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80話:屋根の修理(察し)

 果物&野菜の無料配布を行う、とマイアコットさんが街中に知らせて回ると、すぐに大勢の人々が採掘場へとやって来た。

 皆でせっせと収穫した野菜が地面に山積みになっていて、俺たちはそれをバッグに詰めては、行列を作っている人たち順番に配っている状況だ。

 バッグは、ノルンちゃんの髪の毛から作った薄緑色のものだ。


「はい、どうぞ。明日はもっと収穫できますから、取りに来てくださいね!」


「ありがとう!」


 イチゴやリンゴ、トマトやキュウリがたくさん入ったバッグを受け取り、皆ニコニコ顔だ。

 この辺りでは果物が手に入らないとのことで、特に果物のウケがいい。


「イチゴの売れ行きがすごいね。足りなくなっちゃいそうだ」


「ですね! ブルーベリーも大人気なのですよ!」


 イチゴやブルーベリーといった小粒でそのまま食べられるものが特に人気で、皆が味見をしては「たくさんちょうだい!」とバッグにたくさん入れて持って帰っている。

 

「チキちゃーん! イチゴはまだ生ってる?」


 イチゴ畑で街の人たちと何やら立ち話をしているチキちゃんに声をかける。

 チキちゃんは鉛筆を手に、ふむふむと頷きながらメモ帳に何やら書き込んでいた。

 何の話をしているのだろうか。

 チキちゃんが俺に顔を向ける。


「うん。三分の一くらい、まだ生ってるよ」


「全部収穫しちゃって! 足りなくなりそう!」


「うん」


 チキちゃんはメモ帳をポケットにしまうと、足元のカゴを拾い上げてイチゴを収穫し始めた。


「マイアコットさん、精霊発電機のことなんですけど」


 人々にバッグを手渡しながら、俺はマイアコットさんに話しかける。


「博物館の中にも、そういった資料はないんですか?」


「うん、見たことないね。あの博物館って、古代都市でも骨董品を展示してるような施設みたいでさ」


「そうですか。でも、発電機っていうくらいだから、電気を作る機械でしょうね……あ、電気って分かります?」


「雷とかの、バチバチしてるやつだよね?」


「ええ、そうです。こっちの世界って、電気を使う技術はないんですか? 電気で機械を動かしたり、明かりを灯したりするんですけど」


「そういうのは聞いたことないなぁ。何を動かすにも蒸気機関だよ」


 どうやら、こちらの世界には電気技術が存在しないらしい。

 カゾでは明かりはすべてガス灯だったし、イーギリでもそれは同じだ。

 電気がなくてもこうして不自由なく生活できているというのは、なんだか新鮮に感じる。


「電気を使うと、もっと便利になるってこと?」


「だと思います。俺の世界でも昔は蒸気機関が流行ってたんですけど、電気技術にほとんど取って代わられてしまったので」


「そうなんだ。精霊発電機が使えるようになったら、どんなふうに世界が変るのか楽しみだなぁ!」


 わくわくした顔でマイアコットさんが言う。

 俺としても、世界の技術革新にリアルタイムで立ち会えるのはかなり楽しみだ。

 次に現世に戻った際に、自動車や工作機械の設計図を探してみるのも面白いかもしれない。


「ネイリーさん、さっきの話の続きなんですけど、雷の精霊さんたちは何て言ってたんです?」


「んとね、精霊発電機を掘り出してもらいたくて、そのために山の石炭採掘を邪魔してるんだってさ」


「邪魔、ですか」


「うん。街の人たちが石炭を使ってたら、自分たちの出番がいつまでもこないって思ってるみたいなの」


 どうやら、雷の精霊さんたちは自分たちの仕事欲しさに山で暴れているらしい。

 となると、やはりマイアコットさんたちの両親が亡くなった崩落事故の原因は、雷の精霊さんたちなのかもしれない。

 落雷が原因で崩落事故が起こったのかまでは定かではないが、原因を突き止めるのはやめておいた方がいいように思えた。


「精霊発電機が掘り出されるまでは、山から動くつもりはないんだって。掘り出されたら、皆ここに集まってくると思うよ」


「えっ。集まってくるって、それだと危なくないですか? この辺にいる人たち、感電死しますよね?」


「あ、それは大丈夫だよ。精霊さんたちも、常にバチバチしてるわけじゃないから。近づいてきても、誰も見えないと思う」


「そうなんですか。魔法障壁があるから、ネイリーさんも見れないんですよね?」


「うん。障壁さえなければなぁ……」


 ネイリーさんが恨めしそうに空を見上げる。

 魔法障壁はイーギリの街をぐるっと取り囲んでおり、上空はドーム状になっているとのことだ。

 魔法障壁さえなければ、この場でネイリーさんにあれこれやってもらえるのに、なんとももどかしい。


「そういえば、なんで魔法障壁なんてものがあるんでしょうね? 人為的に作られたものなのでしょうか?」


 隣で野菜を配っていたノルンちゃんが、話にまざる。


「精霊発電機の件もそうですし、雷の精霊さんに聞いてみてはいかがでしょうか。何かわかるかもしれませんよ」


 確かに、ノルンちゃんの言うことも気になる。

 魔法障壁を取り除く手段が見つかるかもしれないし。


