそう言った時、光がいっそう強くなり、目の前が真っ白になった。

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