「そうだね。ネイリーさん、発電機の件が片付いたら、聞いてみてもらってもいいですか?」


「うん、いいよ。今からまたカゾに行って、積乱雲のとこにいる雷の精霊さんにお願いしてみようか?」


「あ、そこまではいいですよ。行ったり来たりは大変ですし、当面の方向性は決まりましたから。のんびりやりましょう」


「ん、了解。それじゃ、しばらくはまたファーマーをやりましょっか」


 その後、俺たちは街の人たちに野菜と果物を配り、再び畑仕事に精を出すのだった。




 その日の夜。

 せっせと畑仕事で汗水たらした俺とカルバンさんは、ゴリちゃんの傍で焚火を囲んで酒を飲んでいた。

 カルバンさんはウイスキー、俺は缶ビールだ。

 チキちゃんやノルンちゃんたち女性陣は、ゴリちゃんの中にお湯を持ち込んで体を拭いている。

 俺たちは先に拭かせてもらい、服も洗濯済みのものに着替え済みだ。

 汚れた衣服は、明日の朝チキちゃんが洗濯してくれる。

 旅の途中も、いつもチキちゃんが皆の分の洗濯をこなしてくれていた。


「しっかし、たった2日で、よくもまぁこんなにたくさん畑を広げたもんだな」


 ちびりちびりとウイスキーを飲みながら、先日の2倍近くに広がった即席農園を眺めるカルバンさん。


「女神さんがいなくなっても、畑はこのまま維持できるのかね?」


「どうでしょう? でも、この土地自体が栽培には向いていないってノルンちゃんが言ってましたし、難しいかもしれないですね」


 俺が言うと、カルバンさんが少し残念そうな顔になった。


「そうか。かなりもったいねえよな。せっかくここまで広げたんだから、このまま維持したいもんだよ」


「それはそうですけど、ここら辺は遺物の採掘をするんでしょうし、ずっと畑っていうのも無理ですよ。邪魔になっちゃいますもん」


「ああ、それもそうか。となると、街じゃまた野菜と果物が手に入らなくなるよな。精霊発電機の採掘が終わったら別の場所に農園を作ったほうがよさそうだ」


「ですね。皆さん喜んでくれるでしょうし、ひと段落ついたらやりましょうか」


「おう。野菜と果物であんなに喜ぶなんて、街の連中が可哀そうでさ。外食するにもほとんど店はないし、これじゃあちょっとな」


「食が豊かになれば、街の雰囲気ももっと明るくなるかもですね」


「だな。どうせなら、カゾから動物も融通してもらって、畜産もできるように手助けしてみようや」


「なんか、俺たち開拓団みたいになってきましたね」


 そうして談笑していると、ゴリちゃんの中からチキちゃんが出てきた。

 ててっと小走りで、俺の下へやって来る。


「おかえり。さっぱりした?」


「うん。汗でベトベトだったから、すごくさっぱりしたよ」


 ニコッと微笑むチキちゃん。

 相変わらず可愛い。


「あのね、さっきネイリーさんが言ってたんだけど、明日またこの辺は大雨になるらしいよ」


「えっ、そうなの? 精霊さんに聞いたのかな?」


「うん、カゾで聞いてきたみたい。土砂降りになるんだって」


「それは大変だ。屋根、明日の朝になったら補強したほうがいいね」


「ううん。ノルン様が今夜中に、家の屋根を髪の毛のシートで覆っちゃうって言ってた。コウジにも手伝って欲しいんだって」


「シート? それで大丈夫なの?」


「一日くらいなら大丈夫みたい。ニ、三日でボロボロになっちゃうから、雨が止んだら片づけるって言ってた」


 ノルンちゃんの髪の毛は万能で、極細の蔓に変化して服を作ったり毛布を作ったりすることができる。

 かなり丈夫な代物なのだが、ノルンちゃんから分離した状態では、あまり長持ちしないのだろう。

 もしかすると、ノルンちゃんは自分の服を毎日新しい物にこっそり取り換えているのかもしれないな。


「お、お待たせしましたっ!」


 話を聞いていると、ゴリちゃんの中からノルンちゃんたちが出てきた。

 なぜかノルンちゃんの表情が強張っている。

 対して、ネイリーさんとマイアコットさんはニヤニヤしていた。


「ノルンさん、頑張ってね!」


「が、頑張りますっ!」


「あの屋根の大きさだと、終わるのは朝になっちゃうかな?」


「なっちゃいます!」


 ニヤつきながら言うマイアコットさんとネイリーさん。

 ノルンちゃんはカチコチに緊張している。


「……」


 ちらりとチキちゃんを見ると、俺を見上げていたチキちゃんがこくこくと頷いた。

 つまり、そういうことらしい。

 それでいいのかキミは。


「え、ええと……ノルンちゃん、行こっか」


「は、はひっ!」


 素っ頓狂な声で返事をするノルンちゃん。

 俺たちを見ていたカルバンさんも、意味を察したようで苦笑している。


「ノルンさん、しっかりね!」


「ノルン様、コウジに任せておけば大丈夫だから」


「はい!」


「は、はは……ノルンちゃん、行こっか」


「よろしくお願いします!」

 

 びしっと姿勢を正して俺に頭を下げるノルンちゃん。

 先ほどの屋根のくだりは必要だったのかと俺は思いながら、ノルンちゃんと並んで歩き出すのだった。

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